↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界冷蔵庫領主~チート冷蔵庫のおかげで、いつの間にか世界を変えてしまった~  作者: 雪谷惑星
第1巻 : 始動編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/66

第24話:あれは夢だったと思えばいい

こうして、俺とアリア、そしてソフィアの三人による同居生活が始まった。

すべては「開拓の資格」をその手につかみ取るため――俺は完全にプライドも財布の紐も投げ捨てた。普段なら絶対に手が届かないようなシステムショップの高級食材をこれでもかと買い込み、アリアのために至れり尽くせりの毎日を提供し続けたのだ。


朝は俺が優しく彼女を起こし、出来たてのサクサクなカツサンドとみずみずしいフルーツサラダをベッドまで運ぶ。

午後になれば、彼女の手を優しく引いてログハウスの周りを散歩し、今は亡きイアンやメリーとの思い出話にじっと耳を傾けた。

夜には栄養満点の特製鍋(火鍋)を囲み、食後のデザートとして甘いバニラアイスクリームを差し出す。


そんな涙ぐましい努力を続けて一週間。俺の執念が実を結んだのか、アリアを包んでいたぶ厚い「ツン」の殻はみるみるうちに融解し、内側の「デレ」がポロポロと顔を覗かせ始めた。

わざわざ好感度メーターを取り出さずとも、彼女が俺に向ける視線に宿る好意が、凄まじい勢いで跳ね上がっているのが肌でビシバシと伝わってくる。


そして距離が縮まるにつれ、俺はアリアの「隠された一面」を深く知ることになった。

彼女は幼少期から深刻な低血糖症を患っており、肉体も極めて脆弱だった。そのため、体に強い負荷がかかる本格的な修練など到底できる状態ではなかったのだ。


この「ロプロス王国」は、戦神ケリオンを崇める武力至上主義の国家である。誰もが肉体を鍛え、魔法を競い合うこの世界において、戦えないアリアの存在はあまりにも異質であり、惨めなものだった。

おまけに彼女が生まれたのは、権力の中心たる公爵家だ。常に衆目に晒されるその環境が、彼女の肉体的な欠陥をさらに残酷なまでに際立たせた。


武術も魔法も使えず、病弱な彼女には、貴族としての最大の大義である「政略結婚の価値」すら見出せなかった。やがて父親である公爵すら彼女に愛想を尽かし、すべての期待とリソースを長男のアンソンへと移してしまったという。

長年にわたる周囲からの冷遇と凄まじいプレッシャー。それらがアリアの心を蝕み、事あるごとに激昂しては周囲に罵詈雑言を撒き散らす、あの歪んだ性格を作り上げてしまったのだ。


ソフィアからその過去をそっと聞かされた俺は、胸が締め付けられるような思いになり、すぐにアリアをぎゅっと腕の中に抱きしめてその頭を撫でまわした。

「どいつもこいつも見る目がなさすぎるぜ! 俺たちの可愛い小王女プリンセスに向かって、なんてこと言いやがるんだ!」

「そ、そうよ……! 私はれっきとした名門の淑女なんだから、あんな風に粗野に扱われる筋合いなんてないわ!」

アリアは俺の胸に顔を埋めながらそう強がったが、その声は少しだけ後ろめたそうに震えていた。きっと、俺たちの初対面の瞬間に、出会い頭に強烈なビンタを食らわせてきたことを思い出したに違いない。


「一部の貴族たちの間では、アリアお嬢様がいつまでも嫁に行けないことを嘲笑って『公爵領で最も熟しきった薔薇』なんて下劣な二つ名で呼ぶ者すらおりますわ。本当に不愉快極まりない。もし私の目の前でそんな口を利く者がいれば、全員逆さ吊りにして叩きのめしてやりますのに」

そこまで言った瞬間、ソフィアの全身からガチで周囲の空気が凍りつくような凄まじい殺気が爆発し、俺とアリアは思わず肩を震わせてビクついた。


俺は慌てて彼女の言葉に同調する。

「全くだ! どいつもこいつも最低の人屑クズどもめ! アリア、俺は絶対にそんなこと言わないからな。信じてくれ!」

俺はアリアの両手をぎゅっと強く握りしめた。

手のひらから伝わる熱のせいか、お嬢様の顔はシューッと音を立てんばかりに一瞬で真っ赤に染まった。

「うん……あんたのことは、信じるわ……」

彼女は蚊の鳴くような、掠れた小声でそう呟いた。


だが、せっかくいい雰囲気になりかけた俺たちのピンク色の空間に向けて、ソフィアが容赦なく冷酷な現実(爆弾)を投げ込んできた。

「……とはいえ、彼らの言うことも一概に間違いとは言えません。お嬢様が本当に嫁き遅れているのは事実ですからね。一昨年と去年の見合いでは、相手方はお嬢様の悪名(お名前)を聞いただけで、当日その場で逃げ出しました。きこりの町のローラン様の件まで含めれば、アリアお嬢様は実質『三回連続でフラれた』ことになりますわ」


「ぷっ……! あはは、なるほどな! だからお前、前によくピエニン商会へ通い詰めてたのか。あんなに必死に頑張ってたのに、結局フラれ――って、痛ってぇぇぇ!?」

俺が思わず吹き出した瞬間、お嬢様は完全に無表情(能面風)になり、俺の脇腹の肉をこれ以上ない力加減でキリキリと抓り上げてきた。本気で引きちぎれるかと思うほど痛かった。


---


その後、俺の必死の懇願もあり、アリアは俺のために文面をしっかりと練り上げた見事な「紹介状」を書き上げてくれた。そこには、俺が掲げる巨木之森の開拓計画と、ピエニン商会との強固な協力体制がこれでもかと理路整然とした公文書風のタッチで記されていた。

俺、アリア、ソフィアの三人で何度も読み返し、これなら公爵の決済が下りる確率が最も高いと太鼓判を押せる出来栄えだった。


翌朝、俺はすぐさまきこりの町へと走り、公爵邸の使者へとその信書を託した。

そして、この多大なる恩義に報いるため、俺は【冷蔵庫システム】の二星ショップを開き、彼女の病弱な体質を根本から改善できる秘密の食品を購入することに決めた。

幸いなことに、二星商城のラインナップには、まさに打ってつけのアイテムが二つ存在していたのだ。


【フェニックスプリン(偽)】/価格:1,500ポイント

最新のバイオ技術を用い、神獣フェニックスに酷似した魔獣を人工的に製造。その魔獣が産み落とした希少な卵を主原料とした極上のプリン。摂取することで、体内の遺伝子レベルの欠陥をわずかに修復し、長期的な服用によって極めて強靭な肉体を育む。


【青春緑茶】/価格:2,000ポイント

世界樹の葉を贅沢にブレンドした特製の茶葉。精神を澄み渡らせて脳を活性化させるとともに、慢性的な疾患を取り除き、体質を劇的に改善する効果を持つ。


どの程度の期間食べさせ続ければ効果が出るか分からなかったため、俺は毎日この二つの高級食品を買い続け、朝食と夕食のタイミングで欠かさずアリアに与え続けた。

ポイントの消費は凄まじいものがあったが、幸いなことにこの巨木之森は強力な魔獣の宝庫だ。俺が少しばかり死に物狂いで狩りに励めば、日々のランニングコストを維持することくらいは十分に可能だった。


---


時の流れは早いもので、気づけば一ヶ月の月日が瞬く間に流れていた。

アリアの身体は、すでに奇跡と言えるほどにまで回復を遂げていた。今の彼女は、歩く際にソフィアの支えを必要とせず、血糖値をコントロールするために頻繁に間食を摂る必要すらなくなっていた。


俺が魔獣の捕獲(狩り)に出かけている間、ログハウスの庭では、ソフィアの指導のもとでアリアが軽いジョギングや腕立て伏せといったトレーニングに励む姿が見られるようになった。

その毎日の積み重ねにより、彼女はついに、同年代の一般的な女性と遜色のない健やかな体力を手に入れたのだ。


それに伴い、俺と彼女の距離はもはや誰の目にも明らかなほどに縮まっていった。

俺が狩りを終えて家に帰ると、彼女は周囲に誰がいようが(たとえソフィアが冷ややかな目で見ていようが)お構いなしに、満面の笑みで俺の胸へと飛び込んでくるようになった。

俺もそんな彼女を優しく抱きとめ、その滑らかな額へと、自然に愛おしさを込めた軽いキスを落とす。


俺たちの関係は、もはや「決定的な言葉(告白)」を残すのみという段階にまで達していた。

考えてみればおかしな話だ。前世での俺は、ただのしがないコンビニ店員に過ぎず、どんな女子からも相手にされない冴えない男だった。人生で最後に女子と手を繋いだ記憶といえば、幼稚園のフォークダンスまで遡らなければならないレベルだったのだ。


だからこそ、俺はアリアのこの真っ直ぐな感情に、男として本気で向き合いたいと思った。かつてミッドナイトに伝えた言葉、そしてあの時はまだ伝えることができなかった胸の内のすべてを、俺は少しずつアリアに語って聞かせた。

アリアは実家こそ富裕な公爵家だが、その病弱な体質のせいで、幼い頃からまともな愛を受けずに育ってきた。信用すべき使用人たちにすら、陰で「役立たず」だと陰口を叩かれ続ける日々だったのだ。


そんな彼女の前に俺が現れ、毎日あの手この手で新しい料理を作り、彼女を笑わせようと必死に道化を演じた。――そんな世界で初めての無条件の優しさに触れて、彼女の傷ついた心は、完全に無防備なまま俺という存在に深く、深くのめり込んでいったのだった。


お互いに、底なしの沼へと深く沈み込んでいくような日々だった。

あまりにも甘すぎる時間のなかで、俺の脳裏にはいつしか、ある奇妙で恐ろしい仮定が浮かび上がるようになっていた。


(……ミッドナイトは、もしかしたら一生戻ってこないんじゃないか?)

(俺は本当に、あいつがいないまま何年も耐え続けられるのか?)

(仮に戻ってきたとしても、三年という月日はあまりにも長い。万が一、向こうで俺より良い男を見つけて、別れを切り出されたら……?)


そこまで考えて、胸の奥にどす黒い言い訳が鎌首をもたげる。

(だったら……いま目の前にいるアリアと付き合って、この世界で新しい人生のページをめくったって、誰も俺を責められないんじゃないか?)


そんな風に、俺が己の不誠実さと葛藤しながら悶々と過ごしていたある日。ついに公爵邸からの正式な公文書が、俺の手元へと届けられた。


【公爵領布告】

各種機関による厳正な調査と確認の結果、[ゲンタク]殿は領主としての基礎条件をすべて満たしていると認め、ここに「開拓領主」の職務を授与する。

ヨルゴス公爵領は、巨木之森に位置する[雪花領せっかりょう]の存在を承認し、これをロプロス王国の版図へと正式に組み込むものとする。

汝の全力を尽くし、国家と人民のために貢献せんことを願う。

戦神暦Ⅱ 1037年7月18日 ラモンド・ヨルゴス


羊皮紙に押された重厚な蝋印を見つめながら、俺は肺に溜まった空気をゆっくりと吐き出した。

「ふぅ……。これで、全部終わりだな……」


---


きこりの町からログハウスへ戻ると、リビングでヨガのポーズをとっていたアリアが、俺の姿を見るなりすぐに運動を切り上げた。そして、嬉しそうにトコトコと小走りで駆け寄ってきて、いつものように俺の体に寄り添おうとする。

この一ヶ月以上の甘い時間のなかで、彼女のなかでは俺が「恋人」であることが、完全に既定路線になっていたのだろう。


だが、本当に申し訳ない。夢の時間はここまでだ。

そして、この幸福な夢を最悪な形でぶち壊す犯人は、他でもない俺自身だった。


「アリアお嬢様。……すいませんが、俺たちの身分には弁えるべき一線があります。そういう風にベタベタするのは、本当によろしくないかと思います」

「えっ……!?」


アリアは、まさか俺の手で突き放されるとは思ってもみなかったようで、完全に硬直した。おまけに、これまでにないほど冷淡で余所余所しい口調。自分が何か悪いことでもして怒らせてしまったのかと勘違いした彼女の顔に、みるみるうちに焦りの色が広がる。

「で、でも……あんたは他の人とは違うでしょ!? 私たち、もうあんなに……」


「ええ。この一ヶ月間、あなたと過ごした時間は本当に楽しかったです。ですが……俺にはすでに恋人(彼女)がいます。将来的には、その人と結婚するつもりです。ですから……この一ヶ月の間にあったことは、すべてただの『夢』だったと思って忘れてください」


心臓を素手で握りつぶされるような痛みを必死にこらえながら、俺はさらに一歩後ろへと下がり、二人きりの距離を物理的に引き離した。


傍らでテーブルを拭いていたソフィアの手が、ピタリと止まる。その横顔には、あからさまな驚愕と、軽蔑の色が浮かんでいた。まさか俺がここまで恥知らずな男だとは思っていなかったのだろう。アリアの立場を利用して、開拓領主の権利を手に入れた途端にポイ捨てしたのだから、客観的に見れば最低のクズ男そのものだ。


「な、何言ってるのよ、あんた……っ!」

お嬢様の大きな瞳がみるみるうちに真っ赤に潤み、今にも涙が溢れ出しそうになる。

「この一ヶ月、あんたがああやって優しくしてくれたのは何だったのよ! 私はあんたのために必死に紹介状だって書いたのに……どうしてそんな酷いことが言えるの!? 私は、私たちはてっきり……!」


「……良い友人(お友達)になれたと思っていました」


俺は彼女の言葉を無情にも遮り、その瞳を真っ直ぐに見据えた。

アリアは完全に言葉を失った。まるで熱愛期の恋人同士のような一連の甘い関わり合いを、ただの「友達付き合い」という一言で片付けられるとは、夢にも思っていなかったのだろう。


「正直に言います。一緒に過ごしていくうちに、あなたの最初の印象は完全に覆りました。もし俺の人生にミッドナイトがいなければ、俺たちはきっと、もっと親密な関係に進んでいたはずです。だけど……俺は彼女と先に出会ってしまった。だから……本当にごめんなさい」


自分の言葉がどれほど残酷で、独りよがりなものか分かっている。だが、こうするしかなかった。

中途半端な優しさで引きずるより、今ここで全ての関係を断ち切る方が、結果的にはお互いのためになるはずだ。


「――――」


リビングが死のような沈黙に包まれる。

やがて、少女の目から大粒の涙がぽろりと床へこぼれ落ちた瞬間、彼女は激しくドアを押し開け、振り返ることもせず外へと走り去っていった。

ソフィアは持っていた雑巾を乱暴に床へ投げ捨てると、すぐにその後を追って飛び出していく。

部屋を出ていく直前、彼女は俺の顔を、射殺さんばかりの冷たい眼差しで深く睨みつけていった。


胸が、引き裂かれそうに痛む。

だけど、これで良かったんだ。ミッドナイトが帰ってくるその日までアリアをキープし続け、いざその時になって「実は彼女がいるんだ」なんて告げる方が、それこそ本当の意味での『弄び(始乱終棄)』だ。


これでいい。俺たちは婚約を交わしたわけでもない、キスをしたわけでもない、一線を越えたわけでもない。ただの……「仲の良い友人として、楽しく過ごしただけ」なのだから。


「ああ……これでいいんだ……これで良かったんだよ……」


俺は静まり返った部屋のなかで、まるで自分に言い聞かせるように、何度も、何度もその言葉を繰り返した。そうして、胸の奥から溢れんばかりに湧き上がってくる強烈な罪悪感を、必死に、力任せに押し殺し続けた。

「もし少しでも『面白い』『続きが気になる』と思ってくださったら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】から評価やブックマークをいただけると、執筆の励みになります!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。