Cr1-4
「会議したところで、
埒が明かんだろうな。」
窓に向かって、歩いていくトウマ。
それをシェライアは、眺める。
外は、もう。日が落ちて暗くなっている。
少し欠けた月と、瞬く星々。
天候は、良い。
「······牢屋って、どこにあるのかしら。」
知る限りでは長い間、
使われていなかった場所。
存在も把握していない。
「城の地下だ。」
「風は、通る?」
「勿論。でなければ、出向こうとは
持ちかけていない。」
そうでしょうね。
扉の外には、メイドたちが控えている。
そして、各所に警備兵たちも。
まともに抜け出して、牢屋へ行く事は不可能。
「上手くいくかしら······」
「外部に目が向かない今が、機会だ。
お前に仕える精霊は、優秀だろう?」
ただ一つ。
抜け出せる、方法は。
精霊の力を借りることだ。
「仕えるとか、そんなものじゃないわ。
彼らは自由な存在なのよ。」
『エ・ルミィス』は、
自然現象を起こす精霊の姿を
具現化して、捉えることができる。
大抵、動物を象る。
今朝、彼女の元へ飛んできた小鳥は。
同胞トイアールが放った精霊である。
「······とても気がかりだわ。大丈夫かしら。」
「何を心配している?」
「私は、ともかく。
あなたは初めてでしょう?
精霊と一体化するのは。」
一人なら問題はないが。
トウマも一緒、となると。
懸念は、拭いきれない。
そんなことか、と。彼は笑う。
「一度、味わってみたかった。
風になるのを。」
弾むように彼の手が、窓の施錠を外す。
強めの風が吹き込むと。
二人の髪を乱していく。
「できるかどうか、
聞いてみてもいいかしら。」
「ああ。臍を曲げられて、
落ちたくないからな。」
今、彼女の目の前には。
立派な白馬が、現れている。
その目線を追って、彼は目を向けるが。
風が吹き荒れるだけで、何も映らない。
「お願いがあるの。
私たちを、誰にも見えないように
ここから連れ出してほしい。」
白馬の姿を象った精霊は。
見定めるように、つぶらな瞳を向けている。
「あなたの、立派な蹄があるならば。
どこへでも行けるはず。」
白馬が頭を上下に振ると、
二人の衣服と髪が強く靡いた。
いななきが、届く。
『風が通る場所であれば。』
それを言葉として受け取り、
シェライアは微笑む。
「ありがとう。」
『その者が、暴れなければ。』
「大丈夫。しっかり私が、手綱を握るから。」
「······手綱?」
彼からしたら、
彼女の独り言にしか聞こえない。
首を傾げている様子を窺い、彼女は
クスッと笑った。
「振り落とされないようにしてね。」
差し出された、華奢な手を。
「しがみついても、引っ叩くなよ。」
一回り大きい手が、包むように握る。
すると。
ごうっ、と突風が。
窓へ向かって吹き抜けた。
部屋に残されたのは。
静けさと、ひらひら動く窓硝子。
二人の姿は、どこにも見当たらなかった。




