第42話:立妃の儀
「これより、第一回・雪花領幹部授封並びに立妃の儀を執り行います!」
舞台の中央に立ったアリアが、胸を張り高らかに宣言した。
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本日は戦神暦Ⅱ1037年9月1日。私がこの異世界へと召喚されてから、ちょうど六ヶ月目にあたる日だ。
半年前の私は、コンビニでバイトをこなし、賃貸のアパートに戻ってはスマホを弄って暇をつぶすだけの、どこにでもいるしがない一般人だった。
それが今や、一国の領地を治める領主となったばかりか、複数の愛しい紅顔の佳人を妻に迎え、まさに人生の絶頂期を謳歌している。
アリアの提言により、私は雪花領に『六大部門』による管理体制を正式に確立し、その中から選ばれた五人の女性を新しく妻として娶ることに決定した。
『会計班』は引き続きアリアが管轄するが、彼女は出産まであと九ヶ月という身であるため、実際の業務は順次エロウィスへと引き継がれる。
『農業班』も同様で、エリンが責任者に昇格したものの、彼女も妊娠したため、業務は段階的にフローリアンヌへ任せられることになった。
そして『家事班』はソフィアが統括し続けるが、『料理班』の現場指揮はルヴィエルが担当する。
警備班の責任者にはカリエルが就任し、『医療班』はアデリナが指揮を執る。
もし今後、これらの責任者たちが妊娠した場合は、班員の中から代役を選出して昇格させ、元々の責任者が出産を終えて復帰するまで業務を代行するシステムだ。
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現在、私は仕立ての良い黒のスーツに身を包み、純白のドレスを纏ったアリアと共に舞台の上に立っている。
そして私が迎える五人の新娘(花嫁)たちは、下壇の椅子に腰掛けてその時を待っており、その背後には他のエルフたちがずらりと参列していた。
アリアはそのまま司儀(司会進行)の役割を務め、朗々と口を開いた。
「本日、第一正妻であるミッドナイトが不在につき、第二正妻である私、アリア・玄・ヨルゴスが司会を務め、ここに栄えある名簿を発表いたします」
「第三正妻、カリエル・シルバーリーフ」
「第四正妻、エリン・グリーンリーフ」
「第五正妻、ルヴィエル・サンリーフ」
「第六正妻、エロウィス・シレーネフォリア」
「第七正妻、フローリアンヌ・ドリームリーフ」
名を呼ばれた女性たちが、次々と席から立ち上がった。
彼女たちは胸に色鮮やかな花束を抱き、頭には花冠を戴き、白地に緑の紋様があしらわれた美しい婚礼衣装を身に纏っていた。その顔には、隠しきれない歓喜の笑みが咲き誇っている。
「――以上の者たちは、品性優良にして温和賢淑、妻妾として至極相応しい女性たちであります。私は雪花領領主・玄徳 (ゲンタク) 様に代わり、汝らにその姓に[玄]の名を刻む権利を授けます」
「女神・スカディ様、並びに女神・ヘスペリア様の御前において、汝らが己の分を弁え、妻としての責務を果たし、[玄]一族の血脈を繁栄させ、雪花領に多大なる貢献をなさんことを!」
「「「「「我が身の命に代えて誓います。己の分を弁え、妻としての責務を全ういたします!」」」」」
五人の新妻たちは静かに頭を下げ、声を揃えて誓いを立てた。
彼女たちは順番に舞台へと上がり、私は新娘たちの柔らかな唇に、一人ひとり誓いのキスを落としていった。
彼女たちの唇は甘く柔らかく、ほんのりと甘美な桃の香りが漂っていた。
しかし、これは同時に重々しい『責任』の証でもある。私がこの異世界で、自らの手で生み出したかけがえのない『絆』なのだ。
たとえ私が根っからの無頓着で怠惰な人間であろうと、ここに至っては腹を括ってこの責任を背負い続けるしかない。
それは法律の規定などではなく、男として彼女たちに捧げた生涯の誓いであり――彼女たちが「永遠に私を愛する」と誓ってくれたことに対する、私の答えなのだから。
「新郎新婦に盛大な拍手を! 二人の永遠の愛に祝福を!!」
アリアが高らかに叫び、真っ先に惜しみない拍手を送った。
「エリン、おめでとうー!」
「お母さん、幸せになってね!」
「カリエル殿下、今日の衣装、息を呑むほどお美しいです!」
会場の参列者たちから一斉に歓喜の歓声と拍手が沸き起こり、場内は幸福な祝祭の熱気に包まれた。
カリエルは大優雅に参列者へ手を振り、エルフの王女たる気品を見せつけた。
エリンはお腹に優しく手を添え、溢れんばかりの母性の光を放っている。
フローリアンヌとエロウィスは、少し照れくさそうに恥じらいの笑みを浮かべていた。
ルヴィエルに至っては、手に持っていたブーケを実の娘に向かってまっすぐ放り投げてみせた。
ブーケをしっかりと受け取ったルミナは、周囲の笑い声の中で顔を真っ赤に染めた。
彼女は何かを悟ったように、小さな声で呟いた。
「……ありがとう、お母さん」
その時、サイドのスリットが深めに入った白のチャイナドレスに着替えたソフィアが、ワゴンを押しながら後方から姿を現した。
「それでは皆様、お食事の配膳を始めさせていただきます!」
料理班のスタッフたちが一台また一台とワゴンを押し出し、出来立ての絶品料理を豪華なテーブルの上に並べていく。
『砲台ロブスター』を贅沢に使用した、濃厚なグラタンロブスター。
『狂暴雉鶏』をじっくり煮込んだ、滋養強壮の薬膳チキンスープ。
『砕岩ボア(さいがんボア)』の肉を丸ごと香ばしく焼き上げた、極上ローストポーク。
そして締めくくりのデザートには、『青春緑茶』を練り込んだ甘い湯圓(白玉団子スープ)が振る舞われ、飲み物には『世界樹の雫』を隠し味に加えた濃厚なアップルジュースが用意された。
これらの祝宴メニューはすべて私が考案し、魔獣の狩りも私自身がチームを率いて捕獲してきたものだ。私の故郷のめでたい風習を再現し、愛する家族たちに一生忘れられない最高の夜をプレゼントするために。
彼女たちが今日のこの美しき思い出を永遠に忘れず、私のような「ごく普通の男」に嫁いだことを後悔しないよう願うばかりだ。
満面の笑みを浮かべてご馳走に舌鼓を打つ家族たちの姿を見つめながら、私自身もまた、深く温かい幸福な微笑みを浮かべていたのだった。
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夕暮れ時、怒濤の儀式がようやく終わりを迎えた。
残った者たちが会場の片付けを進める中、私は一人、疲れを癒すべく大浴場へと向かい、湯を浴びることにした。
私が体を洗う洗い場の椅子に腰掛けた、まさにその時――木製の内ドアが開く音と共に、聞き覚えのある女性の声が耳に届いた。
「……五人全員を嫁にしろって私が言った時、てっきりもっと驚いた顔をするかと思ってたのに。……本当は、最初から全部お見通しだったんじゃないの?」
アリアがその柔肌を惜しげもなく晒し、すっぽんぽんの姿で浴場の中へと入ってきたのだ。
私は体に石鹸の泡を滑らせ続けながら、振り返ることもせずに答えた。
「……女たちが急に一堂に会したってのに、修羅場にもならずに静まり返ってるのを見た瞬間から、次に酷い目に遭うのは俺なんだろうなって察してたよ……」
「……調子の良いこと言っちゃって……」
アリアは呆れたように小さく呟くと、迷いのない足取りで私の背後へと歩み寄ってきた。
「……背中、流してあげるわ」
彼女は私の手から石鹸をすっと取り上げると、タオルで私の背中を優しく擦り始めた。
「ん?……お前、そんなことできたっけ?」
「バカにしないで頂戴!」
アリアが私の背中をぽんと軽く叩いた。
他の夫婦がどうかは知らないが、こういう少し小小の軽口を叩き合える関係こそが、私と彼女の間では日常茶飯事の親愛の証だった。
私の中で、ミッドナイトは今でも甘やかすべき『公式の彼女』という立ち位置にいる。だがアリアは、すでに私の心の中で揺るぎない『お嫁さん(妻)』の象徴となっていた。
雪花領にいる数多くの魅力的な女性たちの中で、彼女は決して飛び抜けて美しいわけでも、頭が切れるわけでもない。だが、彼女だけが私の心の最も深い奥底へと踏み込んできたのだ。
一体どうしてだろう?
……もしかして、彼女は俺という男の『攻略法』を完全に熟知しているとでも言うのだろうか?
妻の至れり尽くせりなサービスを全身で堪能しながら、私の脳裏にはとりとめのない思考が巡っていた。
その時、背後からアリアが静かに口を開いた。
「領主の妻――この『座』はあまりにも重大な意味を持つわ。決してその時の気分や好き嫌いだけで決めていい立場じゃないの。あなたも今やこの国の立派な貴族なのだから、少しは現地の風習や民情というものに配慮しなさいな」
彼女は手桶を持ち上げると、なみなみと汲んだ温かい湯で私のアタマから背中にかかった泡を綺麗に洗い流してくれた。
「先に湯船に入ってて。すぐ行くから」
「あぁ」
私は湯船へと移動して肩まで浸かり、アリアが一人で体を洗い流す様子をぼんやりと眺めた。
「……あの五人を選んだのも、決して適当に決めたわけじゃないわ。カリエルはエルフたちの絶対的な指導者だし、エリン、ルヴィエル、エロウィス、フローリアンヌの四人は誰よりも精力的に働き、相応の成果を叩き出してきた。彼女たちがただ愚直に努力するだけでなく、ちゃんと頭を使って結果を出せる優秀な人材だって証明してみせたのよ。……それに」
そこまで語ると、アリアはこちらをちらりと盗み見た。
「あなたの好みに完璧に合致しているし、普段から自分から積極的にお百度を踏んでアプローチしてくる……そこも大きな加点要素ね」
私は『好み(容姿とプロポーション)』という言葉をあえてスルーし、純粋な疑問を投げかけた。
「……なぁ、お前は自分で自分の『強敵』を育てているつもりなのか?」
「適度な競争は、組織を健全に成長させるために必要なことだわ。それに……もし彼女たちが本当に私より優秀で、私を追い抜いていくというのなら、取って代わられたって文句は言えないでしょうね」
アリアは手桶で体に残った泡を洗い流すと、ゆっくりと湯船へと足を踏み入れ、私のすぐ隣へと腰を下ろした。
「私以外の女性を作ることは許してあげる。けれど――あなたを愛してもいないような女を後宮に引き入れることだけは、絶対に許さない。それが私の譲れない『最低限のライン』よ。あなたも、このルールだけは絶対に守って頂戴ね」
彼女は私の目を真っ直ぐに見つめ、この上なく真剣な眼差しで語りかけた。
「それと、これからあなたが新しく妻を迎える時のために、いくつか『ルール』を定めておいたわ。よく聞いて頂戴!」
「一つ、身元が清廉であり、当主以外の男と断ち切れていない恋愛関係を持たないこと」
「二つ、女性と当主は自由恋愛に基づく関係であり、互いの献身を尊重し、妻としての責務を果たし、家庭に絶対の忠誠を誓うこと」
「三つ、新たな妻を迎えるか否かの決定権は当主にあるが、その名簿の資格は現任の妻たちの過半数の同意を得ること」
「四つ、すべての妻は一族内の法規に従わねばならず、いかなる例外も認めないこと」
「五つ、離婚を認める。雙方が署名した時点で成立とする。ただし離婚の際、未消費の特殊アイテム、および一族の名義で取得したが約定の用途を果たしていないすべての金銭・資産は返還すること。ただちに返済できない場合は、後日の返済を約束する魔法契約を交わすこと」
そこまで聞き取ったところで、私は思わず眉をひそめて問いかけた。
「前半はすごく合理的なルールだと思うけど……五つ目の条件は、流石に厳しすぎないか……?」
アリアは私が何を心配しているのかお見通しといった様子で、優しく噛み砕くように説明してくれた。
「私も同じ女性だからこそ、あなた以上に『婚姻という制度を利用して甘い汁を吸おうとする人間』の恐ろしさを知っているのよ」
「厳密に言えば、領主とその妻妾たちもまた、この土地の公務を担う存在なの。私たちはこの土地に生きる民に対して責任を負い、清廉なイメージを維持しなければならない。民が納めた貴重な税金を使いながら、その立場としての責務を果たさないなんて……そんなことが許されるはずがないでしょう!」
そう語りながら、アリアは水中へとそっと手を伸ばし、私の太ももを優しく揉み解し(マッサージ)始めた。
やがて、私の底に眠っていたある欲求が静かに、だが確実に燃え上がり始めたのを感じ取ると、私は身を翻してアリアの華奢な体を固く抱きしめた。
「……ありがとう、アリア……」
「……ん……っ」
アリアという賢明で愛おしい妻を持てたことを、私は心から誇りに思う。
もしミッドナイトが私に『恋愛』というものの甘やかしを教えてくれたのだとすれば、アリアは私に『責任』というものの重みと気高さを教えてくれたのだ。
彼女はドラマの女優のように、型に嵌まった白々しいお芝居(茶番)を演じたりはしない。
自分が何をし、私がこれから何をすべきなのかを、常に包み隠さず明確に示してくれる。
彼女は自分自身を私の『切り離せない半身』として扱い、己のすべてを私に晒してくれている。……私自身以上に、この『家』の未来を大切に思ってくれながら。
たとえその行動の裏に『ミッドナイトを抑えて正妻の座を盤石にしたい』という思惑が少なからず含まれていたとしても、彼女が雪花領に及ぼした絶大な貢献は、他の誰をも遥かに凌駕しており、今なお留まることを知らない。
「今夜のあなたは、私だけのものじゃない……みんなの『旦那様』よ。……私もしばらくは体を労わって、これからの出産に備えなきゃいけないから、妻としての『お勤め』もしばらくはお預けになるわ」
アリアは私の耳元に小さく咬みつき、その温かい身体を私の胸へと強く押し付けてきた。
「ねぇ……私が正式に『母親』になる前に……もう一度だけ、女としての幸せを、私に味わわせて……いいでしょう?」
その甘い囁きが、私の理性の糸を途切れさせる最後の決定打となった。
私はアリアの熟した唇に深いキスを落とし、そのまま彼女の身体を浴場のお湯が滴る壁際へと押し当てていった――。
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夜の帳が、静かに雪花領へと降りてくる。
外では、いつしか激しい恵みの雨が大地を叩きつけていた。
それは渇いた土地を潤す慈雨であり、大自然がこの地に注ぐ、包み隠すことのない無償の愛のようだった。
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