第40話:ハーレム会議
【Side:カリエル】
「……公爵様は今回の料理に大変満足しておられました。しばらく時間を置いたのち、私たちは帰還いたします……」
「私とコラリスは、殿下の陣営に加わることを決意いたしました。どうかお約束をお守りくださいますよう……」
カリエルは手紙を最後まで読み終えると、それをゆっくりと折りたたみ、机の引き出しの奥へと収めた。
続いて、小さな皿に盛ったナッツを信書鳩の前に置く。
「ご苦労様」
鳩は誇らしげに胸を張り、羽を二、三度パタパタと羽ばたかせると、差し出されたナッツを勢いよくつつき始めた。
その時、部屋の扉がコンコンコンと軽快に叩かれた。
「お入りなさい」
「失礼いたします」
メイド服に身を包んだハーフエルフの少女が入ってきた。
風にしなやかにそよぐ美しい金髪をツインテールに結い上げた彼女の名はヴィヴィアン。家事班に所属する少女だ。
彼女は戦闘能力を持たない数少ないハーフエルフの一人でもある。
「カリエル殿下、アリア様がお呼びでございます」
「あら? それは珍しいわね。彼女、何か言っていたかしら?」
カリエルは興味深そうに眉をひそめた。
ヴィヴィアンは一瞬の躊躇を見せたのち、意を決したように口を開いた。
「それが……エルフの皆さんを集めて、少し話し合いたいことがおありだそうでして」
「時間は今夜の9時。場所は大浴場。エルフ全員を集めるようにとのことです。……なお、ゲンタク様は同席されません」
カリエルは窓辺へと歩み寄り、眼下に広がる青々とした菜園と、庭の隅に植えられたばかりの十本の桃の木を見つめながら、振り返りもせずに問いかけた。
「ヴィヴィアン、貴女はどう思う……? 彼女、一体何のつもりかしら?」
「おそらく……これまでのことに対する『お仕置き』ではないでしょうか……? 正直、このところの私たちの行動は、少々やりすぎていた感がありますし……」
ヴィヴィアンが気まずそうに苦笑いを浮かべた。
「そうかしら?」
カリエルはくるりと身を翻すと、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
彼女たちが裏でどんな「猛攻」を仕掛けていたか、カリエルが知らぬはずもない。何しろ、そのすべてを陰でそそのかした黒幕こそが彼女自身なのだから。
ノーブラのままゲンタクに抱きついたり、口元についたご飯粒を舐めとったり、あるいは白昼堂々と浴室に侵入して混浴を迫ったり――それらの大胆不敵な行動の陰には、常にカリエルの助言があった。
アリアがそれをどう受け止めるかなど、カリエルの知ったことではない。
何せ彼女はエルフの優秀な指導者であり、ただ同胞たちの幸福のためにのみ尽力すれば良いのだから。
「私はむしろ、貴女たちが素晴らしい働きをしてくれたと思っているわ。……で? 貴女自身はどんな『攻勢』を仕掛けたの? 聞かせてちょうだい」
その問いに、ヴィヴィアンは呆れたように肩をすくめた。
「私にそんなことをしている暇なんてあるわけないでしょう!」
「今、家事班はコーデリアとコラリスが出張中で抜けちゃってて、毎日の仕事だけで手いっぱいなんですよ! そんな状態でどうやってゲンタク様にアタックしろっていうんですか?!」
カリエルはどこ吹く風といった様子で、優雅に歩み寄ると、ヴィヴィアンの白く滑らかな頬を優しく撫で、微笑んだ。
「安心しなさい。そんな状況もそう長くは続かないわ。オベロンが近いうちに、次のハーフエルフたちを連れて帰ってくるはずよ」
「そうなれば、仮にあなたたちの半数が産休に入ったとしても、この雪花領は問題なく機能するわ」
カリエルの表情は確固たる自信に満ちあふれていた。
エルフは世界で最も美しく気高い種族。いかなる男といえど、彼女たちの魅力を前に抗うことなど不可能なのだ。それはゲンタクとて例外ではない。
エリンの件が良い例だ。『龍の涎』を口にした男性の滾る生理的欲求は、到底二人や三人の女性だけで賄えるものではない。
彼は遅かれ早かれ、さらに多くの妻妾を娶ることになる。そして、その『座』はすべて我がハーフエルフたちが独占するのだ!
その野望を果たすため、『乳汁蜜桃』の大規模栽培もすでに始まっている。
スカディ様より賜ったこの特殊な果実さえあれば、エルフに深く刻まれた『貧乳遺伝子』すらも書き換えることができる。そうして生まれるのは、人類の美意識と審美眼に完璧に合致した『新・エルフ』なのだから!
「はぁ……そううまくいけばいいですけどね……」
ヴィヴィアンはあきらめたように首を振り、そのまま部屋を後にした。
静まり返った部屋の中、カリエルは再び椅子へと腰掛け、今夜の「会談」について思索を巡らせ始めた……。
「私たちだけ、ね……」
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時間はあっという間に夜の8時50分を迎えた。
カリエルがすべてのエルフたちを率いてやってきた時、アリアとソフィアはすでに身体を洗い終え、湯船に浸かって湯浴みを楽しんでいる最中だった。
二人の姿を目にしたアリアは、穏やかな笑みを浮かべて声をかけた。
「焦らなくていいわ。まずはお風呂で汗を流して頂戴。女同士の語り合いは、それからにしましょう」
「行きなさい」
カリエルの合図一つで、アデリナを除くすべてのハーフエルフたちが一斉に体を洗い始めた。
「カリエル……アリア様はゲンタク様の奥様よ。あまり無茶な真似はしないで頂戴ね!」
ここに至っては、アデリナとて引き止める術を持たなかった。
「分かっているわ。弁えくらいはあるわよ」
カリエルは手をひらひらと振り、自身も湯浴みの列へと加わった。
彼女は自分の体を洗いながら、目線だけで周りのハーフエルフたちの姿を観察した。
『乳汁蜜桃』を口にしてからまだ3、4日程度しか経っていないというのに、彼女たちの胸のサイズにはすでに微かな変化が現れ始めていた。
これをあと2ヶ月も摂り続ければ、すべてのハーフエルフたちがエリンに匹敵するほどの豊かな実りを結ぶことになるだろう。
そこまで思い至り、カリエルの胸中の底力はさらに増していった。
間もなく全員が体を洗い終え、広々とした大浴槽へと足を踏み入れた。
エルフたちは各々隅の方へと腰を下ろし、アリアとカリエルの二人は湯船の中央で向かい合うように陣取った。
全員が着席したのを見届け、アリアが静かに口を開いた。
「……最近の一連の騒動、あなたの差し金かしら?」
「ええ、私が彼女たちにやらせたのよ。彼女たちを責めないで頂戴。圧倒的な実力を持ち、あろうことか『世界樹』のアイテムを安定して供給できる男性を前にして、その誘惑に抗えるエルフなんてこの世に存在しないわ」
カリエルは相手の視線を真っ向から見つめ返し、理路整然と言い放った。
「……ただ『世界樹のアイテムを手に入れるため』だけに? 私はてっきり、あなたたちもエリンと同じように、ゲンタクに『心』を寄せて誘惑しているのだと思っていましたわ」
アリアの顔色が陰り、その瞳から剣のような鋭い視線が放たれる。
カリエルは相手がなぜそこまで憤っているのか理解しかねたが、言葉を続けて説明した。
「その二つは決して矛盾しないわ! エルフは一夫一妻制であり、生涯でただ一人の伴侶しか受け入れない」
「けれど、世界樹の誘惑はあまりにも大きすぎるの。すべてのエルフは、世界樹を守るためなら喜んで己の命すら捧げるわ」
「これまで、その二つの要素を同時に併せ持った男性なんて一人もいなかった。ゲンタク様こそがその初めての存在であり、なおかつハーフエルフやダークエルフを差別しない稀有な方よ」
「……だとしても、あなたたちは彼を『愛して』いるの? 彼の多大なる恩恵を享受しておきながら、平然と彼の家庭を壊そうとする……自分たちがどれほど虚偽で浅ましいか、分からないの?!」
アリアが猛然と真っ直ぐな豪速球を投げ込んだ。
その場にいた、かつてゲンタクを誘惑した経験のあるハーフエルフたちが、一斉に後ろめたそうに下を向く。
「当然愛しているわ! 愛していなければ、誰が自分からあんな風にしがみつくかしら? 暇を持て余しているわけじゃないのよ!」
カリエルは一切表情を変えることなく、その球を力任せに打ち返し、さらなる反撃へと転じた。
「厳密に言えば、彼の『最初の女性』はミッドナイトよ。あなたなんて精々彼女の代用品、悪く言えば今の『ガールフレンド』に過ぎないわ」
「あなたたちは結婚しているわけでもないし、彼が公式にあなたを娶ると口にしたわけでもないでしょう? たとえ私たちが全員彼と関係を持ったとしても、あなたに口出しされる筋合いなんてないわ!」
アリアの顔色が劇的に変化し、蒼白と赤面の間を激しく行き来した。
彼女は下唇をきゅっと噛み締め、今にも涙が零れ落ちそうな表情を浮かべる。
ソフィアとエリンが見かねて助けに入ろうと前へ出かけたが、アリアは手で制してそれを拒んだ。
カリエルはこの千載一遇の好機を逃さず、さらに火力を強めて攻め立てた。
「そこまで『正妻』の立場を主張するのなら、自分自身の胸に手を当てて問いただしてみたらどうかしら? ――あなた、本当に彼を『愛して』いるの?」
「本当は、あなたの病気を治してくれる特別な料理を提供してくれたから、それを『恋』だと錯覺しているだけなんじゃないの?」
「きこりの町の人間なら誰もが知っているわ。あなた、以前に2度も『お見合い』で男側に断られたのでしょう? だからこそ、ゲンタク様が救いの手を差し伸べた時に、後先考えずにすがりついた……私の言っていることに間違いかしら?」
「エルフの『一途さ』と人類の『多情さ』は、古来より変わらない双方の天性。三歳児でも知っている理屈よ」
「ねぇ……あなたは胸を張って言えるのかしら? あなたは……『本当に』彼を愛しているのかしら?」
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