Cr1-6
ヒィン!
その、怯える鳴き声に。シェライアは驚く。
視界は。暗闇に慣れてきたとはいえ、
はっきり捉える事ができない。
しかし。
側に控えていた、白馬の様子がおかしい。
「トウマっ!」
繋いでいた彼の手を、ぎゅっと強くした。
「どうした?」
ただならない彼女の動揺に対し、トウマは
冷静に受け止めるしかなかった。
その直後。
風が、大きく乱れる。
吹き込む方向は、独房の中。
「······!」
彼女は、理解する。
この、不規則で命を持たない風を
起こしているのは。
「やめてっ!!」
悲痛に叫ぶが、届かない。
もう、手遅れだ。
「シェライアっ!」
独房へ向かおうとした彼女を、
彼は引き留める。
ごうっ!と、強く吹き荒れた後。
急に、しんと静まり返った。
それと同時に、彼女は項垂れる。
訪れた静寂と、その喪失に。
彼は、呆然とするしかない。
「······何が起こった?」
その問いかけさえも。
虚しく響く。
シェライアの叫び声によって、
警備兵たちが駆けつけた。
「······?!
シェライアさま!トウマさま!
なぜ、こんな所に?!」
彼らが手に持つランプで、
照らされた独房には。
男の姿が、見当たらなかった。
「お、おい!いないぞ!」
「脱走かっ?!い、一体どうやって?!」
二人は、口を開く余裕もなく。
モルドワイルとダナント卿たちの所へ、
連れて行かれる事になった。
会議がようやく終わりを迎えた頃に、
その知らせが届く。
状況把握が難しい事態に、皆ざわついた。
独房に監禁した男は、いなくなり。
何故か、二人が地下牢にいて。
どう判断したらいいのか。
戸惑いの渦中に立たされた、
シェライアとトウマは。
只々、黙り込んでいた。
「トウマ。何があった?」
クラマの、何も飾らない尋問に。
皆、聞き耳を立てて静まる。
「······申し訳ありませんでした。父上。」
「謝罪は後だ。経緯を述べよ。」
「男に直接、話を聞こうと思いました。」
「それで?シェライアさまを誘って、
抜け出したのか。」
「はい。」
「ダナント卿。トウマを責めないで。
私が、悪いの。」
「シェライア。」
モルドワイルの呼びかけに、
項垂れていたのを正す。
「精霊を使って、
部屋から抜け出したんだな?」
「······はい。」
安易だった。本当に。
「あの人、精霊を······」
思い出して、胸が痛くなった。
「どうやったのかは、分からない。
でも、あれは······」
まるで、あれは。
縛り付けて、従わせたとしか。
精霊の存在を、把握していたとしか
言い様がない。
「二人とも、無事でよかった。」
「これで確信した。」
父親たちの、意表を突く
心から安堵した言葉に。
彼女たちは、目を見開くしかなかった。




