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寵姫の秘密  作者: はぎわら 歓


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28 親子

 赤子は生まれ落ちた瞬間に大声を上げ、乳を飲み終えた後、曹貴人と同じようにこんこんと眠りについた。


「お疲れ様でしたなあ。どうぞ翠玉しゃまもお休みなされ。お子は見ておりますから」


 ばあやさんが涙目で私の汗を拭きながらいたわってくれた。


「あ、ありがとう……。だけど、小麗、麗紅姐姐は大丈夫なのかしら?」


 ばたりと倒れるように眠った曹貴人は、侍女たちに隣の寝台へ運ばせている。静かに落ち着いた様子で眠っているようだ。



「緊張なされたのでしょう。太后さまが、あなたさまを産んだのち亡くなられましたからのぅ。思い出してしまわれたのかもしれましぇん……」

「麗紅姐姐……」

「さあ、さ、翠玉しゃまはお身体をまず休ませねば。この薬湯を飲んでお眠りなしゃい」


 甘くほろ苦い薬湯を受け取り飲み干すと、身体の中からじんわり温かさが広がってきた。それと同時に強い疲労感を覚え目を閉じた。



 そっとおでこをなでられる感覚があり、ゆっくりと目を開く。ぼんやりとした視界がはっきりすると目の前に曹貴人が笑んで寝台に腰かけていた。


「小麗、起きてたの?」


 身体を起こそうとすると、両肩をそっと押さえて「まだ横になっているがいい」と曹貴人は低い声で言う。


「もう平気よ。小麗こそ平気なの? もう起きだして」

「ふふふ」

「ん?」


 曹貴人は私を熱っぽくじっと見つめ、嫣然と微笑んでいる。私はハッとして身体を起こす。


「姐姐!? 麗紅姐姐!?」

「ほらほら、横になって」


 また私の身体を優しく抱いて横たわらせた。私の出産がきっかけになったのか、曹貴人の記憶が戻ったのだ。私は両手を広げ力いっぱい曹貴人を抱きしめる。


「体力を使ったばかりなのに、力が強いな、翠妹は」

「姐姐! 姐姐!」


 私は嬉しさと驚きで涙を流しながら曹貴人に抱き着いているばかりだった。そこへばあやさんが赤子を抱いてやってきた。


「良かったですじゃ。 麗紅しゃまのお記憶も戻られたことですし、お子しゃま無事ですし、ほらこの通り」


 柔らかい布にくるまれて眠っている赤子をばあやさんはそっと、私たちの間にそっと置く。


「よく眠っているわね。それにしてもこの子は――」

「ん――」


 見れば見るほど曹貴人に似ている。赤子はみな、こんなにはっきりとした顔立ちに見えるのだろうか。私と陛下のお子なら、もっとあっさりとしたぼんやりとした丸い顔立ちのような気がする。


「ばあやさん、この子は私や陛下の生まれたころに似ているかしら?」


 ばあやさんに何気なく聞くとばあやさんは顔を横に振る。


「いいえ。陛下にも翠玉しゃまにも、太后さまにも、もちろん先帝にも似ておりませぬな……」

「まさか」


 曹貴人がつぶやくと、ばあやさんは頷いた。


「え? 麗紅姐姐の?」

「このお顔はそうでしょうなあ」


 私と曹貴人は顔を見合わせた。確かに曹貴人に何度も抱かれ愛し合った。曹貴人が陛下の子を孕むことはなかったと以前に聞いたが、男としての機能はあったのだろうか。


 赤子の顔と曹貴人の顔を見比べると、二人の間に血の繋がりがあることは間違いないと思える。


「この子は、私と麗紅姐姐との!」


 赤子が曹貴人との子だと思うと、子に対する愛しさがますます募ってくる。曹貴人はそっと赤子に手を伸ばし頬をなでる。


「まさか、あたくしが子を得るとは……」


 困惑しながらも優しい目をして赤子を見つめている。


「ほんとうにおめでたいですじゃ」


 ばあやさんは泣き笑いしながら、私たち親子三人を眺め続けた。

 曹貴人の記憶が戻り、赤子が二人の愛の結晶だと知ったこの時が、人生で最高の幸せの瞬間だったかもしれない。

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