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第五話 もう一度、組まない?

 翌朝。

 レオは冒険者ギルドの扉を開けた。


「……さて」


 昨日の依頼で、それなりに報酬も手に入った。

 今日は一人で受けられる依頼を探すつもりだった。

 そう思っていた。

 掲示板の前に立つ。

 薬草採取。

 街道の護衛。

 小型魔物の討伐。

 どれも一人で問題なくこなせる。


 だが――。


「……」


 レオの視線が、無意識にギルドの中を探した。

 赤い髪。

 動きやすそうな服。

 腰の短剣。

 昨日、一緒に依頼を受けた少女。


「……何を探してるんだ、俺は」


 自分でもおかしくなって、苦笑する。

 別に、リズを探しているわけではない。

 そう思いながら、もう一度ギルド内を見回した。


 ――いた。

 壁際のテーブルで、一人で依頼書を眺めている。

 赤い髪が、朝の光を受けて少しだけ輝いていた。


「……」


 レオは、なぜか少し安心した。

 その自分の感情に気づかないふりをして、掲示板へ視線を戻す。

 すると――。


「……これか」


 一枚の依頼書が目に入った。

 森の中に出没する魔物の討伐。

 昨日より少し難しい。

 報酬も悪くない。

 レオは依頼書へ手を伸ばした。

 その瞬間。

 横から別の手が伸びてくる。


「……あ」

「……」


 赤い髪。

 緑色の瞳。

 リズだった。

 二人の手が、同じ依頼書の上で止まる。


「また?」


 リズが言った。


「……まただな」

「昨日もそうだったわよね」

「ああ」


 二人とも依頼書を離さない。


「私はこれを受けたい」

「俺もだ」

「……」

「……」


 しばらく見つめ合う。

 昨日と同じ状況だった。

 ただ一つ違うのは――。

 昨日ほど嫌ではなかったことだ。


「二人で受ける?」


 リズが言った。

 レオは少し驚く。


「いいのか?」

「昨日、一緒にやってみて分かったもの」

「何が?」

「あなたとなら、戦いやすい」


 レオは少しだけ目を見開いた。


「……俺も同じことを思っていた」

「じゃあ、決まりね」


 リズが依頼書を取る。


「受付に行きましょう」

「ああ」


 二人並んで受付へ向かう。

 昨日とは違う。

 今日は、どちらも自分から一緒に行くことを選んだ。


     ◇


 森へ向かう道。

 昨日より会話が多かった。


「レオって、どこで剣を習ったの?」


 突然、リズが尋ねる。


「昔からだ」

「昔から?」

「ああ。子供の頃から」

「へえ……」


 リズがレオを見る。


「じゃあ、かなり長いのね」

「そうだな」

「剣以外は?」

「一通り」

「一通りって?」

「魔法も少し。あとは礼儀作法とか」

「礼儀作法?」


 リズが吹き出した。


「冒険者なのに?」

「……悪いか?」

「だって、想像できないんだもの」

「俺だって好きで覚えたわけじゃない」


 レオンは思わず口を滑らせそうになって、言葉を止めた。

 好きで覚えたわけじゃない。

 幼い頃から伯爵家の跡取りとして叩き込まれた。

 剣も、魔法も、礼儀作法も。

 けれど今は、それを詳しく話すつもりはない。


「まあ、色々あったんだ」


 そう誤魔化す。


「ふーん」


 リズはそれ以上聞かなかった。

 それが少しありがたかった。


「じゃあ、リズは?」

「私?」

「ああ」

「私も色々よ」

「……似たような答えだな」

「ふふっ」


 リズが笑う。


「秘密が多い者同士ってことでいいんじゃない?」

「そうだな」


 二人の間に、自然な笑いが生まれた。


     ◇


 森へ入る。

 昨日と同じように魔物が現れる。


「右!」


 レオが叫ぶ。


「分かってる!」


 リズが魔法を放つ。

 魔物が吹き飛ぶ。

 続いて別の魔物がレオへ襲いかかる。


「任せて!」


 リズが援護する。

 レオが一気に踏み込み、魔物を斬り伏せる。


「残り三!」

「私が二体止める!」

「なら、一体は俺が!」


 二人が別れる。

 レオが一体を倒す。

 リズが二体を魔法で足止めする。

 その隙にレオが駆けつける。

 最後の一体を二人で仕留めた。


「……終わった」


 レオが息を吐く。


「昨日より簡単だったわね」

「連携に慣れたからだろう」

「そうね」


 リズが笑う。


「私たち、結構いいコンビかも」

「……コンビ」


 その言葉を聞いて、レオは少しだけ嬉しくなった。


     ◇


 依頼を終えて、街へ戻る。

 夕方になっていた。

 ギルドで報酬を受け取る。


「ありがとうございました」


 受付嬢が笑顔で言う。


「今日もお二人で受けたんですね」

「はい」


 リズが答える。


「息が合っているように見えますよ」

「ありがとうございます」


 リズが嬉しそうに笑う。

 レオはその横顔を見ていた。

 昨日よりも自然に笑うようになった気がする。

 それだけのことなのに――。

 なぜか、少し嬉しい。


「じゃあ、俺はこれで」


 レオが言う。


「うん」


 リズも頷く。

 そのまま別れる――はずだった。


「あ」


 リズが呼び止める。


「レオ」

「なんだ?」

「……明日は何か依頼、受ける?」

「明日?」

「ええ」


 リズは少しだけ目を逸らした。


「もし、予定がなかったら……また一緒に行かない?」


 レオは一瞬、答えに詰まった。

 けれど――。


「もちろん」


 自然に答えていた。


「じゃあ、また明日ね」

「ああ」


 リズが手を振って歩いていく。

 レオもその背中を見送る。


「……また明日、か」


 その言葉が、妙に心地よかった。


     ◇


 宿へ戻る道。

 レオは一人で歩いていた。

 昨日までは、一人で依頼を受けることに何の不満もなかった。

 一人で戦える。

 一人で稼げる。

 一人で生きていける。

 それで十分だと思っていた。


 けれど――。


「……明日も、か」


 明日、ギルドへ行けばリズがいる。

 そして一緒に依頼へ行く。

 そう考えると、少しだけ楽しみだった。

 まだ、ただの相棒だ。

 それ以上ではない。

 少なくとも、レオはそう思っていた。


     ◇


 同じ頃。

 リズも宿へ戻っていた。

 部屋に入る。

 荷物を置き、ベッドへ腰掛ける。


「……また明日、か」


 自分で言っておいて、少し恥ずかしくなる。


「私、何を期待してるのかしら」


 ただの冒険者仲間。

 ただの相棒。

 それなのに。

 明日も会えると思うと、少し嬉しい。

 リズは枕を抱える。


「……変なの」


 小さく笑った。

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