第20話-襲擊
森の中、一台の馬車が猛スピードで駆け抜けていた。
「ハイッ! ハイッ!」
白髪交じりの老人が、休むことなく手中の鞭を振り回している。
しかし、これがすでに馬の限界だった。荷を背負った状態では、どうしてもこれ以上速く走ることはできない。
突然、前方の木々から数羽の鳥が飛び立った。
それを見た老人は猛然と手綱を引き、馬車を急旋回させて右へと進路を変えた。
「イアン……彼らを振り切れたの?」
馬車の中から女性の声が聞こえてくる。
老人は慌てて宥めるように言った。「ご心配には及びません、もうすぐ……うっ!」
言葉が終わらぬうちに、一筋の鋭い矢が空を切り裂いて飛来し、彼の心臓を貫いた。
老人の目の前が真っ暗になり、そのまま馬車から転げ落ちた。
前方の異変を察した女性は、カーテンを押し開けたが、目に映ったのは走り続ける二頭の馬だけで、御者の姿はすでにどこにもなかった。
「イ……イアン?!」
ぽっかりと空いた前方の座席を見つめ、女性は信じられないといった表情を浮かべた。
幼い頃から傍にいてくれた忠実な家僕が、こんな風に死んでしまうなんて?!
御者を失ったことで馬は走るのをやめ、馬車も次第に停止した。
その時、周囲の草むらからガサゴソと不穏な音が聞こえてきた。
女性が振り返った瞬間、その瞳が恐怖に大きく見開かれた。
そこにいたのは、巨木の森でその名を轟かせる山賊の首領――バラクだった。
「ハハハ! ついに捕まえたぞ! 可愛いアリアお嬢様!」
バラクは勝ち誇った笑みを浮かべた。
彼が手を振ると、草むらから次々と他の男たちが這い出てきた。
バラクを含め、総勢十一人もの男たちが馬車を完全に包囲した。
「嫌……嫌……ソフィア! どこにいるの! 早く助けに来て! ソフィア!」
アリアは恐怖に全身を震わせた。
彼女は何度も大声で叫んだが、応える者は誰もいなかった。
「ハハ! まさかこれほど怯えるとはな、これでも貴族様か? 見苦しいぜ!」
「頭、こいつを使って公爵を脅せば、一体いくらになるんで?」
「下手をすれば金貨一万枚に大化けするかもな! 噂じゃ公爵の子供は二人だけで、娘はこいつ一人らしい。今回は大儲けだぜ!」
山賊たちは、逃げ場を失ったネズミをからかうように、馬車の壁を何度も叩きつけた。
アリアは泣き叫ぶことしかできなかった。
「ううううっ! お願いだから見逃して! お金ならたくさんあるわ、私を解放してくれれば、数え切れないほどの金貨をあげるから!」
「バラクの兄貴、この世間知らずめはまだ状況が分かってねえようだ。自分に俺たちと交渉する資格があるとでも思ってやがんのか? ハハハ!」
「引きずり出せ!」
山賊の首領、バラクの命令が下ると、傍らにいた手下の一人が即座に進み出た。
彼が刀を猛然と振り下ろすと、銅製のドアノブと錠前は一瞬にして粉々に砕け散った。
山賊は中に手を突っ込み、アリアを馬車から強引に引きずり出した。
「嫌アアアアッ!!!!!」
少女は必死に抵抗した。
しかしそれは、陸に打ち上げられた魚のように、ただ蹂躙されるのを待つしかない絶望的な足掻きだった。
男たちは彼女の手足を捕らえて汚れた泥土に押しつけ、金貨数枚の価値がある高価なドレスは、無残にもボロ布へと変えられていく。
すべてが取り返しのつかない破滅へと向かおうとしたその時、上空から一つの声が響き渡った……。
「御龍天式・破龍槍!」
シュシュシュッ!
四本の竹製の長槍が高空から突き刺さり、瞬時に四人の山賊の腹部を貫通した。
長槍から爆発的な竜の力が放たれ、肉と骨を伝って一気に脳へと達する。
一秒にも満たない時間で、四人は血を吐き、その場に崩れ落ちて気絶した。
残された者たちは驚愕し、慌てて十数メートル後方へと退がった。
「何者だ?!」
ドォン!
その人物は、まるで猛烈な砲弾のようにアリアの目の前に着地した。
彼の背中はそびえ立つ大山のように雄大で、すべての災いと不安を遮ってくれていた。
永遠のようにも思えるその一秒の中で、アリアは自分の心臓が激しく脈打っているのを感じていた。それは生まれて初めて経験する、これ以上ないほど鮮明な鼓動だった。
「弱すぎる……」
「貴様らのような人間のクズが……まともな仕事を見つけて、平穏に暮らすことはできないのか?」
「なぜ……なぜいつも、他人の大切な人を奪おうとするんだ?」
私は顔を上げ、悔恨に満ちた凶悪な眼光を放った。
手下が瞬殺されたのを見て、バラクは激怒した。
彼は大声で吠えた。「殺せっ!」
五人の山賊が腰の湾刀を抜き、足元から凄まじい力を爆発させ、五発の砲弾の如く私に向かって襲いかかってくる……。
「ミッドナイト、俺に力を貸してくれ……」
私は心の中で愛する人の名を呟き、両目に鋭い精光を宿した。
強靭な竜の力が喉元に凝縮され、灼熱の地獄の黒炎へと姿を変える。彼らにこの世で最も苦痛に満ちた報いを与えるために。
「御龍天式・爆炎弾!」
五人の山賊は正面から直撃を受け、身につけていた革鎧は瞬く間に灰燼と化し、その褐色だった肌すらも、肉の焦げる匂いを漂わせる炭塊へと変わり果てた。
「熱い、熱い、熱いっ!」
「助けてくれ! 誰か早く助けてくれぇ!」
五人は熱湯を浴びせられた蛆虫のように地面をのたうち回ったが、その足掻きも虚しく響くだけだった。
竜族の息吹は、脆弱な人間が耐えられるようなものではない。ましてやこの力の源は竜族の王女であり、これは紛れもない、本物の竜王の炎なのだ。
五人の仲間の無残な結末を目の当たりにし、残された山賊たちは完全に恐怖で硬直した。
当初予想していた「一方的な虐殺」は確かに現実となったが、それは自分たちの身に起きていた。
「これは普通の火じゃねえ、竜炎だ!」
さすがは山賊たちの首領、見識の広いバラクは一目でその炎の正体を見破った。
ボスの言葉を聞き、傍らにいた魔法使いが驚愕の声を上げた。「黒い竜炎……あれは竜族の技のはずだろ?! なぜ人間に使えるんだ?!」
もう一人の槍使いも、震える声で続けた。
「そういえば、以前酒場で聞いたことがある。一部の竜族は、他種族の異性を伴侶に選ぶことがあるらしい。巨竜との激しい交尾行動に人間の身体が耐えられるよう、大量の龍の涎を飲ませるんだと」
「龍の涎……?」
「ああ、魔力の精華が凝縮された唾液のことだ。それによって人間の脆弱な肉体を造り変える。稀なケースでは、竜族特有の魔法やスキルを使用できるようになる者もいるらしい……どうやら、あいつがそのケースだな!」
槍使いは奥歯を噛み締め、一字一字に真実を吐き出した。
「ということは、あいつはどこかの雌竜の夫だってのか?! この近くに生息している竜族といえば、黒炎龍しかいねえぞ……」
「おそらく間違いない……黒炎、雌竜、そして未婚という条件を絞り込んでいけば、答えはほぼ一つしか残らねえ……」
全員が恐怖に震える視線を注ぐ中、バラクはついに、誰もが思い出したくもないその恐怖の名を口にした。
「黒竜王の長女――ミッドナイト!」
「成体の雄竜三頭を同時に相手取って互角に渡り合ったという、伝説の怪物だ! 巨木の森の魔獣どもすら恐怖に震え上がらせる、あの恐るべき存在だぞ!」
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