第54話:俺は義理の兄貴だ!
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午後、私は自分の露店へと戻り、引き続きタピオカミルクティーとレモンオーギョーチーの販売を再開した。
忙しく手を動かしていたその時、左側からキーキーと甲高い声が響いてきた。
「この大嘘つき! あなたたちの会話の中で、私の名前なんて一言も出てこなかったじゃないのよ!」
サニアが人波をかき分け、お怒りモード全開で私のもとへ怒鳴り込んできたのだ。
その顔を見た瞬間、私は思わず「ぷっ」と吹き出してしまった。
「ギャハハハ! 本当に聞きに行ったのかよ!? 間抜けすぎる……あ、いや! 可愛すぎるぞ! ギャハハハハ!」
私が涙を流して爆笑し、バンバンとテーブルを叩いて腹を抱える姿を見て、サニアは歯ぎしりをして顔を真っ赤にした。
彼女は周りの客たちの視線も気にせずカウンターの内側へと踏み込んでくると、私の足を思い切り踏みつけてきた。
それでも私が笑い続けていると、追い打ちをかけるようにさらにドスドスと二発叩き込んできた。
「笑うな! まだ笑う気!? この嘘つき! 悪党! ろくでなし!」
「くたばれー!」
一分ほど経ち、ようやく涙を拭った俺は、自分の商売の邪魔にならないよう、彼女をそっとカウンターの外へと押し出した。
「私はこれでも雪花領の堂々たる領主さまだぞ? 女に困るわけがないだろ。それにだ、僕たち出会ってまだ二日目じゃないか」
「あんた、自分がどれだけ殴りたくなる顔してるか分かってんの!?」
サニアは毛を逆立てた子猫のように威嚇しながら、ぶんぶんと小さな拳を振るってきた。
生憎と彼女の手は私ほど長くはない。左腕一本で彼女の頭を押さえるだけで、完璧に一定の距離をキープできるのだ。
その時、野次馬の人集りの中から突如として声が飛んできた――。
「サニア! お家の人から聞いたんだが、お前、昨日の夜ずっと家に帰らなかったって……大丈夫だったのか!?」
客にタピオカミルクティーを手渡しながら振り返ると、そこには黒髪に褐色の瞳をした一人の青年が立っていた。
二十代前半ほどで、なかなかの男前だ。顔立ちも中東風のエキゾチックなイケメンで、民族調の刺繍が施された白い開襟長袍を身に纏っている。
彼の姿を見るやいなや、サニアは私との喧嘩をやめ、あからさまに不機嫌そうな顔で振り返った。
「ファルーク、あなただって私より三歳年上なだけでしょ。お兄さんぶるんじゃないわよ!」
「だけど僕たち、幼い頃に大人になったら結婚しようって約束したじゃないか! お前の危機を放っておけるわけないだろう!」
ファルークと名乗った青年は焦った様子で訴えかけた。
「そんなの昔の話でしょ! 六歳の子どものたわ言を真に受けてどうするのよ!」
「僕は一度だって忘れたことなんてない! 一緒にお風呂に入ったことも、木登りしたことも、川でカニを捕まえたことも……あの素晴らしい思い出の数々は、僕にとっては昨日のことのように鮮明なんだ!」
「サニア、僕を信じてくれ! もう一度チャンスをくれないか? お前に僕の真心を証明してみせるから!」
その怒涛の愛の告白を聞いて、サニアはその場で盛大に呆れ顔(白目)をしてみせた。
そのままフンと横を向き、相手にするのをやめてしまった。
私はこの好機を逃さず、彼女の耳元でヒソヒソと囁いた。
「さすがサニアさん、六歳にしてすでに男を騙し始めるとは。これほど一途な男を弄ぶなんて、本当にとんでもない悪女だな!」
「失せろーッ!」
「ハハッ!」
激怒したサニアが手を伸ばして殴りかかってきたが、私はすんでのところで身をかわし、カウンターの奥へと滑り込んだ。
この瞬間、ファルークはようやく「私」の存在を捉えたようだった。
彼は私の鼻先を指差し、詰め寄ってきた。
「サニア……そいつは誰だ!? なんでそんなに親しそうにしてるんだ!?」
「この人は……」
「僕かい? 昨日の夜、彼女と一緒に過ごした男だよ」
サニアの弁明を強引に遮り、私はドヤ顔で言い放った。
ギャラリーの群衆:「うわぁぁぁ!?」
サニア:「……は???」
ファルーク:「!!!!(石化)」
私の左隣にいた占い師のレイラまでもが、呆れたように首を振って言った。
「ゲンタク先生、女の子の貞操にかかわる問題なんですから、適当な出鱈目を言っちゃダメですよ!」
「出鱈目なんかじゃないさ。信じられないならサニアに聞いてみなよ。昨日の夜、二人で一緒に過ごしただろ? 『ピオニー・イン』の二階の部屋で……二人っきりでな!」
私がサニアに視線を向けると、彼女は顔を青ざめさせ、しどろもどろになった。
「わ、私……その……」
「サニア……嘘だろ……? どうしてそんな馬鹿な真似をしたんだ……!」
ファルークは目頭を赤く染め、顔全体に激しい憤怒と後悔を滲ませた。
「マジかよ……サニアがそんな真似をするなんて!」
「二人って出会ってまだ一日しか経ってないんじゃないのか? 進展早すぎだろ!」
「一目惚れどころか、一秒でドハマリかよ!」
周囲の野次馬たちから、ヒソヒソとした噂話が次々と漏れ聞こえてくるのだった。
商人たるこの私が、これほど絶大な『バズ(話題性・集客効果)』を見過ごすわけがない。
私は右手にタピオカミルクティー、左手にレモンオーギョーチーを突き持ち、両手を高く掲げて叫んだ。
「これぞ! あのサニア様を骨抜きにし、色仕掛けで迫らせるほどに狂わせた至高のドリンクだ!」
「甘くてモチモチの食感がたまらない『タピオカミルクティー』、100銅貨!」
「清涼感抜群で喉を潤す『レモンオーギョーチー』、30銅貨!」
「この私――ゲンタクが、ピエニン商会だけに独占授権した特製ドリンクだ! 現在は我が『雪花領』と、ピエニン商会傘下のわずかな高級レストランでしか味わえない逸品だぞ!」
「覚えておいてくれ! タピオカミルクティーは100銅貨! レモンオーギョーチーは30銅貨! 雪花領とピエニン商会! そしてサニア様の一番の好物だーッ!」
私が叫び終えた瞬間、ファルークも、ハンスも、アンナも、レイラも、果ては周囲の野次馬たちまでもが、呆然と開いた口が塞がらない様子で私を見つめていた。
そして当のサニアはといえば、あまりの怒りに正気を失いかけていた。
「この大バカ野郎ーーーッ! 人の名声を使って勝手に広告を出してんじゃないわよーーーーー!!!!!」
サニアが再び咆哮しながら飛びかかってきたが、私は相変わらず左手一本で彼女の額を押さえ込み、完璧にブロックした。
「サニア、嘘だと言ってくれ! こんなの全部出鱈目なんだろ!?」
ファルークが今にも泣き出しそうな顔で訴えかける。
「ちょっと、いい加減にしつこくつきまとわないでよ! あんたのことなんて好きじゃないって何度も言ってるでしょ!」
「お前はあんな金に目がない男が良いというのか!? 目を覚ませサニア! あいつはお前のことなんてこれっぽっちも考えていないぞ!」
「私とあの男の間のことに、関係ないあんたが口を出さないで!」
サニアとファルークが再びギャーギャーと喧嘩を始めた。
私は彼らを完全に空気扱いし、悠然と接客を再開した。
「はーい、次のお客様どうぞ〜!」
「ククッ! いやぁ、今のは実に見事な大立ち回りだったね、ゲンタクの坊主!」
ふと顔を上げると、そこに立っていたのは久しく会っていなかったおじさん三人組――ケイン、モンティ、ドワイトの三人だった。
鉱石の探索を専門とする冒險者パーティ、『ライン・オブ・ライト』の面々である。
私はパッと表情を輝かせた。
「お久しぶりです! ケインさん、モンティさん、ドワイトさん!」
「酒場の連中から噂は聞いてたぞ。『巨木の森』に拠点を築いて開拓領主になったそうじゃないか。一体どうして急にこの『甘露町』なんかにやって来たんだい?」
聖騎士のケインが不思議そうに尋ねてきた。
私は三人にそれぞれレモンオーギョーチーを一杯ずつ手渡し、笑って答えた。
「甘露町にはちょっとした用事がありましてね。ついでに宣伝(広告)活動をしに来たんですよ」
「宣伝?」
「ええ!」
私が『領民募集』と書かれた木板をポンポンと叩くと、彼らは即座に合点がいったような表情を浮かべた。
「そういうことなら、俺たち最近、豪快で面白い連中と知り合ってな。腕っぷしも立つ上に酒も相当呑める奴らだ。もしかしたらお前の力になれるかもしれんぞ?」
魔法使いのドワイトがそんな朗報を口にした。
私は即座に目を輝かせた。
「本当ですか!? ぜひその人たちを紹介していただけませんか!?」
「いいとも! ちょうどこれから奴らの泊まってる旅館へ向かうところだったんだ。お前も一緒に行くかい?」
盗賊のモンティがからっと笑った。
「もちろんです! すぐに片付けますね!」
さっきまでファルークと口論していたサニアは、私が手際よく撤収作業を始めるのを見て、驚いたように声を上げてきた。
「ちょっと待ちなさいよ! 今すごく商売繁盛してるじゃない! 売るのをやめちゃうの!?」
なぜだか分からないが、サニアは私以上に私の売り上げを気にしているようだった。
私はガラス容器に残っていたレモンオーギョーチーを一気にカップへ注ぎ分け、『ライン・オブ・ライト』の後ろに並んでいた十人ほどの客に売り払った。
そして、後ろに続く行列に向かって大声で宣言した。
「今日の販売はここまで! 買いたい人はまた明日お越しくださーい!」
残ったカップや材料を手際よくマジックアイテムの『ストレージリング』へと放り込みながら、私は顔も上げずに言い放った。
「僕は別にお金に困ってるわけじゃないからね。こんなの売ってるのは単なる時間潰しだよ。もっと重要な要件ができたんだから、定時退社して引き揚げるのは当然だろ?」
サニアはジト目で私を凝視し、ぽつりと呟いた。
「……あなた、本当にあの『雪花領』とかいう場所の領主なの……?」
私は即座に呆れ顔(白目)で彼女を見つめ返し、言い放った。
「僕は君の『未来の義理の兄貴』さ!」
「くたばれッ!!!」
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