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寵姫の秘密  作者: はぎわら 歓


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18 寵姫の秘密

 陛下の寝所に呼びだされたとき、二つの杯の中身をそれぞれ半分しか飲まなかった。視力と聴力を奪われる杯だ。この残った杯はきっと声が出て身体に力が入るだろう。声が出ると何を言ってしまうのか自分でも予想ができないのですべて飲んだ。

 行為が少し進んだ頃、私の目と耳が利き始める。やはり私を抱くのは曹貴人だ。驚くことはもうない。彼女に身を預け、声にならない声で「麗紅姐姐……」とうめく。


「翠玉?」


 小声で曹貴人はつぶやき私を見つめる。目の見えている私は、初めて彼女と目が合った。うんともすんとも言わずに私は身を委ねる。いつも以上に満たされる感覚があった。


 そのあとの陛下との行為は本当に義務のような気がした。陛下も義務なのだろう。どうやら私と行為ができないようで、曹貴人に介助されているのだ。

 私を抱いた後、曹貴人は陛下を抱きながら、奮い立たせ私との行為に向かわせている。陛下が私を抱けないことを、なぜか悲しいと思わなかった。それよりも曹貴人にもっともっと触れてほしいと願ってしまう。

 私が見えていることに気付いたらしい曹貴人は、陛下を後ろから抱きながら、陛下に抱かれている私の手をそっと握った。その手が握られているだけで、私は心が温かくなる気がした。


 次の日の午後、曹貴人がふらっと私のところへやってきた。いつものように共も連れず自由気ままに後宮内をうろうろしている。


「翠妹、少し話をしたいが」

「麗紅姐姐。ようこそ、どうぞこちらへ」


 奥に案内しようとすると、曹貴人はちらっと小秋を見つめ、手を振り「外へ出よう」という。


「翠玉様。小雨が降っております」


 小秋が曹貴人の前で緊張しながらも一生懸命訴える。


「風情があって良いだろう?」

「お風邪をひかれでもしたら……」


 曹貴人の強引さに小秋はますます緊張し始めている。


「平気よ。濡れないようにするから出てくるわ。まだ日も高いことだし」


 心配そうな小秋を置いて、東屋に行くことにした。


 東屋の周りの丈の高い草花が刈られ、見通しが広くなっている。


「これなら盗み聞きされることもあるまい」


 部屋では誰が物陰にいるか分からないし、こうした広い場所のほうが密談には良いのかもしれない。何を聞かれるかは分かっている。


「いつ知った?」

「先月です。うっかり杯の中身を半分こぼしてしまって……」

「なるほどな」


 曹貴人の端正な横顔を眺める。この方は女人なのか男なのか。聞きたいことが私のほうに山とある。


「さて、なんでも申してみよ。答えられることは答えてやろう」

「で、では……」


 曹貴人の身体のこと、陛下のことを尋ねる。


「あたくしは元々、両方ある質でな」


 曹貴人の出自の秘密を知ることになる。


――彼女は南方の村で生まれる。男女の機能両方をもって生まれた彼女はその村で疎まれた。彼女を産んだ母親は気を病んで早く死に、父親は育てられぬと村にやってきた人買いに彼女を売ってしまった。

 あるときその人買いは珍しいものを売りに来たと宮殿にやってきた。ちょうど、皇帝陛下は不在で、皇后のお目通りの叶った男は檻に入れた彼女を見せる。


「どうですか? 陛下は変わった動物を好むということでお持ちしました。ほら! 立って身体をお見せしろ!」


 少女だった彼女は商品だったので、身綺麗にされていたが裸だった。はっきりとした可愛らしい顔立ちとすらりとした肢体を持ち、男性の機能も持っていた。


「わかりました。陛下がお喜びになるでしょう。そなたの希望の金を払うが、こういったものは早く死ぬ。一年と持たなければ罰を与えますよ?」

「え? いえ、こいつは丈夫ですよ! へへっ。大事にして下せえ」

「ふん。まあよい。そなたの似顔絵を描かせておきます。金を受け取ったら出ていってよろしい」


 こうして彼女は皇后に買われたが、陛下には内緒にして自分の手元に置いた。彼女を売った男は、再び現れることはなかった。


「皇后さまは、あたくしを哀れんで娘のように可愛がってくださった。あたくしを守ろうと後宮に入れてくださったのじゃ」


 曹貴人は遠く懐かく見つめるように語る。そうか。それで檻の話をしたのか。


「翠玉様ー」


 遠くから小秋の呼ぶ声が聞こえた。気が付くと辺りが薄暗くなっている。雨はもうやんでいて話はここで終わりになった。


「さて、帰るとするか」

「え、ええ」

「次は寝所だな」

「――!」


 胸がドキリとする。曹貴人はそっと私の顎を持ち素早く口づける。


「陛下ではなく、あたくしで嫌ではなかったか……」

「そ、それは」


 小秋の姿が見えると、返事が出来ぬまま曹貴人と別れた。

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