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異世界冷蔵庫領主~チート冷蔵庫のおかげで、いつの間にか世界を変えてしまった~  作者: 雪谷惑星
第1巻 : 始動編

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第32話:ミニトマトはお好きですか?

挿絵(By みてみん)


その時、リンゴの木の裏から誰かが突然ひょっこりと姿を現し、俺は心底肝を冷やした。


「ゲンタクさん、おはようございます!」


エリンが元気いっぱいに手を振っている。

俺は少し乱れた呼吸を整えてから、同じように手を振り返した。


「……おはよう、エリン。どうやら実験は順調みたいだな」


俺は周囲を見渡し、非常に満足そうに深く頷いた。

実は以前、冷蔵庫システムから野菜や果物を購入し、その種や根を植えて育てる実験をしたことがあったのだが、結果は散々だった。

発芽率が悪いだけでなく、その後の育ちも悪く、近代的な栽培水準には遠く及ばなかったのだ。


俺は反省せざるを得なかった。ここの土壌が不毛すぎるのか、それとも水源に問題があるのか?

あるいは、魔力の問題だろうか?

異世界には至る所に魔力が満ちあふれている。地中や河川の中だけでなく、目に見えず、触れることもできない魔力が空気中にも漂っているのだ。

つまり、その過剰な魔力のせいで、地球で育った普通の植物の株が許容量を超えて弾けてしまったのだろうか?

数十回に及ぶ実験の末、俺は最終的に諦めることを選んだ。


それが今、このエルフたちの中に植物系魔法を使える者が多くいることを偶然知り、さらに俺が「世界樹の雫」を所有していたことから、実験を再開してみたのだ。

そして今、俺は成功した!

エルフ族はさすが森の寵児であり、自然の女神の創造物だ。この惑星における最高峰の農夫と言っても過言ではない。

彼女たちがいてくれれば、俺の野菜・果物自給自足ライフはすぐにでも実現できる!


「はい! ご指示通りに、大水がめに世界樹の雫を3滴垂らし、それを育苗トレイに均等にスプレーしたところ、翌日には種がすべて発芽したんです!」


エリンは胸の前で両拳を握りしめ、顔いっぱいに大きな興奮を浮かべた。

確かエリンの話では、彼女は人間の血を半分引くハーフエルフで、本職は農夫。植物系の魔法はいくつか使えるものの、戦闘はからっきし苦手だと言っていた。

雪花領に加入した後は、他の数名の非戦闘員と共に農業班を結成している。


「そう言えば、初めて会った時、趣味は共同菜園でミニトマトを育てることだって言ってたな。どうしてそんなことを?」


俺の言葉を聞くと、エリンはきまり悪そうに後頭部を掻いた。


「それは……まあ、私なりの悪戯いたずらみたいなものです。ふふっ!」

「悪戯?」

「人間の社会に比べると、エルフ族の内部はかなり平等なんです。純血のエルフだろうと、私のようなハーフエルフだろうと、エルフの血を引いてさえいれば、どの家庭も小さなツリーハウスを無料で支給されますし、共同菜園の標準サイズの農地も割り当てられます」

「農地の管理費は必要ですけど、月にたったの銅貨15枚です。そこから収穫できる野菜や果物に比べれば、破格の安さと言えますね」

「それはいいな。自分で野菜を育てれば、食費を大幅に浮かせられる」


それを聞いて、俺は地球の不動産価格を思い出さずにはいられなかった。利益を搾取するために、一部の人間が大多数の居住権を無視し、シングルベッドにも満たない広さの土地を天文学的な価格まで吊り上げる。

それに比べれば、エルフ族の制度は確かに素晴らしく、人間以上に人間らしい生活を送っていると言えた。


「ですが、50年前にエルフと人間の戦争が勃発してから、すべてが変わってしまいました……。エルフ族の内部で反人類の気勢が強まり、最終的には議会もその圧力に屈して、ハーフエルフの家庭に割り当てられる菜園の面積を縮小する命令を出したんです」

「……どれくらい縮小されたんだ?」

「4分の3です」

「……」


その言葉を聞き、俺は言葉を失った。


「生き延びるために、私のようなハーフエルフの家庭は郊外へ行って農地を開墾しました。ですが、あそこの土地は共同菜園ほど肥えていませんし、周囲にはいつでも野生の魔獣が出没する危険がありました。そして何より恐ろしいのは……あそこには、腐魔藤ロット・フィエンド・ヴァインが現れることです」

「それは何だ?」


俺が興味を惹かれて問いかけると、エリンは説明を続けた。


「エルフ族の個人の平均的な戦闘力は普通の人間を3倍は上回ります。その上、森という環境のアドバンテージがありますから、人間の軍隊など本来は侵入すらできません」

「私たちに勝つために、人間は地獄の悪魔を召喚し、その手から魔界の植物……すなわち『腐魔藤』を手に入れたのです」

「人間は腐魔藤を放たれた矢に縛り付け、エルフ族の居住地へと射ち込みました。誰にも気づかれないうちに、腐魔藤は狂ったように繁殖を始めたのです。それらは土地を汚染し、水源を毒化して瘴気を生み出し、さらには世界樹の養分まで吸い取って、世界樹を枯死させてしまいます」


世界樹の話題に及ぶと、ハーフエルフであるエリンも思わず拳を強く握りしめた。

彼女は歯を食いしばりながら言った。

「私たちのような者が、なぜ故郷を遠く離れ、遥々こんな場所までやってきて定居することになったか分かりますか? 私たちは皆、汚染された野菜や果物、そして水源を大量に口にしてしまったのです。体内に魔素が蓄積され、死亡率は跳ね上がっていきました。私の両親も、そうして亡くなったのです……」


「解決する方法はなかったのか? 例えば薬とか、神殿の治癒術とか」

異世界なら、魔法や魔薬を使って解決する手段がいくらでもありそうなものだ。俺はそう推測した。


「一番安上がりなのは、神殿の人間……例えばアデリナ様のような神官に、神聖属性の魔法で体内の魔素を抑え込んでもらい、その上で世界樹の雫を使って浄化することです。ですが……」


そこまで言うと、エリンの表情はがくりと落胆したものに変わった。

彼女の瞳の奥には、深い劣等感が満ちていた。

だから、俺は彼女にとって口にするのも憚られるであろうその言葉を、代わりに引き取って口にした。


「お前たちは日々の食事にすら困窮しているんだ、神殿の治療費など払えるわけがない。それに世界樹の雫は戦略物資だ。戦時中に、身分の低いハーフエルフのために使われるはずもない」

「つまり……お前たちは移住や薬草探しのために旅に出たのではない。国内の資源を節約するために、政府によって仕組まれた人為的な『追放』だった。俺の言っていることに間違いはないか?」


「……実にお見事です。エルフ族の最も醜悪な一面を見抜かれてしまいましたね」


エリンは力なく苦笑した。


「だけど……お前たちのメンバー構成を見ると、男はオベロン一人だけで、他は全員女性だ。男のハーフエルフは感染しなかったのか?」


俺が疑問を投げかけると、エリンはさらに説明を続けた。


「人間と同様に、エルフ族の男性は女性に比べて戦闘力が遥かに高いのです。戦時下において、男性のハーフエルフは戦場への従軍が義務付けられます。その見返りとして、議会は彼らに純血のエルフと同等の待遇を与えました。つまり……」


「国家に貢献できず、それどころか治療に費用がかさむお前たちだけが、見捨てられたということか」


エリンは返す言葉もなく、ただ俺に向かって、どうしようもない苦笑いを浮かべることしかできなかった。



「オベロン様は議会のメンバーですし、彼の任務はあくまで私たちの引率です。新しい棲み処を見つける手助けが終われば、故郷に戻ることになっていました」

「ただ、カリエル殿下とアデリナ様だけは事情が違います。お二人は純血のエルフでありながら、同胞を追放するという国のやり方に耐えかねて、自ら私たちの旅への同行を志願してくださったのです。病に侵されたハーフエルフたちの面倒を看て、そして……私たちが全滅するその日まで寄り添うつもりで」


そこまで話すと、エリンと俺の間に重苦しい沈黙が降りた。

少しの沈黙の後、俺は彼女の肩をぽんと叩いて声をかけた。

「……本当に、過酷な旅路だったんだな」

「最初にお会いした日、あなたにたくさん我儘なことを言ってしまいました。でも、あれは私たちの本心ではないのです。私たちはただ……死が間近に迫っていたせいで、抑えきれなくなった感情をあなたにぶつけてしまっただけなのです。どうか、お怒りにならないでください!」


エリンは俺に向かって深く頭を下げた。

俺は慌てて彼女の身体を起こす。

「すべては終わったことだ。今更誰を責める必要がある? それに、エルフ族の我儘でツンデレな一面を見られたし、おまけにあの光景まで拝めたんだからな……ははっ! よくよく考えれば、俺としても損はしてないさ」


俺の言葉を聞いて、エリンはかつて俺の目の前で全裸になった事実を思い出したのだろう、その頬が一瞬にして真っ赤に染まった。

「ゲンタク様の分からず屋……エッチ……」

エリンは蚊の鳴くような声でぶつぶつと呟いた。


「ところで、結局のところ、どうしてミニトマトを育ててたんだ?」

話がすっかり脱線してしまい、俺は最初の疑問を忘れるところだった。

エリンは不満げに唇を尖らせながら、不承不承といった様子で説明を始めた。


「私たちの家の土地は、後に、ある純血のエルフに割り当てられました。その男は、人間である私の母に向かって、酷い暴言を吐いたのです。だから私は、奴の家のミニトマトの苗の根元をこっそり切り落として、その隣に母が育てていた品種を植えておきました」


話しているうちに、エリンの顔に珍しく勝ち誇ったような笑みが浮かぶ。

「数日後、その男が菜園の様子を見にやってきて、なんと自分の家の苗を雑草だと思って引き抜いてしまったのです! しかも、その男が『さすがは純粋なエルフの品種だ、人間が育てた劣等種とは大違いだな!』と自慢げに話しているのを盗み聞きしてしまって……もう、おかしくて死にそうでした!」


そこまで話すと、エリンはついに堪えきれなくなり、プッと吹き出して笑った。

俺も釣られて笑った。

ただ、俺はエリンが心からの笑顔を見せてくれたことが、純粋に嬉しくて笑ったのだ。


「それにしても、ゲンタク様……あなたは、ミニトマトはお好きですか?」


その時、エリンが突然くるりと背を向けた。

ここからでは、彼女の表情を窺い知ることはできない。

「ああ、結構好きだぞ」


エリンは独り言のようにつぶやき続けた。

「私の母は、エルフ王国の近隣にある村の農家の娘でした。父のもとへ嫁ぐ際、彼女の家系が古くから育ててきた種苗をたくさん持ってきてくれたのです。母の生きた証を残すために、私は母と同じ髪型を結び、母が愛した植物を育て続けてきました。そしていつか……私は母がそうしたように、父のような男性を好きになるのかもしれません。つまり……強くて頼りがいのある、そんな方を」


エリンは深く息を吸い込むと、くるりと向き直り、真っ直ぐにこちらへと歩み寄ってきた。

彼女はみるみる赤くなっていく顔を俺の目の前まで近づけると、両手を俺の肩のすぐ横の幹へと突いた。俺はリンゴの木に背を預けた状態になり、完全に逃げ場を失ってしまう。


「ゲンタク様……私が育てたミニトマトを、味わってみたくはありませんか?」


彼女が囁くように吐き出した甘く芳醇な息吹が、ダイレクトに俺の顔を撫でた。

エリンがこれほど攻撃的な姿勢を見せるのは初めてのことで、俺は思わず後方にのけぞった。

御姉エルフは艶めかしく唇をひと舐めすると、その起伏に富んだしなやかな肉体を容赦なく俺に押しつけてきた。


「人間が育んだ品種ですから……エルフ族の貧弱で小さな果実に比べれば、我が家の品種の果実は、もっと大きくて、柔らかくて、とってもジューシーなんですよ……?」

「愛を注がれ、甘く実った結晶……ただ一人の人に味わわれ、独占されるためだけの果実を、あなた……受け入れてくださいますか?」


あまりの距離の近さに、彼女の柔らかい双丘が俺の胸へと直接押し当てられ、抗いがたい莫大なプレッシャーが押し寄せる。

彼女のその琥珀色の瞳の中に、俺自身の姿が映り込んでいるのが見えた。

いや、そこにはもっと複雑で、深いものが渦巻いていた……。

同族からの排斥、両親の死、不治の病への恐怖、強大な異性がもたらす絶対的な安心感、そして天国のようなこの環境……。

あらゆる要因が一つに溶け合い、家庭を築き、血脈を繋ぎたいという切実な渇望へと変わっていた。

これは一時的なホルモンの悪戯などではない。ダムが決壊するような、雪崩式の感情の氾濫だ。


美しく、そして脆い一人の女性の誘惑に、俺は抗うことができなかった。なぜなら、俺もまた彼女の抱える孤独と寂しさを痛いほど知っていたからだ。


前世の俺は、狭い賃貸の部屋に一人引きこもり、ハーレム系の軽小説を読んで寂しさを紛らわせることしかできなかった。

異世界へ来てからは、ミッドナイトを失った。

龍の涎は俺の身体を強化しただけでなく、俺の生存本能をも密かに変質させていた。アリアが傍にいてくれる今でさえ、俺の心の奥底にある、本能に近い見知らぬ衝動は、本当の意味で鎮まってはいなかったのだ。


俺はふと疑問に思う。龍の涎や武神のちまきといった特殊な食品を摂取し、全身の細胞レベルで作り変えられた俺は、果たして本当にまだ「俺」なのだろうか?

いや……。

なんと愚かな疑問か。

元の俺ではないからこそ、俺はミッドナイトと出会い、アリアの病を治し、こうしてエリンたちハーフエルフを救うことができたのだ。

俺は何一つ間違ったことはしていない。

俺がすべきことはただ……前へ進み続けることだけだ!


思考がクリアになったその瞬間、俺もまたエリンを強く抱きしめていた。

「同情なんかで抱きしめてるんじゃない。ただ純粋に、お前が魅力的だからだ」


その言葉を聞いて、エリンは愛おしそうに微笑んだ。

彼女がそっと手を挙げると、ひとつの魔法陣が鮮やかに輝きを放った。

菜園の隅にあったはずの、何もなかった荒涼とした地面が一瞬にして、緑と黄色が織りなす見事な菜の花畑へと姿を変えていく。

舞い散る花びらの中で、俺たちはもう、孤独ではなかった――。

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