27出産
腹が大きく膨れてくると、乳房から乳がにじみ出て着物が濡れるようになってきた。曹貴人は上目遣いで私と乳房を交互に舐めるように見る。
「気になる?」
「ん、少し。いいなあ、皇后さまのお子は。あたしはお乳を飲んだことないと思うもの」
曹貴人を産んだ母親は早くに亡くなったのだった。太后の愛情を受けていたとはいえ、それまでの幼児期の扱われ方は獣のようだった。
「あ、あの、飲んでみる?」
私は曹貴人の幼いころに同情する半面、私の乳房を含んでもらいたい、後ろ暗い欲望がある。
「いいの!? あ、でもお子に悪いわね」
「まだ生まれていないのだし」
目を輝かせて頬を紅潮させる曹貴人に胸元を見られながら、私はドキドキしながら着物を開け両乳房を出す。
「わあ! なんだかおおきくてふわふわ! あ、お乳がもれてきているわ!」
曹貴人がちゅうっと乳首に吸い付く。
「う、ふっ」
「あ、ごめんなさい。痛かった?」
「うんん、全然そんなことないわ」
甘い疼きを感じて、思わずうめいてしまった。曹貴人は赤子のように無垢な心で私の乳を吸っているというのに、私は恥ずかしい欲望にまみれている。意識的か無意識か、曹貴人は片方の乳に優しく舐めながら吸い付き、もう片方の乳房を揉みしだいている。
声を押さえながら、その様子を見ているとだんだんと欲望よりも、彼女への愛しさが募る。私は目を閉じて彼女の髪をなでながらこの一時を楽しんだ。
「おいしかった。お乳の味ってこんななのね」
「もう、いいの? また後で飲んでもいいのよ?」
「もういいの。満足したから」
明るく曹貴人は屈託なく笑う。少し残念な気持ちがしてしまったが、彼女の笑顔を見るとまあいいかという気にもなった。
穏やかに優しい時間が流れ、極楽のような日々を過ごす。私が曹貴人に書を読み聞かせると、その話を彼女は絵にかいたりした。
「まあ! 絵を見ただけで話の内容がわかるわ!」
「ふふふ。これは生まれてくるお子に贈る絵本なの」
「きっと喜ぶわね」
私たちをばあやさんは目を細めて遠くから見ている。永遠に続いてほしい時間だった。しかしそろそろ出産だろうと日が近づいてきたころ、曹貴人の様子がおかしくなってきた。嬉しそうにそわそわしていた彼女は、怪訝そうに腹と私を交互に見つめ、不安そうな表情を見せる。
「どうしたの? そんなに落ち着かないで」
「ん、ううん……」
会話もあまり交わさず、黙ってそばにいる。もしかしたら、赤子に嫉妬しているのだろうか。
「あの、子が生まれても何も変わらないから心配しないで?」
そう伝えると曹貴人は首を横に振るばかりだった。
強烈な痛みを腹に感じ、出産が間近に迫った。ばあやさんはすぐさま産婆を呼んで、大量の湯を沸かし始める。
「ぐぅっ!」
「皇后さま! 皇后さま! 死なないで!!」
「小麗っ! だ、いじょ、うぶ! あなたを残して、ぜったい、死なない!」
「くうううぅっう!」
私たちはずっと強く手を握り合っていた。どれぐらいの間、何がどうなっているのかわからないが、最高潮の痛みの後、破裂音のような赤子の声が室内に響き渡る。
「元気な男の子ですじゃ」
赤いくしゃくしゃの赤子を胸にそっと置かれる。生まれたばかりなのに髪が豊かで彫の深そうな顔立ちに見えた。
「ああっ! う、生まれた!」
曹貴人が赤子を見て目を大きく見開き、私の顔をじっと見つめる。
「皇后さま……?」
「小麗?」
なぜか困惑している曹貴人は何度も私と赤子を見比べたのち、寝台の上に気を失うように伏せ、眠り始めた。




