第48話:夏はやっぱりレモン愛玉(オーギョーチ)
地球におけるタピオカミルクティーの作り方は、大きく分けて二つの手法に分類される。
一つ目は、粉末のミルクティーパウダーを熱湯で溶かし、そこに煮上がったタピオカを加える方法。
二つ目は、淹れたての紅茶に牛乳を注ぎ入れ、最後に煮上がったタピオカを加える方法だ。
そして私がピエニン商会に授けた製法こそが、まさに後者の第二の手法であった。
まず大鍋いっぱいに紅茶を沸かし、加熱しながら水魔法を発動して余分な蒸気を排除する。そうすることで濃厚で香り高い「濃縮紅茶」が完成する。
次いで、牛乳の準備だ。
この世界は未だ中世レベルの文明圏にあるため、搾りたての生乳に病原菌が含まれていないという保証はどこにもない。
そこで私の編み出した解決策が、搾りたての生乳を氷魔法によって一気に「氷塊」へと精錬することだった。
魔法という不可思議な力を用いて一瞬で大部分の病原菌を死滅させ、同時に氷塊にすることで輸送効率も格段に跳ね上がる。
最後に、熱い濃縮紅茶と牛乳の氷塊を掛け合わせ、煮上がったタピオカを投入すれば――独特の風味が際立つ至高の一杯、タピオカミルクティーの完成である。
かつてコーデリアとコラリスの二人を戦場前線への支援に向かわせたのも、この点を考慮してのことだった。
彼女たちの母親は近隣の村の牧場娘であり、父親はエルフ族の氷魔法使いだ。
両親の才能を受け継いだ彼女たちは、牧場の仕事に精通しているだけでなく、水と氷の二系統の魔法を操ることができる。彼女たちを派遣することこそが最高の選択だったのだ。
さもなくば、もしピエニン商会が目先の利益に目が眩み、搾りたての生乳をそのまま使ってミルクティーを作っていたなら、兵士たちが一斉に激しい下痢に見舞われていたに違いない。
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閑話休題。
私は甘露町の露店でいちいちミルクティーを現場調理するつもりはなかった。そんなことをすれば時間も体力も無駄に消耗してしまうからだ。
私の狙いはあくまでオベロンたちが帰還するまでの間、ついでに雪花領の宣伝を行うことにある。
第一、私にはもっと効率よく稼ぐ手段がいくらでもあるのだから、わざわざ無駄な苦労を背負い込む必要などないのだ。
思考を整理した私は、すぐさま『冷蔵庫システム』からタピオカミルクティーを20杯分購入し、そのまま露店のテーブルの上へと並べた。
[一星冷蔵庫ショップ:タピオカミルクティー×20(-1200pt)]
プラスチックカップの側面に、あらかじめ作っておいた「雪花」のロゴステッカーを貼り付ければ準備完了だ。
周囲を行き交う人波は絶え間ない。
テーブルの上に透明でガラスに似つつも遥かに軽やかな容器が二十個も並び、その中に肌色の液体と黒い魚卵のようなものが詰まっているのを目にするや、人々は足を止め、興味津々にこちらを注視し始めた。
紫のドレスを纏った貴婦人が驚きの声をあげる。
「まあ! 一体何ですのあの食べ物は? 生まれて一度も見かけたことがございませんわ!」
その隣のお爺さんが腰をかがめ、カップの中のミルクティーを凝視しながら呟いた。
「色合いからして、牛乳に何か別のものを混ぜ合わせた飲み物のようじゃが……」
深褐色のジャケットを着た青年も、首をかしげながら不審そうに口を開く。
「見た感じ飲み物っぽいけど……なんで中に魚卵が入ってるんだ? まさか料理の一種か? 値段は……うわっ! 一杯100銅貨だって!?」
看板に書かれた価格を確かめた青年は、一瞬で顔色を悪くして三歩後ずさった。
他の野次馬たちも同様で、半分以上の客が一気に散っていってしまう。
残った者たちも自ら手を出す度胸はなく、誰か物好きが買い求めて感想を口にするのをじっと待っている様子だった。
その時、私の左手から静かな声がかけられた。
「……値付けが高すぎる。それでは客が逃げてしまうぞ」
振り返ると、そこには黒いローブを深々と羽織った女性が立っていた。
全身を分厚い生地で覆い隠し、目元から下も灰色の薄絹で覆われているため、覗いているのは透き通ったダークブルーの瞳だけだ。
「君は……?」
「レイラ。お前の隣の占い師だ」
レイラは簡潔に自己紹介した。
右手のハンス店主も焼き肉の手を止め、腰に手を当てながら呆れ顔で私を見つめていた。
「そうだぜ兄ちゃん! ワシの串焼き肉だって一串12銅貨だ。あんたの品物はワシの十倍近くもしやがる。一般人の二、三日分の生活費だぞ! 中身もよく分からんものに、誰がそんな大金を払うってんだ!」
それに対し、私はただ微笑みを浮かべて答えた。
「これは元々貴族向けに仕立てた特製スイーツですからね。正直、100銅貨でも決して高くはないのですよ」
「そうは言ってもだな……」
ハンスはなおも宥めようとしてきたが、私は手を挙げてそれを制すると、集まった人集りに向かって声を張り上げた。
「甘露町の皆さん! 今日は皆さんにお近づきの印として、特別に『大還元セール』を実施します!」
「100銅貨ではありません! たったの【10銅貨】でお試しいただけます!」
「ルールは簡単! このカップを手に持って、飲みながらここから城門のあちら側まで歩き、そこからまたここまで折り返してきてください。合計二往復です!」
「そして最後に、飲み終わったカップをこちらの回収箱に投入していただければ、お預かりした100銅貨のうち【90銅貨】をその場で返金いたします!」
「ただし……容器を持ち帰っていただくことが条件です! カップがない場合は90銅貨の返金はできかねますのでご注意ください!」
「限定20杯! お一人様一杯限り、なくなり次第終了の早い者勝ちです!」
私が言い終えると、その場は静まり返り、およそ五秒ほどの沈黙が流れた。
「アンナ! ちょっと店を見ててくれ、すぐ戻る!」
「ええっ!?」
アンナの困惑した悲鳴を背に、ハンスは手にしていた肉串を放り出すと、猛ダッシュで私の前へ駆けつけ、テーブルの上にジャラリと100枚の銅貨を叩きつけた。
「おい兄ちゃん! 本当に二往復して戻ってきたら、90銅貨返してくれるんだろうな!?」
「勿論です! カップさえ無事持ち帰っていただければね」
私はストレージリングから木製の投銭箱(回収箱)を取り出し、『領民募集』と書かれた看板のすぐ隣へと設置した。
これなら、客が買い求める際、嫌でも領民募集の情報を目にすることになるという寸法だ。
「約束だからな!」
ハンスは待ちきれない様子で私の手からタピオカミルクティーのカップを受け取ると、大勢のギャラリーが見守る中、おそるおそる一口啜った……。
「甘んまァぁぁいっ!!!」
「なんだこの食感は!? 牛乳か? いや……紅茶か!? 正直何の味だか上手く説明できねぇが、とにかく甘くてメチャクチャうまいぞ!」
「それに、この中に沈んでるやつ……魚卵なんかじゃねぇぞ!?」
「甘くてクセもねぇ! それに……とんでもねぇ弾力だ!!!」
「なあ兄ちゃん、この魚卵みたいなやつ、一体どうやって作ってんだ!?」
ハンスは目を見開いて、信じられないといった表情で私を凝視した。
周りで見ていた群衆も、ハンスのその真に迫った食レポを聞いて、思わず生唾をゴクリと呑み込む。
私は慌てる様子もなく、飄々と答えた。
「それは企業秘密ですよ。ハンスさんだって、自分の秘伝の焼き肉のタレのレシピを他人に教えたりしないでしょう?」
「あ、ちなみに、ちゃんと二往復して歩いてこないと、90銅貨の返金はできませんからね?」
私の言葉を聞いて、ハンスはハッと正気に戻った。
「そうだった、そうだった! うっかり忘れるところだったぜ! よし、行ってくる!」
言うやいなや、ハンスはミルクティーを手に大急ぎで駆け出していった。
その直後、現場はちょっとした暴動状態に陥った。
「店主! 俺にも一杯くれ!」
「私にも!」
「私にもちょうだい!」
「はいはい! 皆さん順番に並んでくださいね!」
瞬く間に、二十杯のタピオカミルクティーは完売した。
買い求めた客たちはその場をすぐには離れず、まずは試しとばかりに一気にストローを吸い上げた。
次の瞬間、彼らもまたハンスと全く同じ反応を見せた。目を輝かせ、驚嘆の声をあげ始めたのだ。
「本当だ! 甘くてうまいっ!」
「やっぱり牛乳だ! でも間違いなく紅茶も入ってるぞ!」
「凄いわ! この『タピオカ』って粒、なんでこんなにモチモチしているの!?」
「みんな試してみて! 勢いよく吸い込むと、快感が倍増するわよ!」
一向に移動しようとしない彼らを見て、私は改めて注意を促した。
「いいですか、歩きながら飲むんですよ! 城門まで二往復です!」
その言葉で我に返った客たちは、慌てて城門の方角へと走り出していった。
私の左隣にいた占い師の少女と、ハンスの店番を引き受けさせられたアンナは、自分たちも並びたくてたまらない様子だったが、いかんせん自分の店を放置するわけにもいかない。
二人はただ指をくわえて、最後の1杯が買われていくのを見送るしかなかった。
占い師のレイラがぽつりと溜め息をつく。
「ふぅ……遅かったか」
手芸品屋の店主アンナは、歯噛みしながら悔しそうに吐き捨てた。
「あのクソハンスめ……今日の商売が終わったら、速攻であいつの女房に『店を放り出して逃げた』って言いつけてやるんだから! ふんっ!」
悔しさを隠しきれない二人の表情を見て、私はニッコリと微笑みながら声をかけた。
「タピオカミルクティーは終わってしまいましたが、実はもう一つ、お勧めの極上ドリンクがあるのですよ。お値段はたったの30銅貨。こちらは街を二往復する必要もありません。お嬢さん方、一口試してみませんか?」
私の言葉に、アンナとレイラの瞳がぱっと輝いた。
「本当かい!? 一体どんな飲み物なんだい?」
二人はもちろん、惜しくもミルクティーを買い逃した周囲の群衆が見守る中、私はストレージリングから大きな透明ガラス容器を取り出し、木板に新たなメニューを書き足した。
『レモン愛玉:30銅貨』
「お兄ちゃん、君の売る商品はどれも聞いたこともない変わった名前ばかりだなあ」
先ほどミルクティーを買いそびれた大叔が首をかしげた。
その隣にいた幼い少女も追従するようにツッコミを入れる。
「本当だよ! タピオカミルクティーとか、レモンオーギョーチーとか、聞いたこともないやつばかり!」
「ハハッ! 聞いたことがなくて当然ですよ。これは私の故郷――はるか東方大陸の特産品ですからね」
「おお! なるほど、東方のものなら納得だ!」
大叔は得心がいったように深く頷いた。
私は『冷蔵庫システム』で注文を開始する。
市販の愛玉には、ゼラチン(寒天)等で模造した安価な偽物と、愛玉子の種を水の中で揉み出して作った正統派の二種類が存在する。
少し考えた末、私は客に本物の味を楽しんでもらうため、水洗いの正統派愛玉を購入することにした。
[一星冷蔵庫ショップ:愛玉(1kg、手揉み水洗い)×3(-1050pt)]
ギャラリーたちの前で、私はまるで手品のように、琥珀色の宝石のような愛玉の塊を三つ、空中から取り出してガラス容器へとそっと投入した。
そこへ清らかな水、砂糖、薄切りにしたフレッシュレモンを加え、鉄製のレードル(大スプーン)で手際よくかき混ぜていく。
砂糖が完全に水に溶け込み、愛玉が爪ほどの大きさに心地よく砕けたところで、さらに細かく砕いた氷を投入する。
――これにて、夏には欠かせない清涼感抜群の極上スイーツ、『レモン愛玉』の完成だ!
私がレードルを使い、愛玉をプラスチックカップへと盛り付けていたその時――頭上から艶やかな女性の声が降ってきた。
「あら……とても興味深い調理法ですわね」
顔を上げると、そこに立っていたのは――ソグド商業同盟の国民的アイドル、サニアだった。
風華絶代と呼ぶにふさわしい舞姫の少女は、私に向かって再び蠱惑的なウィンクを投げて見せた。
「私にも一杯くださるかしら? ハンサムな東方の旦那様?」
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