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異世界冷蔵庫領主~チート冷蔵庫のおかげで、いつの間にか世界を変えてしまった~  作者: 雪谷惑星
第1巻 : 始動編

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第28話:雑魚と魔剣

台風斬タイフーン・スラッシュ!!」

オベロンは猛烈な勢いで剣を振り下ろし、淡緑色の巨大な剣気が瞬時に俺の視界を埋め尽くした。

彼は俺がバラバラの肉片に成り果てる未来をすでに確信したのか、勝ち誇ったように歓声を上げる。

「塵に還れ、下等生物が!」


その時、ショートヘアの女エルフが悲鳴のような声を上げた。

「オベロン、後ろよ!!」

「な、に……!?」

オベロンが慌てて振り返ろうとしたが、時すでに遅し。


パシッ。

俺は彼の背後に音もなく回り込み、その肩へと軽く手を置いた。そして、淡々と一言を告げる。

「一号水産養殖槽、収納」


その瞬間、エルフたちの目の前で目も眩むような鮮烈な緑の閃光が走った。

刹那の間、オベロンの巨大な体躯は、その場から跡形もなく消失した。


【一号水産:成体エルフ(雄性)×1。残り23時間59分59秒でロック解除】


(……マジかよ。ダメ元で試してみたんだが、本当に入っちまったぞ)

俺は目の前に浮かび上がったシステムパネルの文字を凝視し、呆然と立ち尽くしてしまった。


これまでの経験上、【冷蔵庫システム】の水産養殖槽アクア・ファームには、通常の魚介類以外では、ミッドナイトやグラフェンといった「竜族」しか格納できなかったはずだ。

俺はてっきり、竜族がこの世界の生態系の頂点に位置する超稀少生物だからこそシステムに認識されるのだと思っていた。だが、いま目の前にいる普通の「エルフ」が、なぜか同じように収納できてしまったのだ。


(じゃあ、なんで『人間』は弾かれるんだ?)

以前、森の中で孤立していた山賊に遭遇した際、実験的にシステムへ収納しようとしたが、人間は全く反応しなかった。

人間はダメで、エルフはOK。この差は一体どこから生まれるのだろうか。ここにはまだ俺の知らない、世界システムの特殊なルールが隠されているに違いない。


「あ、あなた、一体何をしたの!? オベロンはどこへ行ったのよ!」

「まさか彼を殺したんじゃ……! 命で償ってもらうわ!」

仲間の姿が煙のように消えたのを見て、ショートヘアの女エルフが顔を真っ赤にして激昂した。

彼女は手にした魔導杖を俺の鼻先に突きつけると、怒髪天を突く勢いで叫んだ。


「第4位階魔法:飛瀑激流ひばくげきりゅう!!」

次の瞬間、直系二メートルを超える巨大な水柱が、杖の先端から爆発的に噴射された。

それは巨大なダムを一瞬で決壊させるほどの圧倒的な質量と威圧感を伴って、俺の正面へと肉薄してくる。


しかし――俺の速度は、その魔法の起動よりもさらに速かった。

激流が中間距離に達するよりも早く、俺は陽炎のように彼女の目の前へと滑り込み、その柔らかい小腹へと右手をそっと添えた。


「二号水産養殖槽、収納」

再び眩い緑の光が走り、ショートヘアの女エルフもまた、瞬時にその場から掻き消えた。


「せっかく命を救ってやったというのに、その恩人にここまで傲慢に突っかかってくるとはな。少し大人しく頭を冷やしてもらうぞ」

まったく、やれやれだ。

俺たちはみんな文明人なんだから、武器を収めてお茶でも飲みながら話し合えばいいものを、どうしてこうも話をややこしくしたがるのか。


「カリエル殿下――ッ!?」

背後からエルフたちの悲鳴のような絶叫が聞こえてきた。現場は完全にパニックに陥っている。


「彼女はどこへ消えたんだ!? 吹き飛ばされたのか!?」

「バカ言え、俺たちの目は誤魔化せない! 攻撃の予備動作すら見えなかったぞ!」

「オベロン様の剣気を紙一重でかわしただけでなく、カリエル殿下の眼前へ一瞬で転移した……あれが本当に人間の出せる速度なのか!?」


俺はエルフたちの騒ぎを完全に無視し、防御の構えすら取らなかった。

なぜなら、すでに理解していたからだ。――このエルフたち、全員めちゃくちゃ弱い。いや、正確に言うなら、今の俺が「強くなりすぎた」のだ。


【二号水産:成体エルフ(雌性)×1。残り23時間59分59秒でロック解除】


俺はシステムの文字を眺めながら、これまでに集まった情報を脳内で整理し始めた。

そういえば、かつてこの二号養殖槽には、神聖属性の暴走で今にも自燃しそうになっていたあの珍妙なカササギが放り込まれていた。だが、保管期限が過ぎても取り出すことができず、不審に思っていたのだ。


それが一ヶ月ほど前、冷蔵庫システムのメールボックスを何気なく整理していた際、一通の奇妙なメッセージを発見したことで解決した。そこには短く三行だけ、こう記されていたのだ。


『あの鳥は私がもらったわ』

『そのうち返すから』

『世界で一番美しい女神大人より』


当時の俺はかなり呆気にとられたものだが、よくよく考えれば大した問題でもない。たかが一羽の鳥だ。女神様がそんなに欲しがっているのなら、喜んで献上しようではないか。

そんなわけで二号槽はずっと空き状態のまま放置されていたのだが、図らずも今日、この場所で有効活用されることになったわけだ。


(……もしかして女神様にとって、エルフってのはそんなに珍しい『稀少品』なのか?)

どうにも腑に落ちなかった俺は、思考を切り替え、すぐ近くでガタガタと震えていた一人の女エルフに直接声をかけることにした。


「ちょっといいかな、そこの美しいお姉さん」

「は、はひっ!?」

まさか自分に矛先が向くとは思っていなかったのか、女エルフは完全に思考がフリーズしたようだった。彼女は直立不動になり、軍人のような見事な直立不動の姿勢を取ってみせた。


「君の名前は?」

「わ、私はエリンと申します! 年齢は259歳、趣味は公有の菜園でこっそりミニトマトを栽培することです!」

サイドポニーテールを結い、どこか包容力のある人妻のような雰囲気を醸し出した女エルフが、緊張のあまり大声で自己紹介をした。


「…………」

いや、そこまで詳しいプライベートは聞いてない。

というか、公の菜園で密造トマトを作るな。自分の家の庭でやれ。


心の中で激しくツッコミを入れつつ、俺は表情を崩さずに本題を切り出した。

「……まあいい。エリンさん、さっき消えたあの二人のエルフについて教えてくれ。彼らは他のエルフと比べて、何か『特別』な血筋だったりするのか?」


エリンはぱちくりと大きな瞬きをした。

彼女は恐る恐る周囲の仲間たちの様子を窺ったが、誰もその質問を遮ろうとしないのを確認すると、声を潜めて静かに囁いた。


「オベロン様は……前任のエルフ王の甥にあたる御方です。そしてカリエル様は、現任のエルフ王の末娘にあたられます。……大体、そのような立場の方々ですわ」


「前任? 現任?」

「私たちの国家は議会制を採用しておりますの。議員の中から長老とエルフ王が選出される仕組みですわ」

「へえ、なるほどな……」


つまり、あの二人のエルフはどちらも最高権力者の血を引く、極めて尊貴な『王族』というわけだ。それならシステムが「高級な水産物」として特別扱いし、女神様がコレクションしたがるのも合点がいく。


そんなことを考えていると、ふと遠くの地面で何かがキラリと輝いているのが目に入った。

あれは……さっきのエルフのイケメンが落とした長剣か?


「お、あの剣めちゃくちゃ格好いいな! よし、俺がもらうぞ!」

俺は小走りでその長剣のところへと向かった。

俺のここまでの挙動があまりにも奇妙で不可解すぎたせいか、走っていく俺の進路を遮ろうとするエルフは一人もいなかった。

ただし、遠巻きに口だけはしっかり動かして、哀れみの混じった嘲諷を飛ばしてくる。


「無駄な悪あがきはやめなさい! 人間にその剣は使えっこないわ!」

「これはあなたの能力の問題ではなく、天性の種族の格差です! 剣に宿る『器霊きれい』がお前のような下等な人間を認めるはずがない!」


「魔剣『テュポース』は、我がエルフ族が誇る三大神器の一つ。そこには天災に匹敵する嵐の力が秘められているのよ。人間のあなたが触れれば、たちまち……って、嘘でしょ!?」


神官服を纏った女エルフが大きく目を見開き、顎が地面に落ちんばかりに驚愕した。

なぜなら、俺がなんの抵抗もなく、あっさりとその剣を地面から引き抜いてしまったからだ。


「お、重っ……!」

長剣は通体が見事な黄金色に輝いており、目測で全長70センチメートル以上。剣身の中央には二道の肉抜き溝が刻まれ、護手ヒルトの部分には鳩の卵ほどもある大きなエメラルドが嵌め込まれていた。

見た目以上に凄まじい重量があり、俺の筋力でも両手でなければ満足に掲げることができない。


――ズキリ。

長剣を掲げた瞬間、脳裏にどす黒い不快感が一過性に走り、目の前のエルフどもを全員皆殺しにしてやりたいという強烈な衝動が湧き上がってきた。

(おっと、これはマズい――)


そう思った刹那、俺の手の甲にある「タコの紋章」がカッと眩しく発光した。

目に刺さるような緑の光の濁流の中で、俺の脳内にいつかの女神様の凛とした声が響き渡る。


『ふん! 私の手下を襲うなんて、くそったれな雑魚め!』


緑の光はさらに勢いを増し、俺の身体と長剣を丸ごと飲み込んだ。

「ギャァァァァァハァァァ!!」

長剣の奥底から、耳を裂くような耳鳴り混じりの悲鳴が響く。

直後、霧のような邪悪な黒い影が、剣身から這い出るようにして俺の身体の表面へと染み出してきた。


「ま、参った! 降伏する、許してく――!」

――シュッ!

まるで太いストローで冷たいドリンクを勢いよく吸い上げるかのように、手の甲の緑光は、その不気味な黒気と影の断末魔を容赦なく一息に吸い尽くし、跡形もなく平らげてしまった。


するとどうだろう。あれほどズッシリとしていた剣身が、劇的に軽くなったではないか。それと同時に、胸の内に澱んでいた邪悪な怨気も綺麗さっぱり霧散していた。


「あざっす、女神大人!」

俺は長剣をドスンと地面に突き立てると、手を合わせて虔誠に祈りを捧げた。


数秒後、祈りを終えて顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは――そこに佇む二十数尊の「石像」たちだった。

エルフたちはまるで、宇宙人が地球に襲来したのを目撃したかのように、全員が目をこれでもかと丸くして硬直している。彼女たちが普段から大切にしているはずの高貴な優雅さは、この瞬間、完全に崩壊していた。


「アデリナ様……私、ついに幻覚を見るようになってしまったようです。エルフ族の三大神器が一つ、強靭な肉体と揺るぎない心智を持つ選ばれしエルフにしか扱えないはずの魔剣テュポースが……あの男が軽く握っただけで、魔気が消え去ってしまいました……」

ボウガンを握ったままの女エルフが、呆けたように俺を見つめて呟く。

神官服を着た女エルフ――アデリナもまた、脳内の許容量を超えて完全にパニックに陥っていた。


「……あなたの見間違いじゃないわ。なぜなら、私の目にも同じ光景が見えているもの……」

「あれは、かつて『大悪魔だいあくま』が死に際に遺した恐るべき呪いのはずでしょう!? 族の長老たちだって、あれは使用者の精神を汚染するから、477歳のオベロン様でさえ完璧には御せないと言っていたのに……。どうしてあの30歳にも満たないような人間が、そこらの落ちている『木の枝』を拾うみたいに、あんなに軽々と振り回せているのよ!?」


エリンは両手で頭を抱え、目の前の現実を断固として拒絶するように叫んだ。

「分からない……私にも本当に何が起きているのか分からないわ……」

アデリナは青い顔で激しく首を振ることしかできなかった。


「おい、お前ら……」

俺はテュポースを片手で軽々と持ち上げ、その鋭い切っ先を彼女たちへと向けた。

「――まだ、やるか?」


次の瞬間。

「「「私たちが悪うございました! 降伏します!!!」」」


すべての女エルフが一斉にその場に膝を突き、額を地面へと擦り付ける見事な土下座を披露したのだった。

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