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シェライアは、再度
深いため息をつく。
結局は。願いとして抱いているだけで、
歯止めを効かす選択肢を取るだろう。
思ったところで、恐らく私は。
制御するのは、紛れもなく。
自分自身という存在を、自覚しているから。
それは、無意識に。刷り込まれている。
私は、『エ・ルミィス』。一族長の娘。
今まで歩んできた、
先人たちの血の記憶が。
自然と人との架け橋である事を、呼び起こす。
あぁ。これは、もう。
この呪縛は、解けない。
私が、『エ・ルミィス』である限り。
一生、匿われたままで過ごすんだわ。
考えれば考える程、ため息が漏れる。
一人でいる、この時間だけ。
曝け出さなければ、どうかなりそう。
誕生日だというのに、嬉しくないなんて。
トウマに言ったら、きっと······
ガタガタ、と。
窓の硝子が、震えた。
常人なら、強い風が吹いていると
思うところであるが。
彼女が認識するものは、違う。
さえずりの声と。
硝子を叩く音。
真っ直ぐな瞳に映る、金色の小鳥。
その存在は、シェライアの表情を和らげた。
錠を外し、窓を開けると
風とともに、その鳥は
ふわりとシェライアの手首に乗る。
恭しく小さな頭を何度も振ると、
小さな嘴が開いた。
“誕生日おめでとう。シェライア。”
馴染みのある声が、彼女の耳に届く。
曇らせていた眉間は、柔らかく広がり。
きつく結んでいた唇は、解けて緩んだ。
「······ありがとう。トイアール。」
彼女が紡いだ言葉を、小鳥は
飲み込むように頭を下げると。
ふわりと羽ばたき、外へ飛んでいった。
毎年、祝いの言葉を届けてくれる小鳥。
それの主である彼は、同族である。
年は二つ上だが、彼の考え方は
私と似ているところがある。
彼になら、心の内を打ち明けてもいいかと
何度も思ったが、止めた。
何気ない一言でも。
拾われて、皆に発覚してしまったら。
そう考えると、彼にまで
迷惑を掛けてしまうのでは、と。
勝手に、歯止めが効く。
そこで浮かぶ、もう一人の名前。
彼女と同じ日、同じ時間に生まれた者がいた。
その少年の名は、トウマという。
シェライアと、血の繋がりはない。
同族でもない。
しかし、彼は。このマグリヤ国の教皇・
ダナント卿の息子。そして。
私を身近で護る、近衛騎士。
彼に、なら。
打ち明けてみようかな、と。
悩んで、悩んで、今日という日を迎えた。
彼は、口が堅いし。というより、
あまり喋らないけど。
一緒にいる時間が、誰よりも長いから。
どんな性格なのか、気質なのか。
言葉を交わさなくても、見えるところがある。
16歳になったんだもの。
成人に、なるんだから。
ずっと、燻るだけで過ごすなんて。
もう、うんざり。
そうよ。叶わなくたって、話すくらいなら。
きっと、許してくれるわ。
血に縛られず、飛び立ちたい。
見知らぬ世界を、踏破したい。
それは、シェライアの小さな願いだった。
一般的には、普通のことでも。
彼女にとっては、とてつもなく大きい。
自分自身の苦楽を身近で目にしてきた彼に、
それを打ち明けるだけでも。
とても、貴重な一歩だった。




