Cr1-9
樹海に入る目安として置かれた、石碑。
丁度シェライアの背丈程の大きさで、
何も刻まれていない。
それから先は、拭えきれない程の暗闇。
だが、モルドワイルは。
手に持っていたランプを、トウマに差し出す。
「帰りは、これを。」
そして、彼も。疑問を持たずに受け取る。
「ありがとうございます。」
「礼を言うのは、こちらの方よ。」
アーレシアは、優しく微笑む。
「シェライアを助けてくれてありがとう。
本当に、感謝してもし尽くせないわ。」
「······いえ。授与された剣があっての事です。
危険な目に合わせた事、
深く反省しております。」
「それは、良い。結果、あの男の所業を
炙り出せた。」
ちら、と彼の腰に装備されている剣へ
目を向けて、モルドワイルは告げる。
「その剣は、これから先······
光ある方向へ導いてくれるだろう。
良いものを生み出したな、シェライア。」
黙り込んでいた彼女は、父の言葉で
促されるように口を開く。
「······呪縛を解く剣。それを願って、
生み出しました。」
これは、偶然じゃない。
神に与えられた、試練だ。
「お父さま。私たちを、ランドーラへ
行かせてください。これからの、
皆の平穏を願うなら。」
真っ直ぐ向けられる、眼差し。
淀まず、堂々と告げた娘は。
不明瞭な明かりの中でも、輝いていた。
「······その件は、この場では決められぬ。
お前の意思は、しっかり受け止めよう。」
完全に、否定されると思っていた。
だけど。前向きに、考えてくれるなんて。
驚きとともに、喜びが湧き上がる。
これは、小さな一歩に過ぎない。
だけど、私にとっては。大きい。
「ここまで、ありがとう。トウマ。」
「明朝、お迎えにあがります。」
「気をつけて帰ってね。」
「はい。ありがとうございます。」
灯りを受け取り、丁寧に頭を垂れた後
彼は彼女に目を向ける。
視線を一瞬合わせただけで、二人は
何も紡がなかった。
告げずとも。互いの意志は理解している。
会釈だけして踵を返し、
トウマは去っていく。
頼もしい背中を、三人は
明るさがなくなるまで静かに見送った。
さわさわと、木々がざわめく。
それが合図のように、奥地の方へ向き直った。
暗闇の中から、ぽつりと。
小さく丸い光が、二つ現れる。
皆、それに怯えることなく。
受け入れるように、右腕を水平に上げると
胸元で印を結ぶ。
これは、『エ・ルミィス』である証。
そして、生み出す時の術式に繫がる。
「樹海の主よ。この時分に申し訳ない。
我が一族に重要な知らせがあり、
舞い戻った。」
モルドワイルが紡いだ声の波は、
吹き抜ける風に乗って響き渡った。
しばらくして、吹き返す風とともに
応答が届く。
『······それならば、道を示そう。』




