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窓の外を見ると、物々しい装備でこちらに移動している集団の中にロッソの姿が見えた。彼の赤い髪は遠目でも目立つ。
彼らは何やら大量の肉塊を乗せた馬車を引きながらこちらに向かっているようだ。察するに、あれは魔獣なのだろう。
そういえば、今日はまだロッソに会ってなかったなとふと思った。
朝食にロッソとロードナイト卿の姿がなかったのは、魔獣を狩りに行っていたからなのだろうか。
彼らを出迎えるべくエントランスへと向かうと、そこにはイライザ様の姿もあった。
「あら、アナスタシア様」
イライザ様は、私の姿を見るとにっこりと微笑んだ。
「ロッソ卿たちのお姿が窓から見えたので」
「少し前に魔獣が出たと報告があって、ルイジさんとセドリック様が討伐に向かわれたのです」
「ちっとも知りませんでした」
少し嫌味っぽくはなかったと、口に出した後少し後悔したがイライザ様は気にした風もなく笑った。
「こんなに早く帰ってくると思わなくて。早馬によるとルイジさんが何日も前から作らせていた大掛かりな落とし穴に魔獣を追い落として、上からタコ殴りにしたそうよ」
「たこなぐり」
上品なイライザ様がそのような言葉遣いをしたことに面食らっていると、イライザ様は深い息をひとつ吐いて続けた。
「本来ならアーマードベアーを討伐するのは一苦労なの。夫もアーマードベアーとの戦闘で傷を負ったことが原因で亡くなってしまったから」
「アーマードベアー……」
アーマードベアは文字通り鎧のような毛皮を持つ熊の魔獣だ。分厚い毛皮と筋肉で打撃は通りにくいし、鋭い爪や牙での攻撃は脅威だと聞いたことがある。
「そのせいであなたに報告するのを躊躇してしまったの。ごめんなさいね」
「そんな!謝罪なんて!」
慌てて両手を振ると、イライザ様はそっと微笑んだ。
嫁ぐためにこちらに来たとはいえ敵国の王族である私はこちらでは部外者だ。そのために緊急時であるにも関わらず何も知らされなかったのではと一瞬でも勘繰ってしまった。
微笑みながらも少し複雑そうな表情のイライザ様を見ると、そうであったとしても責める気持ちにはならない。
私も戦場で何度も同じ思いを味わったのだ。
こちらが熟考して綿密に立てた戦略を、ロッソは一瞬の機転で鮮やかに回避してしまう。あの無力感と敗北感は未だに私の中に忸怩と残っている。
ましてやご夫君を亡くされているイライザ様は、もっと複雑な気持ちだろう。
私はそっとイライザ様の背中に手を添えると扉の方に向き直った。
その時エントランスへの扉が開き、ロッソとロードナイト卿が入ってきた。
肌寒い空気と共に興奮したような声や笑い声も飛び込んでくる。まるでお祭りのような騒ぎに、私はそっと姿勢を正すとロッソ達に声を掛けた。
「お疲れさまでした、ロッソ卿、ロードナイト卿」
「やめてくれよ、ロッソ卿とかさぁ。ケツがむずむずするわ」
「下品な言葉を姫君の前で使うな!」
ロッソの軽口にロードナイト卿が苦虫を噛み潰したような顔で苦言を呈した。
「じゃあ、オケツがむず痒いでございます?」
「お前分かっててわざとやってるだろ!」
ロッソとロードナイト卿のやり取りに、イライザ様がくすくすと笑う。ちらりと横目で窺うといつものイライザ様のように見受けられた。
魔獣を載せた荷車は館の裏手に移動させるらしく、喧騒が遠ざかっていく。そのことに少しだけほっとした。
「まぁでも、普通にルイジって呼んでくれ。ロッソ卿とか柄じゃないからな」
そう水を向けられて思わず戸惑う。
ルイジ…ルイジ…
心の中で反芻するも口に出すのは憚られた。
「こんなヤツに敬称を付けて呼ぶ必要などありません。呼び捨てでもボケナスでもなんら問題はありません」
「おいおい、ケツはダメでボケナスはアリなのかよ。だいたい人をボケナス呼ばわりすんなよ」
「確かにボケにもナスにも失礼だったかな。ボケとナスに謝罪を」
「仲がよろしいのはけっこうですが、湯浴みの用意をしてありますので先に身体を清められては?」
二人の会話を笑顔で見守っていたイライザ様が、そう言って場を取りなした。
魔獣の血や脂でかなり汚れていたため、二人ともそれに異論はないようだった。
「じゃあちょっくらひとっ風呂浴びてくるわ。じゃあなーリサ、アナ」
そう言い残して去って行くロッソをロードナイト卿が追いかけて怒鳴りつける。
「イライザ様とアナスタシア様をどこぞの村娘みたいな呼び方をするな!」
「だって長いんだもんよー。めんどくせー」
言い争う声が少しずつ遠ざかって行く。
「本当に賑やかね、あの二人」
隣でイライザ様が苦笑した。
「今年の冬は退屈しなくて済みそうだわ」
私はそれに応えることができず、小さくなっていく二人の背中をただぼんやりと眺めていた。
イライザ(Eliza)→エリザベス(Elizabeth)→リサ(Liza)です。
エリザベスのニックネームはめちゃくちゃたくさんあってエルサ(Elza)もその一つ。
てことで、よく考えたら二人はアナ雪。




