表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/82

第76話 侵食領域突入――配信の向こう側は、もうダンジョンじゃない

伊勢ダンジョンに着いたのは、夜だった。


――だが、いつもとは様子が違う。


入口一帯は規制線と照明、簡易バリケードで完全に封鎖され、その外側には野次馬や報道関係者が押し寄せていた。

スマホを掲げる一般人、カメラを構える記者たちがざわめき、入口はちょっとした騒ぎになっている。


「何が起きてるんですか!?」「配信の件ですよね!?」「中はどうなってるんですか!」


飛び交う声を、ダンジョン協会の隊員たちが必死に抑えていた。


「立ち入り禁止です! 関係者以外――」


制止の声が飛ぶ。

だが、その直後、別の隊員がこちらを見て表情を変えた。


「……ああ、シンゴさんですね。津詰さんから連絡を受けています。通してください、とのことです」


「いいんですか?」


「はい。優先案件扱いです」


バリケードが開けられる。

俺は軽く頭を下げて中へ入った。


配信を見たあと、すぐに津詰さんへ連絡を入れていた。


――相変わらず、仕事が早い人だ。



街灯の光に照らされた入口は、一見するといつものダンジョンと変わらない。

だが一歩近づいた瞬間、違和感がはっきりと形になった。


「……なんだ、これ」


石壁が黒く濡れている。

ただの汚れではない。

光を吸い込むような、鈍く重たい黒が、じわじわと広がっていた。


ノエルが眉をひそめる。


「これ……気持ち悪いわね」


クロエはしゃがみ込み、その辺に落ちていた小石を拾い上げた。


「試すね」


「触るな――」


止める間もなく、クロエは石を黒い部分へ軽く当てた。


じゅ、と嫌な音がする。

石がゆっくりと溶け、黒に侵されながら崩れていく。


クロエはすぐに手を離した。


「……あっぶな。触れたらアウトだわ、これ」


「完全にアウトだな」


フィーネが一歩前に出る。


「……入りましょう……」


その声は小さいが、迷いはなかった。

俺は頷く。


「行くぞ」



中に入った瞬間、空気が変わった。


重い。湿気でも熱でもない、圧のようなものが空間を満たしている。

息を吸うと、胸の奥がわずかに詰まる。


「……音、変じゃない?」


クロエの言葉に足を動かす。だが足音は短く、響かない。反響が消えている。


「……ダンジョンの“反響”が消えてます……」


フィーネが低く言った、その直後だった。


奥の通路で何かが動く。


「来るぞ!」


影がこちらへ走り出した。



スケルトン――に見えたが、違う。


骨の隙間に黒が詰まり、関節は異様に多く、腕が不自然に長い。


「気持ち悪っ!」


クロエがロッドを振る。


「《黒炎焼却・ダークフレア》!」


炎が直撃し、スケルトンは砕け散る。


――はずだった。


床に散った骨が、ぬるりと動いた。

黒がそれを引き寄せ、瞬きの間に再構築する。


「っ、戻る!?」


「普通じゃない!」


ノエルが即座に詠唱する。


「《浄霊聖波・ターンアンデッド》!」


白い光が貫いた瞬間、黒が蒸発するように消え、今度こそ完全に崩れた。


「……浄化でしか止まらない……」


「……核がありません……構造ごと変わっています……」


フィーネの言葉に、全員が無言で理解する。


「先を急ぐぞ」



進むほどに異様さは増していった。


壁は黒く侵食され、床はところどころ柔らかく沈む。天井からは黒い筋が垂れ、ゆっくりと脈打っている。


「……これ、ダンジョンじゃない」


クロエの呟きに、誰も否定しなかった。


その時、フィーネが足を止める。


「……ここ」


床に落ちていた矢。

折れ、黒く変色している。

さらに進むと、かんともの盾の欠片が壁にめり込んでいた。


「……間違いない」


「まだ先にいる」


俺は短く言う。


「急ぐぞ」



通路は次第に狭くなり、空気はさらに重くなる。


足元には走った跡。

何度も振り返った痕跡。


――追われていた。


その途中で、配信カメラを見つけた。


「電源……」


スイッチを押すと、ノイズ混じりに起動する。


「再生するぞ」



にんともたちが走っている。


「やばいってこれ!」


「こっち! 扉!」


後ろから黒が這い、モンスターが飲まれて消えていく。


「閉じ込められる! 急いで!」


映像が激しくブレる。カメラが落ち、視点が横倒しになる。


扉に飛び込むにんともたちの姿。


「ここで止める――」


黒が画面を覆う。


まるで、こちらを見つけたみたいに。


「やばい――」


プツン。



「……ここで落としたんだな」


「つまり、この先の扉の向こう」


俺は頷く。


「ボス部屋から逃げて、ここまでたどり着いている」



そして――その扉の前に辿り着く。


重い石扉は閉ざされ、その表面は黒く侵食されていた。

内側から滲むように、じわじわと広がっている。


空気が違う。濃く、重い。


「……中にいます」


フィーネが言う。


俺は扉に手を伸ばす。

冷たい石の向こうに、確実に何かがいる。


仲間か。


それとも――もう別の何かか。


「行くぞ」


扉に手をかけ、押し込む。


――その向こう側で、


何かが、こちらを“待っている”。

【フォローで更新通知が届きます】

★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ