2 シオン
2 シオン
シオンは草原を歩いていたが突然左の草むらから小鬼のゴブリンが飛び出してきた。
「うわっ 」
咄嗟に身をかわしスラリと腰の剣を抜く。
ズバァッ!
ゴブリンを一刀のもとに倒したシオンは剣をビュッと振り腰の鞘に戻した。
「ふうっ、油断大敵 いくら安全といわれる草原でも気を抜かないようにしないとね 」
しばらく歩いていくと前方に巨大な怪物と戦っている人たちの姿が見えた。4人の男女が、草原にある沼の主と思われる巨大な青い蛇と戦っている。おそらく小ボスクラスだ。この青い蛇を倒せばレベルアップが期待出来る。剣を抜いてシオンも駆け出した。
「お邪魔します 」
戦いに参加したシオンは渾身の一撃を青い蛇に叩き込む。
・・・えっ? ・・・
固い岩を叩いたような手応えで、敵に傷ひとつ与えられない。
・・・どういうこと? ・・・
シオンは愕然とした。ソロならともかく、何人かと組んで戦えば小ボスクラスの敵なら勝てる筈だった。それがダメージさえ与えられない。何度、攻撃を叩き込んでも敵のダメージは”0”だった。
・・・まさか、この敵 中ボス以上 ・・・
時々、こんなところにどうして、という場所にその周りのレベルとは桁違いの強敵が現れる事がある。この敵は、まだシオンのレベルでは出会ってはいけない敵だったようだ。
こちらから敵にダメージを与えられないが、敵からは凄まじい攻撃が襲ってくる。シオンのヒットポイントはどんどん削られ、このままでは戦闘不能になるのは時間の問題だった。
戦闘不能・・それはゲーム内での”死”である。戦闘不能になると、それまで貯めた金貨は半分没収された上に、手に入れたアイテムの中からランダムで1つ消滅する。それが、苦労して手に入れた伝説の剣等であった場合、しばらく立ち直れない程のダメージを受けてしまう。このゲームでの戦闘不能は極力避けたいのがプレイヤーの心理だった。
・・・もう、ダメだ 私、死ぬ ・・・
シオンは必死に剣を振り敵の攻撃を防いでいるが、あまりにもレベルが違いすぎる。八つもある蛇の尾が休みなくシオンに襲いかかり、もう防御が間に合わなかった。剣で正面からの攻撃をなんとか防いだ瞬間、別角度から次の攻撃が襲ってくる。剣で防ぐ事も避ける事も不可能だった。
・・・ああ、死んだ ・・・
どうしようもない。よく知らない敵に挑んでしまった自分が馬鹿なのだ。これでまた金貨集めに時間がかかる。それに、万が一、たった一つ持っているレアアイテムが消滅したら立ち直れないかもしれない。シオンは涙が出てきた。その時……。
ガシィーン
重い音が響きシオンに向かって放たれた攻撃が弾き返されていた。巨大な盾”タワーシールド”を持った全身を鎧で覆った人物がシオンヘの攻撃を防いでいる。
「ヒール 」
続いて回復の魔法がシオンにかけられた。シオンの体力が回復する。
・・・えっ ・・・
シオンは驚いていた。見ず知らずの私を助ける?別にシオンが戦闘不能になっても彼らには何の影響もない。途中で戦闘に飛び込んできた役に立たない寄生プレイヤーなんてほっておけばいいのだ。それなのに、なぜ?
「ありがとう 」
シオンは守ってくれた騎士と回復してくれた僧侶にお礼を言った。
「いーや、礼には及ばねえよ あんたがヘイト集めてくれたお陰でこっちも準備出来た 助かったよ 」
「初心者みたいだけど、いい動きしてるわね 良かったね、これでレベル上がるよ 」
シオンはまた驚いた。寄生してきたプレイヤーなんて、ガン無視が普通だ。それなのに私の動きも見ていて、危ないと気が付くと躊躇いもせず助けてくれる。武具の耐久力だって減るし、魔法の使用回数の制限もあるのに、放置しても問題ない私を助けてくれた。シオンは、こんな人達もいるんだと感激していた。
「よーし、良いぞ! 下がってくれ 」
それまでは、あまり攻撃せず防御に徹していた戦士が声を上げる。その戦士の手にしている剣を見てシオンは三度驚いた。
・・・マテリアルソード ・・・
魔法剣の中の一振だ。レアアイテムであり、宝箱やモンスタードロップでは手に入らない。時々開催される期間限定ガチャでのみ手に入れる事が出来るレアアイテムだ。戦士職であれば、是非欲しい一品である。シオンも、それを狙って何度もガチャを回しているが、当たり前だが排出した事はなかった。ただ、このマテリアルソードはソロプレイヤーには使用するのに厳しいものがある。この剣は魔法を付与する事が出来るのだが、通常、この剣を扱える戦士、騎士等は魔法を使う事が出来ない。そこで、パーティーを組んで魔法を使える者にこの剣に魔法を付与して貰うのが一般的だった。が、シオンはこの剣を狙っていた。ソロプレイヤーでも唯一この剣を有効に使える上級職・魔法剣士。戦士並の物理攻撃力を持ちながら、魔法もある程度使用出来る魔法剣士ならばソロであっても剣に魔法を付与して戦う事が出来る。シオンは魔法剣士になり、この剣で敵を倒す事をずっと夢見ていたのだ。
・・・凄い。マテリアルソード、持っているんだ ・・・
シオンは素直に羨ましかった。と同時にワクワクした。初めてマテリアルソードの実力を見る事が出来る。シオンが期待に胸を膨らませて見ていると、魔法使いが”ファイア”の魔法を唱え、それをマテリアルソードに付与する。マテリアルソードが業火の火で燃え上がり炎の剣と化した。
・・・凄い、カッコいい ・・・
興奮して見つめるシオンの前で戦士はマテリアルソードを大きく振りかぶる。
「いっくぞーっ! 」
戦士は青い大蛇に向かって踏み込んでいきマテリアルソードを一閃する。その一撃で勝負は決した。巨大な胴を一撃で分断された青い大蛇は、分断された部分から激しく炎を噴き出し燃え上がる。そして、炎に包まれた青い大蛇は燃え尽き灰になっていた。その時、シオンの体に変化が起きる。
「レベルが上がりました 」
「レベルが上がりました 」
「レベルが上がりました 」
「レベルが上がりました 」
なんと、1回の戦闘で4レベルも上がっていた。体に力が漲っているのが自覚出来る。この青い大蛇はそれほどの強敵だったのだ。
「レベル、上がったみたいだね 見た雰囲気でも分かるよ 」
僧侶の女性が笑顔で声をかけてきた。
「ありがとう 皆さんのおかげです 」
シオンもとびきりの笑顔で答えた。これが、このみんなとの初めての出会いだった。今までソロで戦ってきたけど、こういう人達とならパーティーを組んでみたいな。シオンはそんな事を想像している自分に驚いていた。
騎士のサタン、戦士のマーズ、僧侶のジュピター、魔法使いのヴィーナス。
彼らとの出会いがシオンの運命も変えていく。




