22 密告者
曹貴人が連れ去られ、途方に暮れてしまったがいつまでも冷宮にいるわけにはいかなかった。日が上がると起こしに来る小秋よりも寝台へ戻っていなければならない。
心が疲れ切ったせいか足が重い。こんなに自分の宮は遠かったのかと思うぐらい、なかなかたどり着けなかった。
やっと東屋が見えてきた。まだ薄暗く、日の出には余裕があるだろう。少し東屋に寄り、足をさする。曹貴人のことを想うと涙が湧いてくる。陛下が兄上だという衝撃的な事実は、なんとなく腑に落ちる点もあり、また曹貴人の宮刑に比べると、私の中では大した出来事ではないのだ。
「無事に戻ってきて……」
涙を流し祈ることしかできなかった。茂みが揺れがさっと音がしたので、思わずしゃがみ込み身を隠す。
「小秋?」
私が寝台にいないことがばれて探しに来たのだろうか。こんなに早く。そう思って立ち上がり、声を掛けようとすると私の宮とは反対のほうへ向かっていく。
「一体どこへ?」
なぜか気になり、そっと距離を取り付いて行く。すぐに別の東屋がみえてきた。この東屋に近いのは王宮人の宮だ。小秋は東屋に立っている人を見つけ小走りして近づく。私はちょうど身を隠せる大きな木の陰に隠れて様子を見る。
「どうでした?」
「宴では陛下が早々にお帰りになって、妃たちだけで過ごしました」
「様子を見に行かれたのでしょうか」
「恐らく」
「あの、王宮人にはこのことを――」
「もちろん、お伝えしますよ。引き続き頼みますね」
「わかりました! では」
小秋は腰を下げた。私は急いで引き返し、自分の寝台めがけて走った。どういうことなのだろう。今、小秋が会っていたのは王宮人の侍女だ。以前に出産祝いをもって行った時に、王宮人にぴったりと寄り添っていた年老いた侍女だ。
悲しみと混乱で頭の中と心がごちゃごちゃになっている。とにかく横たわり身体を整えるしかないと、寝台へと滑り込んで目を閉じる。一睡もしていないがもちろん、安らかな眠りなど訪れない。
「麗紅姐姐……」
机の上に残されていた酒を一気にあおる。強い酒のおかげで、目のまわりがぼんやりし始め、頭もぐらぐら、ふわふわする。そのまま私は闇の底へ落ちていった。
「翠玉さま、翠玉さま!」
「ん、んん?」
名前が呼ばれたことに気付き目を開ける。外からまぶしい光が差し込んできていた。
「もうお昼ですよ?」
「え、昼? ああ、そう……」
身体を起こしため息をつく。
「今日はやけに遅いお目覚めですね」
「そ、そうね」
何事もなかったかのような小秋に、私も昨晩のことは夢だったのと錯覚しそうになる。
「お食事はどうなさいます?」
「あまり欲しくないの。身支度したら曹貴人のところに行ってくるわ」
「え? 曹貴人のところ?」
小秋は驚き、何か言おうとしたが口ごもった。
「どうかしたの?」
「あ、いえ」
頭がさえてくると、小秋はやはり怪しいと思えてきた。昨晩のことは夢ではなかったのだ。何かあることを知っていたから小秋は動揺するのだ。
私は唇を噛みながら平然として、身支度を終え曹貴人の宮へ向かった。




