Cr2-8
あれ以来、
茶会が開かれることはなかったが。
ファーラン自らが、シェライアたちの元を
何度か訪ねてくる事はあった。
その手には、綺麗な帯に巻かれた
焼き菓子の箱を持って。
差し入れという形ならば、と。
考えたのは、レイラの入れ知恵であると
窺えるのだが。
素直に実行する健気な姿勢と
可憐さに、シェライアは
心を打たれてしまうが。
当の本人は、いずれも素っ気ない態度で。
そんな彼に怯えながらも、ふわふわと笑い。
“少しでも、疲れが癒えますように”、と。
彼女に箱を手渡して、去っていく。
流石に不憫に思えて、提案する。
「ファーランを、私の部屋へ
招いてはどうかしら。」
かなり譲歩した考えだと思うが。
ファーランの名を紡ぐだけで、なぜ。
そこまで不機嫌になるのか。
「······何の為に?」
今まで差し入れされた焼き菓子すら、
手につけない始末である。
「差し入れてくれた焼き菓子、
とても美味しいのよ。
ファーランの手作りだと思うわ。」
「それは良かったな。」
他人事ね。
「ほぼ、あなた宛のお菓子なのだけど。」
「焼き菓子は得意じゃない。」
パンなら、いいのかしら。
「砕けて話せたら、きっと······」
「友人が増えて良かったな。」
······
もうっ!
「ファーランは、あなたと話したいのよ。
分かっているでしょう?」
「母上の差し金だろうが。うんざりする。」
「差し金とか、そんなのじゃなくて。
まずは、話してみても良いと思うけど。」
「話すことは何もない。」
睨み上げる彼女を、彼は冷ややかに見下ろす。
いつの間に、こんな。
身長差ができたのだろう。
それが今になって、恨めしい。
「一口でも、食べなさい。美味しいから。」
「いらん。」
「食べ物に罪はないでしょう?」
「何が入っているか分からん。」
「毒なんて入ってないわよっ!」
「取り入ろうとする魂胆が気に入らん。
血統を残すだけの婚約だというのに。」
なんてことを。
「······本気で、言っているの?」
「父上も母上も。
ダナントの血統が大事なのだ。
俺の意思は、何も関係ない。」
どうして、そこまで。
「······そんな、
悲しいこと言うなんて······」
「気休めなら、干渉するな。」
そこまで頑なだと。
内に燃やす願望とは、何なのか。
気になってくる。
そして、一歩も譲らない彼の姿勢は。
何かを、必死で護っているようにも
見えてくる。
探るような視線に変えると。
察知した彼は、ふいっと逸らした。
「······そういえば、
あなたの願望って、何?」
「聞いて、どうする。」
彼女は、目を見ようとするが。
彼は、ひらりと躱す。
「教えて。」
「必要ないだろうが。」
「もしかして、他に想う人がいるとか?」
脈絡がないが、鎌をかけてみる。
すると。
「······関係ない。」
妙な間が空いて、返ってくる。
言葉数が、極端に減ったのも。
それが、彼女には。
意外と遠くはなかったと確信に至り。
身を乗り出して、無理矢理彼の視界に入る。
「そうなら、ダナント卿と夫人に
はっきり伝えるべきよ。
今なら遅くないわ。」
息子が心から想う相手ならば、絶対に。
ダナント卿たちは、受け入れてくれるはず。
「······」
確信めいた彼女の視線を、彼は
じっと捉えて。
呆れたように綻ぶ。
「······本当に、お目出度いな。お前は。」




