第7話:買い取り?いや、ロイヤリティをもらう!
金髪の紳士は、それまでの気品をかなぐり捨ててチャーハンの周りをうろうろと回り始めた。まるで、高名な学者が突然新大陸を発見したかのように、その瞳は興奮でギラギラと輝いている。
「雪のように白い磁器の皿の上に、半球形をした薄紅色の丘が鎮座している……。油をまとって艶めく刻み野菜は、まるで散りばめられた宝石のようだ。これだけで食欲が激しくそそられる!」
「玉ねぎ、ハム、卵、そして黒胡椒の香りが完璧な調和を保ち、最終的にケチャップの甘酸っぱいアロマに優しく包み込まれている。世界にこれほど完成された料理が存在したとは、しかもこれほどシンプルな食材だけで?!」
「はぁ……どうやら私の目は節穴だったようです。恩師の言う通り、この業界にいる者は常に謙虚でなければならない。さもなければ、己の浅薄な知識で勝手に結論を下し、至高の宝珠をドブに捨てることになってしまう」
ローランのマシンガントークのような絶賛を浴び、俺の頭には思わず太い三本の縦線が浮かび上がった。
「あんた、ちょっと大げさすぎるだろ!……まあ、確かにめちゃくちゃ美味い料理だし、国王への献上品と言われても不思議じゃないレベルだけどな!」
相手の勘違いが加速しているが、あえて訂正する気は毛頭ない。
むしろこのまま誤解してくれた方が、俺の商品をより高く売りさばけるからだ。
「一口、食べてみるか?」
「よろしいのですか!? では、お言葉に甘えまして!」
許可が下りるやいなや、ローランは目にも留まらぬ速さでスプーンをひったくり、チャーハンを山盛りに掬って口へと放り込んだ。
次の瞬間、金髪紳士の目が文字通りカッと見開かれた。
彼はまるで、何日もまともな食事にありつけなかった浮浪者のように、なりふり構わずチャーハンを口に掻き込み始めた。
わずか三分足らずで、大皿のチャーハンは完全に彼の胃袋へと消え去った。
ローランは懐からハンカチを取り出すと、優雅に口元を拭い、顔いっぱいに至福の笑みを浮かべた。
「どうか、お値段を提示してください! あなたが望む額なら、いくらでもお支払いします! ピエニン商会はこの『伐木鎮(きこりの町)』で最も高い査定を出すことをお約束します。ですから、どうか!」
ローランは直角に近い深々としたお辞儀をした。
俺が首を縦に振るまで、絶対にテコでも動かないという強い意志が伝わってくる。
「いや、あの……」
俺は慌てて彼を抱き起こそうと、片手を前に差し出した。
ところが、そのジェスチャーがまたしても盛大な勘違いを生む。
「金貨5枚ですか!? 分かりました、問題ありません!」
「???」
どうやら、差し出した俺の手の平を「金貨5枚の要求」と受け取ったらしい。
しかし……地球の調味料って、本当にそこまでの価値があるのか?
俺の目の奥に走った動揺をどう解釈したのか、ローランは苦笑を交えながら説明を付け足した。
「これらのスパイスは珍しいとはいえ、我が国にも似たような風味の調味料は存在します。また、『米』は大陸の東方地域の主食であり、この辺りでは仕入れが極めて困難で普及もしていないため、普通なら銀貨7、8枚が限界でしょう」
「ですが、この『調理法』は文字通り前代未聞です。もしこれを上手に広めることができれば、もたらされる利益は計り知れません!」
「我がピエニン商会は、この料理のレシピを丸ごと『買い取り(独占)』たいと考えております。もし応じていただけるのでしたら、今すぐ契約書を作成し、現金を全額お支払いいたしますが、いかがでしょうか?」
「それはだな……」
なるほど、合点がいった。
いくらスパイスの価値が高くても、現地の生活圏に定着していなければ、買い叩かれる運命にある。
ローランが目をつけたのは材料そのものではなく、その「加工プロセス」と「完成された結果」だ。
彼はこの一杯のチャーハンから、貧しい農民から王侯貴族の食卓までを完全に征服する未来のビジョンを見ているのだろう。
だが……俺もただの世間知らずなカモじゃない。
こんな莫大な利益を生むビジネスを、あんたたちに独占されてたまるか!
「そういうことなら、金貨5枚での買い取りの話は……お断りだ」
「?」
ローランが呆然と目を見開く。
「ゲンタク様、我が商会は決して買い叩くつもりでは――」
俺は手を挙げて彼の言葉を制し、不敵に笑って言い放った。
「買い取りじゃない。ライセンスの授權と、売上のマージン(分紅)の話をしよう」
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それから約一時間に及ぶ熾烈な交渉の末、俺たちは羊皮紙に五つの条項からなる契約をまとめた。
第一条:甲方は、「ケチャップ卵チャーハン」の調理手順、火加減の調整、および盛り付け技術を、乙方(ピエニン商会)が指定する料理人にのみ独占的に伝授することに同意する。
契約日は**戦神暦Ⅱ1037年4月1日**とし、授権期間は一年間とする。
契約有効期間内、甲方はこの技術を他の商会や酒場に再授権してはならない。また、乙方(ピエニン商会)も本技術を第三者に無断で転売、あるいは漏洩してはならない。違反した場合、乙方は甲方に対し違約金としてグテス金貨50枚を支払うものとする。
第二条:乙方(ピエニン商会)は契約当日、初期ライセンス料(契約金)として、甲方に**グテス金貨2枚(マッスル銅貨2,000枚相当)**を支払うものとする。
第三条:乙方(ピエニン商会)は、本料理の製造に不可欠な「ケチャップ」を、必ず、かつ独占的に甲方からのみ購入することを約束する。
甲方は、1瓶(300g)あたり**マッスル銅貨20枚**の特別卸売価格で乙方へ供給するものとする。
第四条:双方は「販売価格に応じたマージン(分紅)」方式を採用することに同意する。
乙方(ピエニン商会)が経営する高級酒場において本料理を販売し、1食あたりの価格は暫定的に**マッスル銅貨50枚**とする。
1食が販売されるごとに、乙方は売上の10%に相当する**マッスル銅貨5枚**を甲方に支払うものとする。
乙方は専用の帳簿を設け、毎月末に双方が販売数を確認し、翌月の5日までにヨギ銀貨またはマッスル銅貨で前月分のマージンを精算しなければならない。
第五条:本契約は一年間の満期をもって自動的に失効する。
ただし、契約満期の一個月前までに、本料理の累計販売数が3,000食に達した場合、甲方は乙方(ピエニン商会)に対して優先的な契約更新権を付与することを約束する。更新条件については別途協議する。
羊皮紙にびっしりと並んだ文字を眺めながら、俺は思わず苦笑した。地球にいた頃はコンビニのバイトの雇用契約書すらまともに読まなかった俺が、まさか異世界でロイヤリティ契約を結ぶことになるなんて。
「素晴らしい交渉でした、ゲンタク様! これは我がピエニン商会の『シャクヤクの徽章』です。当商会にとって最高ランクのパートナーである証ですよ」
渡された銀製の美しい徽章を、俺はすぐにジャケットの胸元の目立つ場所にピンで留めた。
お互いに羊皮紙にサインを交わし、ローランがそのうちの一通を俺に手渡してくれた。彼は春のそよ風のような爽やかな笑顔で言った。
「これをお持ちであれば、国内すべてのピエニン商会でのお買い物の際、手数料が免除されます。さらに、我が商会が運営する宿屋の『五日間の無料宿泊権』が、月に一度ご利用いただけます」
「それから、我が商会が何か特殊な、あるいは希少な商品を入手した際、ゲンタク様には最優先の購入権が与えられます」
「あぁ、ありがとう!」
俺はローランと固い握手を交わし、部屋を後にしようとした。
ひとまず町を少しぶらついてから、ピエニン商会の宿に泊まろう。明日またここへ来て、ローランの用意した料理人に調理指導を施し、今月分のケチャップを納品する予定だ。
すべてが順調だった。このまま大金を稼ぎ出し、人生の勝ち組へと駆け上がっていく未来がはっきりと見えた気がした。
俺は笑みを浮かべ、真鍮製のドアノブに手を伸ばし、それを回そうとした。
その時――。
木製の重い扉が、外側から勢いよく引き開けられた。
「ローラン、いるの?」
視界に飛び込んできたのは、淡い緑色のドレスを身に纏った見事な金髪の美女。
そして、前へ突き出していた俺の手は、もう止まらなかった。
「っ!」
俺の手の平は、彼女の胸の、信じられないほど豊満な二つの山峰を正面からガッシリと鷲掴みにしていた。
金髪の美女と俺の視線が、至近距離で真っ向からぶつかり合う。彼女の美しい空色の瞳の中に、引きつった俺の極限の苦渋の表情が映り込んでいるのが分かった。
「す、すまん! 狙ったわけじゃなくて……」
「きゃあああああああ――ッ! この変態!!!」
パァァァンッ!
乾いた音が響き、左頬に強烈な熱さが走った。
まさか人生で、自分が『ラッキースケベ』の当事者になる日が来ようとは、夢にも思わなかった。
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