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翌日、目を覚ました私の部屋にレベッカが興奮したように入ってきた。
「姫様、雪ですよ!雪が積もってます!」
レベッカがそう言いながら勢いよくカーテンを開けると、私の目にうっすらと白く色づいた景色が飛び込んできた。
「まぁ」
窓の外に目をやると、遠くに見える林が真っ白になっていた。木々の枝に雪が積もっているのだろう。その景色はまるで白一色で描かれた絵のようだった。
「綺麗ね」
思わず見とれてそう呟くと、レベッカは勢い込んで応えた。
「本当に!私、雪を見るのは初めてだから感動してしまって。それなのにメイド仲間はみんな淡々としてて、エイミーなんて明らかにいやそうだったんですよ」
「こんなに綺麗なのに?」
「確かに綺麗なんだけど、レベッカもここで一冬過ごせば私の気持ちも分かってもらえると思う、ですって」
「雪国の人は雪にうんざりしているのかしらね」
「みたいですね。この雪もうっすらとしか積もってないから、お昼前には溶けてしまうだろうって嬉しそうに言ってました」
納得いかなそうなレベッカに少し笑ってしまう。
「それなら朝食の後に雪を見がてら街まで行ってみない?ここの人たちがどのような暮らしをしているのか見てみたいし」
「良いですね。では、外出できるように支度しておきます」
レベッカは目を輝かせると私の身支度を手早く整えて部屋から出て行った。
私は姿見で軽く自分の姿を確認すると、そのまま食堂へと向かう。廊下は自室より肌寒く、吐く息が白く見えた。
暖炉に赤々と火の灯った食堂に入ると、それだけでほっとする。今朝はまだイライザ様しか食堂には来ていなかった。
「おはようございます。お早いですね」
そう声をかけるとイライザ様はゆったりと微笑んだ。
「おはようございます。今朝は雪が降ったから、ルイジさんに馬を出す前に二、三注意をしておこうと思って。馬は寒さに強い生き物ですが、それでも慣れるまでに少し時間がかかりますからね」
「クロなら寒くても外出することを優先しそうですけどね」
私は、昨日のクロの様子を思い出して少し笑ってしまった。戦場にいるときは悪鬼のようであったが、昨日のクロはやんちゃで暴れん坊な牡馬だった。ゆっくり走るのを嫌がり、弾むような足取りで疾走する姿は小さな男の子のようだった。
「似た物同士なのよ、あの二人」
イライザ様はくすくすと笑う。
「クロのためなんて言ってるけど、本当は自分が身体を思い切り動かしたいだけなのよ、ルイジさんは」
「そうみたいですね」
リラックスした様子でクロを駆るロッソを思い出して、なんとなく落ち着かない気持ちになった。
なぜだろう、初めて見た時から彼の存在はなぜか私を少しだけ不愉快にさせた。
「ルイジさんもセドリック様もまだ来られないみたいだし、先に朝食をいただきましょうか」
「はい」
私は、落ち着かない気持ちを抱えたまま、勧められるままに席に座り、運ばれて来た朝食に手を付けた。
黒パンと暖かいスープ、ニシンの燻製のシンプルで素朴な朝食だ。パンは重くて酸味があり、スープは少し塩気が強い。それでも、自国にいた時は毒見の済んだ冷たい食事ばかり食べていたため、暖かい食事が食べられることは嬉しかった。
「今日は何かご予定はあるの?」
「雪が降ったので、雪を見がてらレベッカと街まで行ってみようかと。街の様子も見てみたいので」
「それなら早めに出た方が良いかもね。この雪は昼前には溶けてしまうでしょうから」
「エイミーたちもそのように言っていたみたいです。レベッカをがっかりさせたくないので、急がないといけませんね」
「街までは馬車で行くと良いですよ。足元がぬかるんでいるでしょうから。あと、護衛を二人とも連れて行くこと」
「治安は良さそうに見えますが、護衛が二人も必要ですか?」
昨日、ロッソと二人で出掛けた時には領地の様子は平和そうに見えた。護衛なしでのレベッカと二人での外出はさすがに無理だろうが、二人も必要だとは思えなかった。
「まつろわぬ民という少数部族がいくつかあって領内の外れで暮らしているのですが、冬になる前は備蓄を確保しようと領民から略奪をすることがあるのです」
「そんな人たちがいるのですか?」
「夫が領主を務めていたときは、彼らをまとめていたスヴァルドという男との間で和平協定が結ばれていて、彼らが狩った魔獣の頭数に応じて必要物資を供給することで共存がなされていたのです。でも、夫もスヴァルドも亡くなってしまったために協定は形骸化し、まつろわぬ民は統率を失ったためにバラバラに活動しています」
「それが領民に迷惑をかけている、と」
私は物騒な話に眉をひそめた。
「そうです。こちらの方が人も物資も多いため街中まで来ることは滅多にありませんが、町外れでは身包みを剥がされたり備蓄してあった薪や食料を根こそぎ奪われたりとかはあるようです」
「和平交渉などは?」
「統率者がいないので交渉が難しくて。いくつかの小さなグループとは物々交換を続けているのですが、全てというわけにはいきません」
「なるほど」
思惑の異なる全てのグループと交渉するのは大変だろう。スヴァルドという統率者を失ってしまったまつろわぬ民たちが好き勝手に行動しているとなれば、それをまとめ上げるには相当な手腕が必要になる。そのようなリーダーシップを取れる人材が、今のまつろわぬ民の中にはいないのだろうということは想像に難くない。
「現在、数組のグループとは話し合いの途中なのですが、過激派とは話し合いの余地がなくて。彼らがどんな行動をするか予測ができません。ニーベルンの丘には彼らは近づきませんが、それ以外の場所に出かける時には必ずルイジさんやセドリック様、もしくは護衛を連れて行くようにしてくださいね」
「分かりました。しっかり安全に配慮して外出するようにいたします」
私がそう言うと、イライザ様は満足そうに微笑んだ。




