Cr1-13
皆の、切なる願いを受けつつ。
モルドワイルは、真摯に説いた。
「この樹海の聖域と、ダナント卿の
厚い信頼と支援があって、
一族は平穏無事に暮らせているのだ。
私ら一家が矢面に立つことは、
皆の安全と一族の繁栄を護ることになる。」
しんと、静まる。
皆、理解している。だが、その為に
危険な目に遭うのは。
そう心を痛める皆の表情を見据え、
シェライアは息を整える。
今よ。今、伝えるべきだわ。
彼女は、手を挙げた。
「私は、ダナント卿の御子息とともに
ランドーラへ参ります。
歪んだ術式に屈せず。
私たちを支配することはできないと、
強い意思表示をする為に。
······私は、一族の在り方を変えたい。
『エ・ルミィス』と呼ばれ、
翻弄される生き方を。」
しっかりと紡ぐ娘の姿に。
二人は、驚きながらも
口を挟まず聞き入れる。
皆も。凛とした彼女の姿勢を、
真っ直ぐに捉えていた。
「私たちは、精霊のように。
自由で在るべきよ。かつて、大陸を
渡り歩いていた時のように。
恩恵を、感じられるように。」
理想に過ぎないと、諦めるよりも。
一欠片の希望を見据えて、歩く。
「その時まで、待っていて。
家族を護る為に、皆尽力してほしい。
······お父さま、お母さま。お願いです。
私を、行かせてください。
危険なのは承知の上です。
でも、ここで踏み出さなければ
一族は、衰退してしまう。
歪んだ力に、翻弄される。
そんな行く末を、辿りたくない。」
手が、震える。
それを、もう一方の手で抑え込み。耐える。
静まり返る中、言葉を落としたのは。
ずっと口を開かずにいた、
アーレシアだった。
「······あなたが、そう告げるならば。
巫女である私の名において、支えます。」
その言葉に。
彼女は、大きく目を見開く。
そして、先程まで、
不安そうにしていた母親の表情は。
小さくも、明るさが浮かんでいた。
“巫女である名において。”
その一言には。一族にとって、
かなりの効力がある。
それを告げて、賛成してくれるとは。
彼女自身、全く予測していなかった。
一番反対されると思っていた、母親に。
背中を押されるなんて。
そして、彼女と同じく
その一言の意味を重きとする皆も。
押し黙るしかなかった。
賛成も、反対も。
もう、訴えることはできない。
「······明日の、ダナント卿との会議は
お前も参加しなさい。」
長である父親でさえも。
その一言には、従わなくてはならない。
「対策を十分に練って、納得いくまで。
そうでなくては、行かせることはできぬ。」
渋りながらも、前向きな言葉に。
シェライアは、歓喜の声を上げそうになる。
「良いか、皆の者。
困難を極める道を行くかもしれない。
だが、シェライアの言葉に通ずる
行く先が、見据えられたとしたら。
幾許か光が生まれるであろう。
それまで、家族を護るのだ。」




