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「それでは、採寸を開始します」


イライザ様の言葉に、メジャーを持った少女が私の方へと近づいてきた。


ロッソと合流して館に戻った私は、昼食後に応接室へと呼び出された。レベッカとブランドンも一緒である。


部屋にはイライザ様とエイミーの他に町から呼ばれた商人と数人の助手もいる。机や床には彼らが持ち込んだと思しき衣類や靴がどっさりと広げられていた。


「アナスタシア様の採寸をしている間に、レベッカとブランドンは靴を選んでちょうだい。エイミー、二人の靴を見立ててあげて」


「畏まりました。二人ともこちらに」


イライザ様の指示にエイミーが二人を呼び寄せる。


「いえ、でも私たちの衣類など…」


困惑する二人にイライザ様はきっぱりと告げる。


「そんな靴では指を失くしますよ。代金はルイジさんが国からもらった報奨金から出しますから遠慮は無用です」


「それなら尚の事頂くわけにはっ!」


いきり立って拒否しようとしたブランドンにイライザ様は厳しい目を向けた。


「なにもあなたのためだけに購入しようというのではありません。必要なのはルイジさんが頂いたお金を領内で流通させることです。設備投資のために残しておく分と緊急時のために取っておく分以外は、きっちり使って領民に還元させます。これはそのための買い物でもあるのです。分かりましたか」


「はい」


そう言われては受け入れるしかない。ロッソの報奨金で身の回りのものを誂えるのはブランドンにとってはさぞや屈辱だろう。それでも昨日叱責したことが効いているのか、ブランドンは素直に頷いた。


「エイミー、二人の靴を選んでちょうだい」


「はい」


買い物リストなのだろうか。メモを片手に指示を出すイライザ様に促されたエイミーが、二人の前にどんどん靴を積み上げていく。中が起毛になっている厚革のブーツがほとんどだ。靴底に鋲が打ってあるのか床に置くとゴトゴトと音を立てている。


他にも雪の上を歩くための物だという幅広のザルのようなものだとか、留め具のついた細長い板のようなものだとか、靴とは言えないような代物がどんどんと出てきた。


エイミーはそれらをレベッカとブランドンにひとつひとつ履かせてサイズを確認している。


私はそれを商人が連れてきたお針子の少女に採寸されながら眺めていたのだが、そんな私の横でイライザ様と商人が目の周りだけ出るようになっているマスク付きの帽子や履くと手の厚みが三倍くらいになりそうな分厚い手袋を並べて、どの色が良いか好みのものはあるかと確認してくる。


ロッソとロードナイト卿が遠い目をした理由が分かったような気がした。


その後もショールや室内履きなど細々とした物を大量に選ばされ、外套を羽織らされたり普段着にするドレスを当てがわれた。


とにかく量が多いのでドレスは試着せず、採寸に合わせて手直ししたあと納品してくれるとのことだった。


日が傾き始めた頃になってようやくイライザ様のリストも概ね消化できたようだった。


「あら、もうこんな時間」


窓の外を見たイライザ様が驚いたような声をあげる。私もつられて窓に目をやるとすっかり空は夕暮れに染まっていた。


「今日はこれでおしまいにいたしましょうか」


イライザ様の声にブランドンもレベッカも安堵の表情を浮かべた。


「足らないものがありましたら、また後日連絡いたしますね」


イライザ様の言葉に商人は恭しくお辞儀して購入しなかった物をまとめ始める。疲れの色は見えるものの表情は満足そうだ。


「お手数をおかけして申し訳ありませんでした」


「私があなたの国へ移住したら、きっと同じことになってましたよ」


頭を下げるとイライザ様は楽しそうに笑った。確かに私の国ではこれらの衣類は使えないだろう。普段使いの厚手のドレスはしっかりとして重そうだ。南部でこのドレスを着ていたら暑さで体調を崩すだろう。


改めて異なる気候の土地に来たのだと思い知らされた。


「お疲れになったのではなくて?夕食まで少し時間があるから、お部屋で休憩されてはいかが?」


そんな私に、イライザ様が気遣わしげに声をかけてくる。


「ありがとうございます。お言葉に甘えて下がらせていただきます」


私は微笑んで一礼すると、応接室を後にした。


部屋に戻った私は、ぐったりとソファに腰を下ろした。窓から馬に乗った集団が森の方へ向かうのが見える。


あの赤髪の男はロッソだろう。その少し後ろにいる銀髪の男はロードナイト卿だ。夕方の巡回とやらに行くのだろう。


弓や槍を掲げた集団は、何やら笑いさざめきながらそのまま森の中へと消えていった。


ロッソがこちらに着任したのは、それほど前でもないだろう。それなのに随分とここでの暮らしに馴染んでいるように見える。王都で暮らすよりは性に合っているのか。


なんとなく落ち着かない気分になったところへ、お茶の支度をしたレベッカが入ってきた。


「お疲れさまでした、姫様。お茶をご用意しましたのでどうぞ」


そう言って、レベッカはテーブルに茶器と干したベリーの入った小皿を乗せてくれた。紅茶の甘やかな香りが鼻腔をくすぐる。


一口飲むと故郷の味がして、疲れがゆっくりと解けていく気がした。


「美味しい」


ぽつりと呟くと、レベッカは嬉しそうににっこりと笑った。


「ありがとうございます。エイミーに聞いたのですが、こちらでは紅茶は珍しくてほとんど飲まれないらしいですよ」


「まぁ、それでは代わりに何を飲んでいるのかしら?」


「私も驚いてエイミーに訊ねたら、お酒よって即答されました」


そう言ってレベッカはくすくすと笑った。


「寒い土地柄だし、身体を温めるためにお酒を嗜む方も多いのでしょうね」


「そうみたいですね。女の人でも酒豪の人が多いらしくて、エイミーはあんな可愛らしい子なのに、飲み比べで料理長のモーリスを潰したことがあるそうですよ」


「まぁ」


あの線の細いエイミーがそんな武勇伝を持っているとは思わず、私は思わず笑ってしまった。


「それにしてもレベッカはずいぶんエイミーと仲良くなったみたいね」


私はレベッカに微笑みかける。彼女は少し照れたようにはにかんだ。


「エイミーはこちらに不慣れな私を何彼となく気遣ってくれるんです。おかげで助かっています」


レベッカの笑顔を見て、私は少しほっとした。祖国を出て私の輿入れに着いてきてくれたレベッカに申し訳ない気持ちがずっとあった。


再び故郷の地を踏むことはきっと難しいだろう。家族や友人をおいてこの地へ来ることに、きっと葛藤があったに違いない。レベッカはそんなそぶりを一切見せないが、私はそれが心苦しかった。

紅茶は輿入れの際に持参したものです

この辺りだと贅沢品ですね

なくなったら終了です

エイミーは紅茶の代わりにお酒を飲んでいると答えましたが、白樺茶とか松葉茶も飲まれています

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