21 翠玉の秘密
すっかり男性の身体付きになっている曹貴人に、陛下も夢中になってしまっている。私の中で果てた陛下は、曹貴人にもっと貫いてほしいとねだる。一度果てた陛下が私の中でまた熱を帯び始める。
「陛下。あちらへ参りましょう」
曹貴人は私から陛下の身体を離し、寝台から離れた陰で陛下に快楽を与え始める。
「ああ、麗紅っ!」
陛下の喘ぐ声が聞こえる。曹貴人は私のために陛下を引き離すが、曹貴人が陛下を抱いていることを見聞きするのは辛かった。私は曹貴人と陛下に抱かれ、陛下は私を抱き曹貴人に抱かれる。曹貴人は私と陛下を抱く。
快楽と嫉妬と義務と愛情が入り混じって、もう何が何だか分からなくなる。以前のように聴力を失う薬酒を飲み、やり過ごそうと思った。
複雑な交わりと曹貴人との静かな日常生活をしばらく送る。やがて待ちに待った私と曹貴人だけが呼ばれない宴の日がやってきた。
冷宮で逢引する。
「会いたかった」
私はなだれ込むように曹貴人の胸に飛び込む。
「よく会っておろうに」
「それはそうですが」
「あたくしが欲しいのか?」
「姐姐……」
熱っぽく見つめられ私はうっとりと魅入られたようになる。もちろん抱き合いたい気持ちあるが、身体だけではなく言葉で愛を確かめ合いたかった。
昼間、曹貴人の宮でも、私の宮でも愛をささやくことは危険な気がしていた。たとえ曹貴人のばあやさんでも、小秋でも私たちの関係を決して知られてはならない。
「姐姐が陛下をお抱きになるのが、辛いと思ってしまいます」
「あたくしもそなたを陛下に触れさせたくはないと思っておる」
「姐姐……」
甘い口づけを交わし、気持ちを伝え合うと身体よりも心の奥のほうが温かくなり満たされてくる。
「我愛你我愛你――愛してる」
「我也愛你我也愛你――愛してます」
心も身体もすべて曹貴人で埋め尽くされる。いつまでもこのままでいられるように願っていたが、とうとう終わりが来てしまった。
ガタっと物音がしたと思うと、誰か冷宮に入ってくるものがあった。
「姐姐?」
「しっ。音を出すでない」
私の肩に着物を掛け、曹貴人もさっと衣をまとい立ち上がる。私を後ろにして曹貴人は「陛下……」とつぶやいた。
陛下? どうして? なぜここに? 私は息をのんで状況を見守るしかなかった。
「麗紅……」
悲し気な、それでいて冷たい声が冷宮に響き渡る。曹貴人は腰を落とし下を向いている。
「そなたは朕を裏切っておったのか……。まさか翠玉と通じておるとは……」
「申し訳ございません」
「翠玉よ。そなたは麗紅が朕の第一寵姫だと分かっていてこのような不義をおかしたのか」
こわくて声が出ない私に代り曹貴人が「あたくしがお誘いしたのですよ。子がなせぬ者同士慰めあってございます」と力強く申し上げる。
「そなたが翠玉を惑わしたと申すか」
曹貴人は腰を落とし下を向いたままだ。何かいい訳をしなければと思うが、何と言ったらよいか分からず、のどもカラカラになって一言も発することが出来なかった。
「翠妹に落ち度はありません」
「姐姐……」
私をかばっている曹貴人に陛下はいらだち始める。私は何か言おうと思った瞬間、陛下が手をパンパンと打つ。陛下の後ろからすっと素早い影が現れ、曹貴人の後ろに立ち、口を押さえ抱え上げた。
「!」
曹貴人は抵抗することなくその影に抱え上げられどこかへ連れ去られた。
「姐姐、ど、どこへ……」
一瞬の出来事に私はますます不安になる。
「そなたを惑わした罰だ。そして朕をも惑わしておる。惑わしておるものが何かわかっておる。それを断ち切るのだ」
「え? た、断ち切る?」
「そうだ。そなたは麗紅の身体に惑わされておるのだろう。朕もそうだった。もっと早く決心すればよかった……」
「一体、どういう……?」
「宮刑に処す」
「そ、そんな!」
「大罪だが命までは奪わない」
陛下は曹貴人の男性器を切り落とすと言っているのだ。直接、命を奪わないかもしれないが、危険な行為でその後の体調がどうなるか分からない。
「昔の愛らしい麗紅に戻るのだ」
「ひ、ひどいです……。どうして、どうして私には罰を与えないのですか?」
「……」
陛下は目を合わせようともせず黙っている。
「先に、私を、曹貴人に抱かせたのは陛下ではありませんか! 抱けぬのならそのままで! 無理に子などなそうとされなければよかったのに!」
もう相手が陛下でも誰でも思っていることを言うしかなかった。不敬罪に問われて死罪になっても構わない捨て鉢な気持ちだった。
「すまなかった……」
まさかの陛下の謝罪に私はまた言葉が奥に引っ込んだ。
「そなたを抱けたらこんなことにはならなかったであろうな」
陛下のお好みでないのなら、最後の顔合わせのときに落としてくれていたらよかったのにと、試験のことを思い出す。
「……」
何も言えず陛下の言葉を待つ。
「そなたは実の妹なのだ」
「え?」
何を言われたのかわからなかった。
「妹?」
「父親は違う。母が同じだ」
私は絶句した。母が同じということは、亡くなった太后様が母? 父が赤子の私を連れ、宮殿から退いたのはそのため? 呆けている私に陛下は続ける。
「そなたの父が、図書館長の張周孝だとは調べではわかっていた。しかし妹とわかったのは入内させてからだった」
最初、太后に似ているということで、陛下も曹貴人も私のことを気に入ってくれていた。父が図書館に勤めていた当時、太后様のもとへ本を届けたり、皇太子であった陛下のもとに勉学を教えたこともあったらしかった。その二人がどういういきさつで結ばれ、私を産んだのかは分からない。ただあまりにも太后様に似ていて、陛下にも似ていることから、陛下は私を妃というよりも近親者のように感じてしまう。決定打は、私の首の後ろにある花の模様の痣だ。
「この痣?」
「見るがよい」
陛下が後ろを向き、詰まった襟を開き首の付け根を見せた。同じ花の形の痣がある。亡き太后様にも同じ痣が同じ位置にあったらしい。
「兄上……?」
「異父妹とはいえ、やはり実の妹。獣のようにそなたを抱くことはできなかった。しかし放り出すわけにもいかず」
兄としての優しさと、後宮のしきたりで陛下も苦しみ、また曹貴人と私のことも許せず男としてもつらい思いをされていたのだ。
「陛下……。こんなにお優しくして頂いていたのに……」
「いたしかたない。そなたと麗紅のことも、そろそろごまかしがきかぬ」
誰にも知られていない逢瀬だと思っていたが、隠し通せるものではなかったようだ。
「もとに戻すしかほかない」
「姐姐……」
「心配するな。国一番の医師を用意しておる。これでまた平穏にすごせるのだ」
そういうと陛下は冷宮を後にした。私は冷え切った冷宮で夜が明けるまで曹貴人のことを想った。




