4 ゲームのルール
4 ゲームのルール
シオンは、どのクエストに向かうか、クエストボードを見て考えていた。
・・・もうすぐ時限クエストが開催されるから、それまでにストーリークエストを進めておこうかな ・・・
時限クエストとは、毎日決められた時間に開催される特別なクエストである。時限クエストでは、他のクエストでは手に入らない武器防具やアイテムが手に入る事もあるし、経験値も多く入るのでレベルアップを目指すには欠かせないクエストである。開催時間は、15分から長くても60分のため、その時間は集中して取り組む事になる。取り敢えずシオンはモンスターの拠点の奥にある洞窟に向かう事にした。その洞窟には、経験値の多いモンスターが稀に出現する事に加え、最奥にいるボスキャラは倒せばレアアイテムをドロップする時がある。このボスが落とすレアアイテムは”転職の欠片”だ。この”転職の欠片”を集める事で上級職への転職が可能になるが、集めなければならない欠片の数は膨大で、他にも目指す職業によって必要なスキルも習得していなければならない。かなりの難題であるが、その分上級職になれた時の喜びも大きいのは間違いない。シオンも、そのためにコツコツとクエストをこなしていた。
・・・今日は、レアが出そうな気がするなぁ ・・・
シオンは意気揚々と洞窟に入り、奥に向かっていった。途中に出没するモンスターを、大金を貯めてようやく手に入れたバスターソードで倒していく。
・・・ううっ、さすが高いお金払っただけあって、この剣凄いよ。買って良かった ・・・
シオンは、難なく洞窟の最奥にたどり着き、そこに広がる地底湖を見つめる。この湖の主が、この洞窟のボスキャラである”シーサーペント”だ。初級者では、まったく歯が立たず瞬殺されるのが当たり前であるが、シオンはソロ攻略が可能な程、成長していた。
・・・初めて挑んだ時には、まるで勝てる気がしなかったけど、今では討伐するのに丁度いいモンスターだよね ・・・
シーサーペントは経験値もそこそこ貰えるし、レアアイテムもドロップするので、ここ最近のシオンの周回ルートになっていた。
・・・よーし、いくぞぅ ・・・
シオンはバスターソードを握りしめ地底湖に近付いていく。すると、湖面が波立ってきて、湖の中から蛇のようなモンスターが現れた。シーサーペントだ。巨大な蛇のような長い胴体に手足がついている。そして、赤く燃えるような瞳でシオンを睨み付け、大きな口を開けて咆哮する。
「グシャアァァァァッ…… 」
体がぶるぶる震える程の咆哮だ。まだレベルが低い初級者の頃は、この咆哮だけで体がすくんで動けなくなっていた。だが、今のシオンであれば問題ない。シオンは、バスターソードを構え、シーサーペントの隙を狙っていた。すると、そこへ一人の戦士が飛び込んできた。
「お邪魔します 」
元気に挨拶して剣を構えるが、その剣は最初の町の武器屋で購入出来るノービスソードと呼ばれる鉄の剣だった。
「よろしくお願いします 」
シオンも、その戦士に挨拶するが、ああ、初級者の人か、と一見して分かっていた。ボスキャラとの戦闘は通常パーティーを組んで戦う。それだけ倒すのに苦労するという事だが、初級者の頃はまだパーティーを組むような仲間が出来ていないのが普通である。パーティー戦は普通はフルに6人で戦闘しているのがほとんどである。その場合、後から戦闘に参加しようとしても、6人全て埋まっているので参加出来ない。だが、人数に空きがある場合は参加出来るのである。そして、少ない人数で戦っているという事は、その人数でも倒せるという自信のある上級者だ。特に今のシオンのようにソロで戦っているプレイヤーは、絶対の自信を持っているといえた。なので初級者は、戦闘をしているグループに入り込んで、自分では倒せない敵を倒して貰って経験値やお金を稼ぐのである。一人で倒せる敵をコツコツ倒していくよりも、レベルが上の敵を強いプレイヤーに倒してもらった方が遥かに効率がいい。こういう行為は”寄生”といわれるが、シオンは別に寄生行為も目くじらを立てる程でもないと思っている。ゲームは楽しくやるものだ。多少、獲得出来る経験値やお金は少なくなるが、そんな事は気にせず楽しめばいい。そういうスタンスだった。この時も、寄生してきたプレイヤーに構わず一人で戦っていたが、そのプレイヤーがアイテムを取り出したのを見て、ぎょっとした。アイテム”起死回生”。レアアイテムである。初級者なので、滅多に手に入らないアイテムを手に入れたので、使用したくなったのだろう。その効果もよく理解する前に……。
「ちょ、それは…… 」
シオンが止めようとする前に、そのプレイヤーはアイテムを使用していた。アイテム”起死回生”の効果、それは文字通り自分が窮地に陥った時に使用するアイテムである。自分のヒットポイント、マジックポイントの回復、ならびに状態異常の回復がセットになった強力なアイテムであるが、その代わりそれは、他のパーティーを組んでいる仲間全員のヒットポイント、マジックポイントを”1”にしてしまう。強大な敵モンスターを自分があと一撃加ええば倒せるという場合に使用するアイテムだ。この場合、シオンがヒットポイントを”1”にされてしまう。そうなると敵の攻撃を一回でも受けたら戦闘不能だ。残った初級者プレイヤーで勝てる確率などゼロである。これは誤ったアイテムの使い方である。
しかし、シオンは、咄嗟にポーションを使っていた。その直後、シーサーペントの攻撃がシオンを襲う。シオンは攻撃をブロックするが、ヒットポイントが大幅に削られていた。ポーションの使用がわずかでも遅れていれば倒されていただろう。それに、もうポーションの手持ちはない。早くシーサーペントを倒さなければ、全滅になるだろう。シオンは、バスターソードの必殺技を解放した。必殺技は絶大な威力があるが、一日に使用出来る回数制限が設定されている。しかし、この場合やむを得なかった。
「絶断・三式 」
シオンの一振で、シーサーペントは消滅していた。
「ありがとうございました 」
寄生してきたプレイヤーは、勝って当然のような顔でシオンにお礼を言うと駆け出していた。どうやら、レベルも上がりお金も手に入ったので町に戻るつもりのようだ。
「ちょっと、待って 」
シオンが声をかけるが、そのプレイヤーは走って行ってしまった。
・・・あの人、気をつけないと、悪気はないにしても、他の人に迷惑かけて嫌がられるよ ・・・
シオンは見えなくなったプレイヤーの姿を思い浮かべて、今度会ったら注意してあげようと思っていた。そして、自分も回数制限のあるバスターソードの必殺技を使用してしまったので、今日はもうログアウトしようと考えていた。




