Cr1-1
「ただ······」
顎に手を置き、トウマは紡ぐ。
「おかしな奴だった。
逃げる素振りもなかった。
······しかも、切られたにも関わらず
嬉しそうに。
わざと捕まるような感じで。」
考え込み、独り言のように。
緊急事態のせいか。
彼が、よく喋っている気がする。
「······その人は今、牢屋にいるの?」
「だろうな。拷問を受けるだろう。」
拷問、だなんて。
「しかし吐かせるのは、難しいかもしれない。
自害する可能性もある。
慎重に行わなければ。」
淡々と、そんな。
「······殺気は、なかったわ。」
「それが厄介だ。
攫う気満々だったって事だからな。」
だから、剣を。
「······俺を、非情な奴だと思うか?」
彼女が向ける、視線と表情に対して。
彼は、真っ直ぐに受け止めて応える。
「お前が攫われたら、戦争になる。
もっと、沢山の血が流れる。
それでもいいと言うのか?」
厳しい言葉だった。
しかし、それが正論であることを。
彼女は飲み込んで、俯く。
「······ごめんなさい。」
謝罪を告げるのは。
彼が、見えないところで色々と
対策していたことを。
何も知らずに、過ごしていたからだ。
恥ずかしい。
私は、何も知らなかった。
トウマの事を、知ったつもりでいた。
彼は、呪縛に耐えながらも。
皆の事を考えていた。
「······謝る必要は、ない。分かればいい。
身に置かれている境遇を。」
でも。あなたも。
私のことを、何も知らない。
「護ってくれているあなたたちに、
心から感謝しているわ。けれど、私は。
護られることが当たり前だとは、
思っていないわ。」
『エ・ルミィス』というだけで、
縛られる境遇が。嫌で堪らないことを。
「これからは、皆を護れるように。
この力を使うって決めているの。
できる限り、血を流さない方法で。」
声が、震える。
今まで、こんな強い主張を
彼に示したことはなかった。
いや、口にしたことも。
「もっと私たちは、
自由でいいはずなのよ。
皆と隔てなく、生きられるはずなの。」
腫れ物に触る如く、丁重に扱うのではなく。
同じ空気を吸って。
生きているという意識。
「神じゃないのよ、私たちは。
この力が、そう思わせているだけ。
それを、分かってほしいわ。」
気づけば、立ち上がっていた。
少し息を乱す程に、熱を籠もらせて。
そんなシェライアに、彼は目を見開いている。
しばらくして、小さく息が漏れると。
表情が和らいだ。
「······そんな、甘い夢を描いていたのか。」
響く低い声は、嗜めるように。
彼女の熱を、冷まさせる。
「これが、現実だ。シェライア。
しっかり見据えろ。」
共感してくれると思っていたのに。
絶望感が、押し寄せる。
「今のままでは、到底叶わんな。」
しかし、後から被せられたのは。
優しい微笑み。
「具体的に考えて、行動しなければ
何も変わらん。目を逸らすな。」
彼は、私を。
否定したわけでは、ないのか。
「実現させる為には、まず。俺を、
説き伏せるくらいじゃないとな。」
気のせいだろうか。
彼が、とても楽しそうに見えるのは。




