Cr1-5
地下牢へ続く出入り口の階段付近には、
急遽配置された警備兵が二人。
何が起こったのか知らず、分からず。
聞かされないまま。
なので彼らは、張り詰めた面持ちで
任務に就いていた。
明かりは、ここまでだ。
階段を下りると、暗闇が支配する。
頑丈な鉄格子と、
分厚い壁で仕切られた独房が6つ。
長年使用されていなかった地下牢だが、
不思議と湿気も黴も充満していない。
ただ、平穏な暮らしを過ごす者には
この空間は耐え難いであろう。
排泄する場所と、洗面する為の水桶が
置かれているだけである。
そのうちの1つから、
規則正しい呼吸が聞こえる。
乱れもなく。
溶け込むように、瞼を閉じて。
壁に背を預けて座っている。
茶褐色の髪は、短く。
細い鎖の髪飾りが、所々に垂れている。
組んでいる腕の筋には、綺麗な窪み。
細身というより、
引き締まっているという解釈が正しい。
そして、その右肩には。
凝固して間もない、
真新しい傷が刻まれている。
すぅ、と。
一筋の風が、頬を撫でる。
それによって、瞼を上げた。
「暗くて見えないわ。明かりは、ないの?」
「当然だろう。」
上擦る高音と、落ち着いた低音。
後者は。容赦なく剣を振るった青年だ。
「創っていいかしら。」
「気づかれるだろうが。我慢しろ。」
親しげな口調。
互いに、信頼し合っている。
男は、微笑む。
「こんな所に閉じ込めて、ごめんなさい。
少し話がしたいの。」
まさか、気遣われるとは。
さらに笑った。
「正直に話せ。でなければ、
拷問を受ける事になるだろう。」
冷静な判断と、言葉遣い。
こちらは、抜け目がない。
「拷問は、受けたくないなぁ。」
「お前は、どこの国の者だ?」
拷問するみたいな質問だねぇ。
「ん〜。ボク、自由人なんで。」
「肩の傷、大丈夫?」
······あぁ。この子は。
例の、『エ・ルミィス』か。
「大丈夫だよ〜。傷は浅かったから。
優しいねぇ。」
攫おうとした相手に、気遣うとは。
可笑しなお嬢様だ。
「······あなたは、どうやって来たの?」
まるで、何事もなかったかのように。
興味津々で、聞いてくる。
思わず、答えそうになったじゃないか。
「君が創った剣、大したものだ。
お陰で、切られてしまったよ。」
言葉は、間違っていない。
「流石は、『エ・ルミィス』。
聞きさに勝る力だ。」
その力。欲しいねぇ。
「自分と一緒に、付いてきてくれるなら。
手荒な真似は一切しない。約束するよ。」
「ふざけるな。」
水を差すように、トウマは放つ。
「今の状況を理解しろ。
お前に選択肢はない。質問に答えろ。」
「ちょっと、トウマっ」
「選択肢?ははははっ」
男は、ゆっくりと立ち上がる。
「君〜。口説くのを邪魔するのは
野暮だよ。下がっていてもらえるかな〜。」
交渉は、ここまでのようだ。
「こんなに平和ボケしてる国は、初めてだ。
『エ・ルミィス』様々だってことも。
お陰で十分、把握できた。」
次に会う時は。
「お嬢様。今度は、二人きりで話そうね。」




