第8話 玉座裏に隠し床発見――神話級の片手剣を引いた
玉座の後ろ。
床の石が、ほんの数ミリだけズレていた。
普通の人間なら絶対に気づかない。
でも。
俺には、分かる。
「……この違和感」
見覚えがありすぎる。
十年間、嫌というほどやってきた。
ボス撃破後。
プレイヤーが「ふぅー」って安心したタイミング。
その裏に、こっそり仕込むご褒美宝箱。
開発者の悪い癖。
「……絶対ここ、何かあるだろ」
思わず笑ってしまう。
コメント欄。
『どうした?』
『壁に向かってブツブツ言ってて草』
『またなんか見つけるのか?』
『シンゴ、また職業病出てるぞw』
「いやー……この位置なぁ」
しゃがみ込む。
玉座の背面。
床の継ぎ目を指でなぞる。
カタ。
ほんのわずかに動く感触。
「ほら」
軽く押す。
カチッ。
乾いた音。
次の瞬間。
スーッ……。
床の一部が横にスライドした。
『え????』
『隠し床!?!?』
『初見で見つけるなwww』
『攻略wikiの中の人だろこのおっさん』
「いや、これ設計者あるあるなんだよ……」
自分でもちょっと懐かしい気持ちになる。
中には。
細長い石箱がひとつ。
やけに綺麗。
いかにも「レアです」って顔してる。
「……ベタだなぁ」
でも、こういうのが一番ワクワクする。
ゆっくり蓋を開ける。
中に入っていたのは――
一本の剣。
片手用の直剣だった。
やや短め。
装飾は少ない。
無骨でシンプル。
なのに。
刃だけが異様に美しい。
銀色の光沢。
ミスリルみたいに淡く輝いている。
「……おお」
自然と声が漏れた。
「これ、絶対強いやつだろ……」
ゲーム脳が断言してくる。
“隠し武器=最強枠”。
まず間違いない。
手に取る。
軽い。
びっくりするくらい軽い。
でも、芯がある。
振る。
ヒュン、と鋭い風切り音。
「うわ、なにこれ……」
素人の俺でも分かる。
めちゃくちゃ扱いやすい。
「金属バットより全然使いやすいな……」
視線が、リュックの横に差してある金属バットに向く。
今日一日、ずっと一緒に戦ってくれた相棒。
スライムも。
スケルトンも。
ドラゴンも。
全部これで殴った。
「……今までありがとな」
小さく呟いて、そっとリュックにしまう。
代わりに剣を腰のベルトに差す。
カチリ。
やけにしっくりくる。
まるで最初からここにあったみたいに。
(後に鑑定で判明するが――
これは『キングはぐれミスリルドラゴンの剣』 神話級の性能だった)
もちろん。
この時の俺はまだ知らない。
「……まあ、強そうだしヨシ」
いつものノリ。
コメント欄。
『剣きたああああ』
『シンプルなのが逆に強者感』
『絶対最強武器』
『この人ほんと持ってる』
『シンゴさん、さっきから引きが強すぎる』
「いやほんと偶然なんですよ」
毎回同じこと言ってる気がする。
同接:15万
「……は?」
二度見。
「増えすぎだろ!?」
さっき10万だったよな!?
コメントの流れ、もはや読めない。
『世界初討伐者』
『歴史的瞬間』
『ニュース来る』
『まとめ確定』
「ニュースはやめて怖い」
急に現実感が出てきてビビる。
「……と、とりあえず帰ろ」
これ以上イベント起きたら心臓持たん。
玉座を最後に振り返る。
「……テストプレイ終了っと」
軽く敬礼して、来た道を戻った。
帰り道。
魔物は一匹も出なかった。
ボス撃破後の安全タイム。
ほんとゲームみたいだ。
やがて。
ダンジョン入口。
外の光。
「……うわ、まぶし」
観光客の声。
車の音。
普通の日常。
数十分前までドラゴンと殴り合ってたのが嘘みたいだ。
スマホを見る。
同接:23万
「……」
フリーズ。
「……え?」
二十三万?
意味わからん。
通知が止まらない。
登録者数。
1 → 50 → 300 → 2,000 → 8,000 → 12,000 → 18,000
「バグ???」
増え方おかしい。
怖い。
とりあえず配信に向かって手を振る。
「えー……今日はこのへんで終わります……」
声が震える。
「来てくれてありがとうございました……」
ぺこり。
「次回も……良かったら見てください」
自分で言ってから思う。
また行く気か俺。
でも。
怖さより。
楽しさが勝ってる。
「じゃ、お疲れさまでしたー」
【配信終了】
画面が暗転。
静寂。
ベンチに座る。
SNSを見る。
トレンド。
【#浅草ダンジョン】
【#ドラゴン討伐配信】
【#謎のおじさん最強】
「謎のおじさんて……」
掲示板も大炎上。
『世界初討伐者現る』
『あの人何者?』
『元軍人?』
『プロ探索者?』
「ただの無職だよ……」
空を見上げる。
青い空。
平和。
そして、ぽつり。
本音が漏れた。
「……なんで???」
昨日まで、ただの契約社員。
今日、ドラゴン討伐。
登録者1万人超え。
世界初討伐者扱い。
意味が分からん。
「……まあ」
立ち上がる。
リュックを背負う。
「なんとかなるか」
楽天的に笑って。
俺は家路についた。
まだ知らない。
この配信が。
俺の人生を、とんでもない方向に転がし始めていることを。
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