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第9話 鑑定不能×2、魔石は億――人生リセットの夜が加速した

第9話 鑑定不能×2、魔石は億――人生リセットの夜が加速した


家に着いたのは、思ったより遅かった。


駅のホームも、コンビニの前も、交差点も――全部いつも通りなのに。

俺だけが、さっきまでドラゴンを金属バットで殴っていたせいで、世界が噛み合っていない感じがする。


「……ただいま」


誰もいない部屋に言って、靴を脱いだ。


リュックが重い。


中身は、メロンサイズの魔石と――リンゴサイズの魔石。

それに、よく分からない“ヤバそうな剣”。


玄関の鏡に映る自分が、ひどい。


髪はぐしゃぐしゃ。パーカーは埃っぽい。

でも胸のところだけ、妙に銀色に光ってる。


「……なんだよこれ。似合ってねぇ」


パーカーの上から、場違いな輝き。

俺の生活に“銀色の鎧”なんて要素、なかっただろ。


「……とりあえず外すか」


肩のあたりを探ると、カチャ、と小さな感触があった。

意外と簡単に外れる。


胸当てを両手で持ち上げる。


軽い。

相変わらず、金属とは思えない軽さだ。


「……軽装すぎて逆に怖いな」


床に置く。


コン、と澄んだ音がして、銀色が玄関灯を反射した。


その瞬間、ようやく息が抜けた。


「……ふぅ」


なんだか今日一日、ずっと力が入っていた気がする。


とりあえず、冷蔵庫から缶ビールを取って開ける。


プシュ。


「……あー……」


一口飲んだ瞬間。


――遅れて、現実が殴ってきた。


俺、今日。


キングミスリルドラゴン倒して、配信して、同接二十三万って言ってたよな?


「……いや、意味わかんねぇ」


スマホを開く。


通知が、画面いっぱいに詰まっていた。


切り抜き。まとめ。速報。トレンド。

知らないアカウントからのフォロー。DM。

「取材させてください」みたいな文章。


「うわ……」


一個開く。


俺が“キャラメルスコーーーン”って言いながらドラゴン殴ってる切り抜き。


「……やば。俺、こんなこと言ってた?」


恥ずかしさで、ソファに顔から沈む。


そのまま、コメント欄を見る。


『シンゴさん今日から推しです』

『シンゴ、明日も潜れ』

『シンゴのバット、伝説』

『無自覚最強すぎる』

『あの鎧なに?』


「……俺、推されてる……?」


いや、落ち着け。


落ち着け、シンゴ。


――そうだ。配信名。シンゴ。


画面の左上に出る配信者名を見るたび、まだちょっと照れる。

本名は気が引けた。考える余裕もなかった。

だから、とりあえずシンゴにした。


「……まあ、分かりやすいし」


自分に言い聞かせるみたいに呟いて、缶ビールをもう一口飲む。


で。


ふと、思い出した。


@にんとも。


そうだ。あの人が言ってた。


――ダンジョン協会のアプリで、簡易鑑定ができる。


「……鑑定」


俺はリュックを開けた。


銀色の胸当て。

剣。

そして魔石。


どれも、現実感がない。


「……よし。やってみるか」


スマホで「ダンジョン協会」アプリを開く。


ログイン。


本人確認。


利用規約。


同意、同意、同意。


「……長っ」


やっとホーム画面。


【簡易鑑定】のボタンがある。


「これだ」


まずは鎧から。


カメラを向ける。


ピントが合わない。


「ちょ、待って。スマホ……」


指でレンズを拭いて、もう一回。


――ピコン。


画面に表示された文字。


【鑑定不能】


「……え?」


もう一回。


【鑑定不能】


「……は?」


壊れてる?


アプリが?


いや、でも協会の公式だよな?


「えー……一回閉じよ」


アプリを終了。


再起動。


ログインし直す。


もう一回鎧を映す。


【鑑定不能】


「……ええ?」


なんか嫌な汗が出てきた。


次、剣。


机の上に置いて、カメラを向ける。


――ピコン。


【鑑定不能】


「……あれれ?」


鎧も剣も、鑑定不能。


なんで。


「え、え、壊れてんのかな……? 俺のスマホ……?」


スマホを軽く振る。


叩く。


良くないことは分かってるけど、やっちゃう。


「……えー……」


喉が乾いた。


缶ビールを飲む。


ぷは。


「……ま、まあ。まだ結論出すの早いよな」


そうだ。


魔石なら。


魔石は、みんな鑑定してる。


なら、まず魔石でアプリが正常か確認すればいい。


「……リンゴサイズのやつ」


俺は拳大の魔石を取り出した。


青く透き通っている。


光がゆらゆら揺れて――なんか、綺麗。


カメラを向ける。


――ピコン。


画面に文字が出た。


【魔石】

【純度:98%以上】

【推定重量:225g】

【予想価格:12,500,000円】


「……」


一秒、固まった。


「……1250万円?」


声が裏返った。


「え? え? え?」


もう一回読む。


【12,500,000円】


「……1250万円……」


笑いが出た。


怖すぎて。


「……え、俺の月給の何年分?」


いや、待て。そんな計算したら心が折れる。


「……ま、まあ……ラッキー……?」


いやラッキーの範囲超えてる。


心臓が速い。


じゃあ。


じゃあ、だ。


「……メロンサイズのほうは……?」


俺はリュックの奥から、もう一つの魔石を取り出した。


メロンサイズ。


重い。


ずしり、と手が沈む。


こんなの、街中で落としたら普通に事故だ。


机の上に置いて、カメラを向ける。


――ピコン。


【魔石】

【純度:98%以上】

【推定重量:2300g】

【予想価格:153,500,000円】


「……」


脳が、理解を拒否した。


「……1億……?」


指でゼロを数える。


一、十、百、千、万……。


「……1億、5350万円……?」


口が乾く。


喉が鳴る。


「……え、億……?」


今さら、手が震えてきた。


ゲームなら、“所持金上限突破”とか出るやつだ。


でも現実だ。


現実の、俺の部屋の机の上に、億が乗ってる。


「……やば……」


俺はソファに座り直して、頭を抱えた。


いや、落ち着け。


落ち着け、シンゴ。


「……よし。整理しよう」


独り言が、やけに真面目になる。


鎧と剣は鑑定不能


魔石は鑑定できて、リンゴが1250万円


メロンが1億5350万円


「……つまり」


俺は、今日――


初配信で、億、拾った。


「……明日」


口に出すと、少し落ち着いた。


「……明日、換金しに行こう」


このまま家に置いとくの、怖い。


いや、持ち歩くのも怖い。


でも、何もしないのが一番怖い。


ベッドに倒れた。


目を閉じても、眠気が来ない。


脳内に、数字が浮かぶ。


12,500,000。


153,500,000。


そして、鑑定不能。


「……無理だ、寝れない」


寝返り。


もう一回寝返り。


スマホが、ぴこん。


通知。


【登録者が増えました】

【フォローされました】

【切り抜きが投稿されました】


「……まだ増えてるのかよ……」


俺は笑ってしまう。


怖いのに、ワクワクしてる。


明日、億が現実になるかもしれない。

それに、鑑定不能の鎧と剣――あれが何なのかも。


胸がざわついて、目が冴える。


天井を見つめたまま、小さく呟いた。


「……明日、どうなるんだよ」

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