小首をかしげながら見つめ返してくるその子は――
「……畑の被害状況は?」
グラシスさんが周辺を警戒しながら聞いてくる。
「見ての通りです。殆どありません」
「……俺にはたくさんの作物が砕け散ったようにしか見えねぇが……?」
「後で加護で元に戻せますからね」
音が止んだ後、ドームから出て被害状況を確認。直撃を避けた畑の周辺は落ちてきたワイバーンに埋め尽くされている。
「……うーん、数が合いませんね。何匹って言った?」
「二十前後だな」
倒れているワイバーンの数を数え、グラシスさんに尋ねる。
「ここに、どう数えても十七匹ですが」
「逃げたんだろ」
「……また襲ってくると思います?」
「簡単には狩れないってこと、向こうもわかったんだ。襲ってこないだろう……他に餌がある場合はな」
「魔獣も世知辛いですね――あ、息のあるヤツ、発見」
一匹、一匹見ていくと、まだ生きているワイバーンを見つけた。あの高さから落ちてきて、生きているとは、さすがAランク魔獣。……が、もう虫の息。
「ポーションは……あった」
「ん?……おい、何する気だぁッ!?」
バッグから自家製ポーションを取り出し、ワイバーンの口へ運ぼうとする私を見て、グラシスさんは慌てて呼び止める。
「ポーションを飲ませようと」
「ワイバーンに?」
「駄目ですか?」
「いや、駄目っていうか……ついさっき襲ってきた相手、なんで助けようと思った?」
「餌付けできないかなって」
別に助けようなんて思ってない。
いや、まあ成功したら最終的助けたことになるんだろうけど、私は必ず助けるという前提で動いていない。ここが最大の違い。
大体話が通じない、分かり合えるかどうかもわからない魔獣相手に最初から期待していない。
だから私は、自家製ポーションは魔獣にも効くのだろうかという好奇心で飲ませている。
獣人のウマとエマには効いたけど、それはあの子達が人間に近い亜人だから。
私のポーションは基本、神殿の書庫にある薬剤大全に書かれているレシピがベースとなっていて、それに独自にアレンジを加えたものだ。
あの頑固な石頭たちは、神殿の威光が保たれるように普通の薬草を使ったポーションでも色々と制限をつけていた。
普通にレシピ通りに作ると効果が弱いポーションが出来上がってしまう。
だって、癒やしの加護より使いやすいポーションが世の中に出回っていた日には商売上がったりだ。
餌付けは……できればいいなくらいの気持ち。
「餌付けって……無理だと思うがな」
「できたらラッキー程度のおまけですよ」
グラシスさんはポリポリと頭をかきながら、私のポーションがワイバーンの口の中に消えていくのを見守る。
やがて――ポーションを飲み干したワイバーンの傷は徐々に治り、みるみるうちに元気を取り戻し始める。
「下がってろ」
まだ十分に回復しきれていないワイバーンに剣を向け、私をかばうように前に出るグラシスさん。マンドラゴラたちも、万が一私が襲われた場合に備え待機している。
だが――傷が癒えたワイバーンは立ち上がると、逃げるように素早く飛び立っていく。
「……駄目ですね」
「魔獣だからな、なつかねぇだろ」
飛び立つ際にワイバーンが引き起こした風に吹かれて、乱れた髪が視界を遮る。その隙間から元気に羽ばたく恩知らずトカゲの姿が見える。
でも収穫はあった。ポーションが人間以外の生物にも作用すると知って、満足。
「……はぁ、もう。朝ごはんもまだなのに重労働。疲れたわ……」
大きく伸びをし、乱れた髪を手ぐしで整える。
マンドラゴラたちに砕けた作物の回収と後片付けを命じ、盆地に帰ろうと足を踏み出した――その瞬間。
「……――?」
視界に見慣れない何かが映り、思わず踏み出した足を止める。
そして一度まばたきをし、目を凝らす。
私の視線の先には――
「……?」
一匹の作業中マンドラゴラが私の視線に気づき、不思議そうに小首をかしげながら見つめ返してくる。
その子の頭には――やたらでかいピンク色の蕾があった。




