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……………………敏感?



 

 ……こんな蕾、前はなかったよね?

 自分の記憶を確かめながら、その子の頭にあるピンクの蕾をよく観察する。


 マンドラゴラの頭は基本、葉っぱが生えている。

 中には小さな蕾を咲かせている子もいたりするんだけど、どれも淡いピンク色で、こんな鮮やかなピンクではない。そして、ここまででかくもない。


「うーん……」


 測ってみたら、高さと直径は共に約30センチで、見事に球体。ちなみに蕾を頭に乗っけている子の体長は50センチ前後。

 蕾が体の半分近くを占めているせいで、すごくアンバランスに感じさせる。加えて鮮やかなピンク色と白い体は単調でありながらも強烈なコントラストを演出している。視界に入ったら嫌でも目を引く。


 そして見た目のアンバランスさを文字にしたかのように、その子は体を左右に揺らし、時折『よっ、よっ、ほっ』とバランスを取りながら歩いている。

 ……大道芸人か何かかな?


「何だこの蕾」


 しゃがんでマンドラゴラを観察している私に気づき、グラシスさんが近づいてきて聞いた。


「知りません。なんで私に聞くのかな?」


 私が知るわけないでしょうが。まさかマンドラゴラ博士に見える?


「コイツラ、お前に従っているし、それにお前とコイツラは普通に意思疎通できているじゃん」


 だからといって、わかるわけないでしょう。

 一応、私はその蕾について尋ねてみたんだけど、ちんぷんかんぷんの説明しか返ってこない。 

 しかし、説明するマンドラゴラもわかっているような、わかっていないような感じだった。なので私は悪くない。


 非難の色を込めた目で軽く英雄さんをジーっとチクチク刺した後、また蕾の子に向き直り、観察モードに戻る。


 ……見れば見るほど、興味深いわね。


 その子は相変わらずバランスを保ちつつ、体を揺らしながら歩いている。けど、最初見た時に感じた『歩きづらそうー』という感想は別のものに変わっていた。


 なんていうのかな……品があって、妙に色気があるというか。綺麗な踊り子の衣装を身に纏っている大人のお姉さんが舞いを見せているって感じ。……マンドラゴラに性別はないけどね。


 その綺麗な舞いに興味を惹かれて、何気なしに手を伸ばし、その子の蕾を人差し指でツンと触ったら――。


「――!?!?」


 突如、まるで雷にでも打たれたかのように、その子はビクビクと体を震わせて、声なき悲鳴を上げながら全身が波打っている。


「――ヘッ?」


 あまりに予想外の反応に、慌てて指を離す。


「うお? 何だッ!?」


 一緒に眺めていたグラシスさんも突然の変化に驚き、声を漏らす。


 その子は、よろめきながらもなんとかバランスを崩さないように何度か大きく体を揺らし、最後はギリギリのところで踏ん張りに成功し、倒れずに済んだ。

 そしてくるりと私に振り返り――


 なになに?……『蕾は敏感だから、できれば触らないでほしい』…………。

 ……敏…………感?……………………敏感?


 ……?

 …………??

 ……………………???


「何言ってる?」

「グラシスさん」

「うん?」

「私の今のステータス、混乱状態に陥っている」

「は?何わけわからんことを――」

「あまりに理解不能だから」


 蕾が敏感ってどういうことやねん! そんな植物事情知らんわ!!!


 体をくねらせながらも器用に両手を腰に当て、プクーと頬を膨らませて抗議する蕾の子。

 微笑ましい光景だけど、頭の中ははてなマークとツッコミでいっぱいだわ。


「……はあ、私疲れた。帰るわ」

「……お、おう。おつかれ」

「あ、そうそう。ジェシカ姉さんあっちで伸びてるから、回収もお願い」

「……おう」


 そう言って、歩き出す。





 途中、倒れているジェシカ姉さんの横を通り、目を向ける。

 彼女は――幸せそうに大の字になって寝ている。


「もうこれ以上入らない…むにゃむにゃ…でももっと食べる」


 案の定、渡したマンドラゴラは全部平らげられていた。

 彼女の限界まで膨れ上がったお腹に向かって、私は――。


「おめでとうございます。三ヶ月ですね。きっと元気な子ですよ」


 聖女らしく、祝福を捧げた。





 翌日、ワイバーンの再襲来に備え、村人と色々準備をする。

 が、何事もなく一週間が過ぎた。


 このまま何事もなければ――と思い始めていたとき――最悪な悪夢が襲来した。




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