第43話:約束と危機
朝、私は溫かい溫柔鄉(やわらかな愛の巣)の中で目を覚ました。周囲を見渡せば、どこもかしこも全裸の美女たちの肢体が広がっている。
昨夜、私はカリエル、ルヴィエル、エロウィス、フローリアンヌの四人と夫妻の儀式を執り行い、交わりを終えた。今や彼女たちは正式に私の女だ。
そして昨夜は、ミッドナイトが去っていって以來、私が體內に溜まりに溜まった慾望を真の意味で「完封」できた珍しい一日でもあった。
それもそのはずで、『龍の涎』と『武神のちまき』によって私の肉體が改造されて以降、私の體質は徐々に「龍族」のそれに近づいてしまっている。並の人間女性の體力では、現在の私の體力と精力を受け止めきれるはずがないのだ。
あの度胸のあるアリアでさえ、すぐに私に折檻(滿足)されて精根尽き果ててしまう始末だった。
その後にエリンが加わり、幾分状況は改善したものの、依然として彼女一人で私の慾望を受け止めるには荷が重すぎた。
それが昨夜、四人の新たな妻たちのおかげで、私は久々に清々しい「賢者モード」へと足を踏み入れることができたというわけだ。
私は愛おしい妻たちの顔にそっと愛撫のキスを落とすと、階下へと下りて朝食を済ませた。
そしてそのままの足で街道を疾走し、『きこりの町』へと向かった。
今回ここを訪れた目的は、建設業者のスレーターさんに會うためだ。彼らの工程隊(大工チーム)を率いて、私と妻たちのための新しい『領主館』を建てるよう依頼したかったのだ。……何しろ、今の宿屋では部屋数が決定的に不足している。
現在の雪花旅館は三階建ての構造になっている。
一階はロビーとカウンター(兼食堂)、そして廚房、浴室、井戸、馬廄などの後方支援エリア。
二階と三階が居住エリアとなっている。
二階には全14室のスタンダードルームがあり、そのうち2つの部屋の壁をぶち抜いて私の主寝室にし、もう1室は執務用の書斎へと改造してある。
三階には全15室あり、スタンダードが10室、スイートルームが2室、そして相部屋が2室、残りのスペースは倉庫だ。
目前、私とエルフたちが共同で暮らしており、たまに2、3組の旅人を泊めれば、ちょうど居住率100%に達する狀態だった。
しかし、カリエルからの情報によれば、オベロンが明日にもエルフ王國へと引き返し、第二陣となるハーフエルフたちを連れて帰ってくるという。
そうなれば部屋が足りなくなるのは明白だ。だからこそ、新たな住居が必要不可欠だったのである。
ついでにこの機會を利用して、自分と妻たちがゆったりと暮らせる屋敷を建ててしまおうと考えたのだ。
私の構想を一通り聞き終えると、スレーターさんは「ガハハ!」と豪快に笑って快諾してくれた。
「いやぁ、ゲンタクさんは我が社のまさに『福神』ですよ! 以前引き受けた案件だけで、うちの会社の今期の業績は昨年の年商の三分の二にまで跳ね上がりましたからね。断る理由なんてどこにもありませんよ!」
「本当ですか! 助かりました! 他の大規模な現場(工事)に引っ張りだこで、こちらに来てもらえないんじゃないかとヒヤヒヤしていたんです!」
私は胸を撫で下ろし、安堵の息を漏らした。
私の元の世界の認識では、建売業者というものは人が買えるかどうかにかかわらず、留まることなく家を建て続けるイメージがあった。
どうやら異世界はそのあたりの風習や事情が地球とは異なるらしく、狂ったような不動産投資の波はまだ押し寄せていないようだ。多くの人々が真面目に働けば、普通にマイホームを手に入れられる健全な世界らしい。
スレーターさんは傍らの助手と軽く二言三言交わしたのち、すぐに返答をくれた。
「実は他の現場も抱えてはいるんですがね、あと2、3週間もすればひと段落します。それが終わり次第、すぐにお宅の領主館の建設に取りかかりますよ」
「ありがとうございます、その時はよろしくお願いします! こちらが設計のラフスケッチと前払い金です。……それじゃあ、私にはまだ他の用事もありますので、これで失礼しますね!」
「ええ、道中お気をつけて!」
スレーターさんたちに別れを告げ、事務所の出入口を出ようとしたその瞬間――入ってきた人物とまともに正面衝突してしまった。
「キャッ……!?」
黒のドレスに身を包んだ紫髪の美女が短い悲鳴を上げ、咄嗟に両手で己の豊満な胸元を庇いながら、二、三歩後ざさりした。
「すみません! 大丈夫ですか……って、セレスティーナさん?!」
私は目を丸くし、信じられない思いで目の前の女性を見つめた。
そこにいたのは、かつて一度だけ顔を合わせたことのある絶世の美女であり、魔法道具店の店主――セレスティーナさんだったのだ。
まさかこんなところで再會できるとは……。
ここ数日、私のラック値は一体どうなっているんだ?!
こちらの顔をしっかり確認すると、セレスティーナさんは「あ!」と小さく声を上げ、驚きの表情を浮かべた。
「まぁ! あなたは……噂の『伝説の男性』ではありませんか?!」
「え……で、伝説……?」
彼女の言葉に微かに混ざる呆れと嫌悪のニュアンスを感じ取り、私の背中に嫌な汗が伝わった。
「ええ、町の皆さんの間で持ちきりですよ! なんでも、巨木の森に居座った外国人の男が、巨大な屋敷を建てた挙句、筆舌に尽くしがたい美しいエルフたちを監禁して、劣悪な労働を強制しているとか……」
「果ては公爵家の令嬢であるアリア様や、きこりの町の全男子の憧れの的であるソフィア様まで毒牙にかかり、二度と日の目を見られない性奴隸に成り下がってしまった……なんて噂がね」
セレスティーナさんは顔を青くし、豊かなバストを手で固くガードしながら、まるで変態を見るかのような視線を向けてくる。
噂がこれ以上変な方向に一人歩きされては溜まったものではない。私は慌てて弁明した。
「誤解です! それは完全なでっち上げですよ! 私は誰も監禁なんてしていませんし、あのエルフたちも普通にうちで働いてくれているだけです!」
「アリアもソフィアも元気に過ごしていますよ! 虐待なんて滅相もないですし、奴隷扱いなんて絶対にしていませんから!」
しかし、私の必死の弁明に対しても、セレスティーナさんは疑わしそうな視線を崩さなかった。
「……本当かしら? じゃあ、男と女の淫らな関係を乱立させたりはしていない? 例えば、何股も同時にかけるような真似とか……」
「えっ……と……」
私の脳のCPUが一瞬でフリーズした。どう弁明すべき言葉が見つからない。
たとえこの世界の貴族社会において多妻が容認されているとはいえ、一般的な庶民の間では依然として一夫一妻制の伝統が色濃く残っている。一夫多妻など、浮気性で不誠実な好色漢のやる事だと捉えられがちなのだ。
つまり……。
きこりの町の住人たちの目には、私は『稀代の屑男』として映っているということか……?!
私の顔がみるみる絶望に染まっていくのを見て、セレスティーナさんは耐えきれなくなったように「プッ」と吹き出した。
「ふふっ……アハハハ! ゴメンナサイ、ちょっとからかい過ぎちゃいました!」
彼女はお腹を抱えてくすくす笑い、目角に浮かんだ涙を指先で拭った。
「大丈夫ですよ! 私は以前、アリア様やピエニン商会の方々に大変お世話になりましたから、あなたが本当はどんなお人柄かくらい存じておりますわ。だから安心してくださいな、軽蔑なんてしていませんから」
「ふぅ……良かったぁ……!」
私は胸を撫で下ろし、命拾いをしたような顔をした。
そして、気を取り直して好奇心から尋ねてみた。
「ところで……セレスティーナさんは、スレーターさんに何かご用で来られたのですか?」
「ええ、私が経営しているお店の床がだいぶ傷んできてしまいましてね。ちょっとリフォームをお願いしようかと立ち寄ったのですわ。……それで、ゲンタク様は? もしかして、エルフの奴隷たちを閉じ込める地下室でも建てに来られたのですか?!」
セレスティーナさんは再び誇張された『大驚愕』の表情を浮かべ、大袈裟に二、三歩後ずさりしてみせた。
私は白目をむき、呆れたように吐き捨てた。
「そのノリ、いい加減にしやがりませんか! めちゃくちゃ紛らわしいですって!」
「ふふっ! ゴメンナサイ! だって……私がずっと密かに惹かれていた男性が、私には一度も会いに来てくれないくせに、天仙のように美しいエルフたちとよろしくやっているだなんて……女として少しは嫉妬くらい焼いちゃいますわ!」
そう言うと、紫髪の美女はぷいっと横を向き、頬をフグのようにぷくーっと膨らませてみせた。
私は完全に意外だった。まさか自分が異世界で出会った一番の美女(私の中での暫定ナンバーワン)が、これほどまでに愛くるしい表情を見せてくれるとは――。
私の心臓は一瞬で撃ち抜かれ、そのあまりに可憐な光景が脳裏に強く焼き付いて離れなくなってしまった。
だが、それ以上に重要なのは……!
「え、えぇっ?! ぼ、僕のことが好きなんですか?!」
私は目を銅鑼のように見開き、信じられない思いで尋ね返した。
「そんなの当たり前じゃありませんか! イケメンで男っぷりが良くて、お金持ちな男性を嫌う女がどこにいますの? それに、あの気高きアリア様や高傲なエルフたちにまで自ら膝を屈させた男性ですもの」
「私だってバカじゃありませんわ。誰が本当の意味で優れているのかなんて、見ればすぐに分かりますもの」
紫髪の美女は腰に手を当て、上半身をぐぐっと私の方へと寄せてきた。鼻腔をくすぐるのは、クラクラするほどに甘く優雅な体香。
アリアの薔薇の香水とも、エルフたちのまとう清廉な草木や森の匂いとも違う……より妖艶で、どこか狂おしいほどに致命的な香り。
例えるならば――そう、まさに『罌粟(ポピー/ケシ)』の花の香りのようだった。
「あ、ありがとう……ございます……」
なぜか、私は思わずお礼を言っていた。
セレスティーナさんは私のその呆然としたリアクションにご満悦の様子で、クスリと微笑みながら尋ねてきた。
「それで? スレーターさんには一体どんなご用件で来られたのですの?」
「あっ……いや、その……そうだ! 近いうちにまた新しいエルフたちが大勢越してくることになりまして、それでスレーターさんに頼んで新しい屋敷を建ててもらおうかと……」
香りに少し慣れてきたのか、私の脳みそはようやく正常な思考を取り戻し、滑らかに言葉が出てくるようになった。
「あらぁ〜〜〜? ということは、将来的にあなたの女性がさらに増える……ということですの?」
セレスティーナさんはどこか含みのある意地悪な笑みを浮かべて私を見つめてくる。
私は慌てて両手を振り、必死に弁明した。
「ち、違います! 誤解ですって! 彼女たちはただの一般的な従業員ですよ!」
「ふん! どうだか怪しいものですわ! 男なんて元々、下半身でしか物を考えられない生き物ですもの!」
セレスティーナさんは「フンッ」と小さく鼻を鳴らした。
その時、彼女は何かを思いついたように、パンと手を打ち合わせた。
「そうだわ! そういえば、私ってばまだ一度も雪花旅館にお邪魔したことがありませんでしたわね!」
「そうだ、明日から何泊か泊まりに行こうかしら! ちょっとしたバカンス(休暇)のつもりでね! ゲンタク様、私の専属ガイドを務めてくださるかしら?」
セレスティーナさんが私に向かってパチンとウィンク(目配せ)してみせた。
そのアメジストのような瞳がまるで電流を放ったかのようで、私は本日二度目の心臓爆撃を受けることとなった。
「えっと……本当なら僕がずっと付き添っておもてなししたいのは山々なのですが、あいにく明日はチームを率いてエルフ王國まで移動し、新しいエルフたちを連れ戻してこなければならなくて……。もしよろしければ、うちの優秀なメイドを一人手配して、ガイドに付けましょうか?」
その提案を聞くやいなや、セレスティーナさんはすぐに首を横に振って拒否した。
「それなら結構ですわ! 私は他の女の人になんて興味はありませんもの。あなた以外のガイドなんて絶対に嫌です!」
「あはは……」
私には苦笑いで返すことしかできなかった。
「……で、どのくらいお出かけになりますの? いつになったらまたあなたに会えますか?」
セレスティーナさんは一歩踏み込むと、私の上着の袖をギュッと掴んできた。
その名残惜しそうな切ない表情があまりにも健気で、私は胸が締め付けられるような愛おしさを覚えた。
私は彼女の手をそっと力強く握り返すと、真摯な瞳で見つめ返した。
「今回の遠征は、およそ2、3週間ほどかかる予定です。帰ってきたら、一番にあなたに会いに行きます。……それでどうでしょうか?」
「……本当ですね?! ふふっ、楽しみに待っていますわ! ……絶対に約束ですよ!」
セレスティーナさんはまるで幼い子供のように、小さな小指をすっと差し出してきた。
私は柔らかく微笑むと、自分の小指を彼女の滑らかな小指に絡ませ、しっかりと約束を交わした。
「ええ、約束です!」
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その後、私は急ぎ『雪花領』へと引き返していった。
――しかし、当時の私が知る由もなかったのだ。
私が背を向けて立ち去った直後、セレスティーナの瞳の奥に、一瞬だけ怪しい『鮮血のような赤』の光が閃いたことを。
それは、人間以外の怪異な種族だけが宿すことのできる異形の色。
彼女は去りゆく私の背中を妖しく見つめながら、ゾクッとするほど淫らにその舌で唇を舐め上げたのだった……。
「……ついに……待ちに待った機会が巡ってきたわ……!」
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