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第四話 最悪な出会い

 冒険者になって五日目。

 レオは、いつものように冒険者ギルドへ足を運んだ。


「さて……」


 掲示板の前に立つ。

 ここ数日の依頼で、少しずつ冒険者としての生活にも慣れてきた。

 薬草採取。

 街道の見回り。

 小型魔物の討伐。

 どれも問題なくこなせている。

 今日も一人で受けられる依頼を探す。

 そのときだった。


「……ん?」


 一枚の依頼書に目が止まった。

 森の奥にある街道周辺で、魔物の群れが確認されたらしい。

 報酬も新人向けの依頼よりかなり高い。

 レオは依頼書を手に取った。


「これにするか」


 受付へ向かおうとした、その瞬間。


「すみません」


 横から声がした。

 レオが振り向く。

 赤い髪の少女が立っていた。

 年齢は自分と同じくらいだろう。

 動きやすそうな服。

 腰には短剣。

 そして、背中には杖。

 魔法使いらしい。


「その依頼、私が先に見つけたんだけど」


 少女――リズが言った。


「……そうなのか?」

「そうよ」

「なら、一緒に受ければいい」

「嫌」

「……は?」


 レオは眉を寄せた。


「私は一人で受けるつもりだったの」

「俺もだ」

「じゃあ、あなたが別の依頼を探して」

「なぜ俺が?」

「私の方が先に見つけたから」

「依頼書は早い者勝ちなのか?」

「そういう意味じゃないけど……」


 リズが少しむっとする。


「とにかく、私は一人で大丈夫なの」

「俺だって大丈夫だ」

「なら別の依頼でいいじゃない」

「この依頼を受けたい」

「私も」


 二人は依頼書を持ったまま、互いに譲らない。

 しばらく沈黙。

 やがて――。


「……お二人とも」


 受付嬢が困ったように声をかけてきた。


「その依頼なんですが」


 依頼書を確認する。


「討伐対象が少し危険なので、二人以上で受けることが条件になっています」

「……」

「……」


 二人が顔を見合わせた。


「なら、組むしかないですね」

「そういうことになりますね」


 受付嬢が笑顔で言う。

 レオはため息を吐いた。

 リズも同じようにため息を吐いた。


「……よろしく」

「……よろしく」


 二人とも、明らかに乗り気ではなかった。


     ◇


 森へ向かう道。

 二人の間には微妙な距離があった。

 しばらく無言で歩く。

 先に口を開いたのはリズだった。


「ねえ」

「なんだ?」

「あなた、剣士?」

「そうだ」

「名前は?」

「レオ」

「私はリズ」

「そうか」

「……それだけ?」

「何を聞けばいい?」

「普通、よろしくとか言わない?」

「さっき言っただろ」

「……そうね」


 リズは呆れた顔をする。

 レオも思う。


「なんだ、この女」


 遠慮がない。

 初対面なのに、妙にずけずけと言ってくる。

 一方のリズも同じことを考えていた。


「……無愛想」


 必要なことしか話さない。

 質問しても短い答えしか返ってこない。

 どうして冒険者になったのか。

 どこから来たのか。

 何も分からない。


「……本当に大丈夫なのかしら」


 リズは小さく呟いた。


「何か言ったか?」

「何でもない」

「そうか」


 また沈黙。

 やっぱり組む相手を間違えたかもしれない。

 二人とも、同じことを考えていた。


     ◇


 森の奥。

 依頼にあった魔物の痕跡を見つける。

 レオがしゃがみ込む。


「……足跡がある」

「何匹?」

「五……いや、七」


 リズが目を細める。


「分かるの?」

「ああ」

「……へえ」


 少しだけ見直す。

 その直後だった。


「来るぞ」


 レオが立ち上がる。

 茂みから魔物が飛び出してきた。


「っ!」


 リズが杖を構える。

 魔物がレオへ襲いかかる。

 レオは横へ跳ぶ。


「そこ!」


 リズが魔法を放つ。

 炎の塊が魔物へ飛ぶ。

 しかし――。


「危ない!」


 レオが叫んだ。

 炎の軌道上に、別の魔物が飛び込んできた。

 爆発。

 魔物が吹き飛ぶ。


「……今の、俺を狙ったのか?」

「違うわ!」

「なら、俺の動きを見てから撃て」

「あなたが勝手に動いたんでしょう!」

「魔法を撃つなら周りを見ろ!」

「見てるわよ!」


 言い合っている間にも、魔物が迫ってくる。


「話は後!」


 リズが叫ぶ。


「右!」

「分かってる!」


 レオが右へ飛ぶ。

 魔物の爪が空を切る。

 その瞬間――。


「今!」


 リズの魔法が魔物を撃ち抜いた。

 レオが振り返る。


「……」


 完璧なタイミングだった。


「今の魔法……」

「何?」

「俺が避けるタイミングを分かっていたのか?」

「あなたが避けそうなタイミングで撃っただけよ」

「……なるほど」


 レオが前を見る。

 残りの魔物が迫ってくる。


「左、二体!」

「分かった!」


 レオが走る。

 魔物の攻撃をかわす。

 リズが魔法を放つ。

 レオが一体を倒し、リズがもう一体を吹き飛ばす。


「後ろ!」

「任せろ!」


 レオが振り向く。

 剣を振る。

 魔物が倒れる。


「残り二体!」

「私がやる!」


 リズが杖を掲げる。


「――燃えろ!」


 炎が走る。

 二体の魔物をまとめて吹き飛ばした。

 静寂。

 森に、魔物が倒れる音だけが響いた。


「……終わった」


 レオが剣を鞘に収める。

 リズも杖を下ろす。

 そして――。

 二人は同時に相手を見る。


「……」

「……」


 さっきまでの印象が、少しだけ変わっていた。


「あなた……」


 リズが口を開く。


「思ったより強いのね」

「お前もな」

「お前って言わないで」

「……リズ」

「それならいいわ」


 リズが少し笑う。

 レオもほんの少し口元を緩めた。


「……悪くなかった」

「何が?」

「連携だ」

「……そうね」


 最初は最悪だった。

 できれば一緒に行きたくなかった。

 それなのに――。


「もう一回くらいなら、組んでもいいかも」


 リズが呟く。


「俺もそう思う」


 二人とも、それを口にしてから少し驚いた。

 出発前とは違う。

 目の前にいる相手を、少しだけ認め始めていた。


     ◇


 街へ戻る。

 ギルドで報酬を受け取る。


「お疲れさまでした」


 受付嬢が二人に声をかける。


「お二人とも、かなり息が合うようですね」

「そうですか?」


 リズが首を傾げる。


「はい。初めて組んだとは思えませんよ」


 レオとリズが顔を見合わせる。

 確かにそうだった。

 お互いに相手の動きが妙に分かる。

 言葉にしなくても、何となく次の行動が予測できる。


「……不思議ね」


 リズが言う。


「ああ」


 レオも頷く。


「まあ、悪くない相棒だった」

「……相棒?」

「嫌だったか?」

「ううん」


 リズは少しだけ笑った。


「悪くないわ」


 それだけ言って、二人は別れた。

 帰り道。

 レオは一人で歩きながら思う。


「……変な奴だったな」


 無愛想だと言われた。

 勝手だとも言われた。

 なのに――。


「……悪くなかった」


 なぜか、もう一度会ってもいいと思っていた。

 一方、リズも宿へ向かいながら同じことを考えていた。


「……無愛想だけど」


 でも、戦闘では頼りになった。


 それに――。

 最後に見せた、あの小さな笑顔。


「……笑うと、あんな顔するのね」


 なぜか少しだけ気になった。

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