第67話 黒蔦拘束の大殲滅――その奥で脈打つ巨大装置
勝ち筋は、もうできていた。
俺は床を蹴った。
《黒蔦拘束・ダークヴァインスネア》に縫い止められた赤眼の機巧ゴーレムたちが、一斉にこちらを見ている。
赤い眼は動く。
だが、体は出られない。
動けないうちに首を落とす。
一体目へ踏み込む。
剣を横薙ぎに振る。
ゴウン、と重い手応え。
岩と金属の境目に刃が食い込み、そのまま押し切る。
ガタン!
頭部が床に落ちた。
赤い眼の光が消える。
コメント欄が弾けた。
『いったあああ!』
『首落とした!』
『早い早い早い!』
二体目。
三体目。
俺は止まらない。
拘束されたままのゴーレムの間を駆け抜け、首、首、また首。
切断面から火花が散り、金属音がホールいっぱいに響く。
ガラン!
ズゥン……。
頭が落ちるたび、巨体が順に崩れていく。
「いける!」
俺が叫ぶと、クロエが楽しそうに笑った。
「でしょ、お兄ちゃん♪」
フィーネも息を詰めながら魔力を流し込んでいる。
「……まだ……持ちます……!」
だが、楽な戦いじゃなかった。
四体目の首を落とした、その時だ。
ギギギギ……!
拘束されたゴーレムの一体が、金属肢を無理やり持ち上げようとした。
黒い蔦が石床へ押しつける。
だが、赤い眼の光が強くなる。
「シンゴさん! 右三体、押してきてる!」
ノエルの声が飛ぶ。
見ると、右側の列がじりじり前へ出ようとしていた。
下半身は沈んでいる。
だが、胴体ごと前へ倒れ込むように拘束を破ろうとしている。
「……任せてください……っ!」
黒い蔦が太くなる。
石の継ぎ目がひび割れ、土の力が根のように伸びていく。
クロエもすぐにロッドを振った。
「逃がさないよっ♪」
腕を締める。
腰を絞る。
押し返そうとした巨体が、今度は逆に床へ引きずり込まれた。
だが、完全じゃない。
ピーッ――
「っ!」
一体の口元に白い光が集まる。
次の瞬間、白光砲が撃ち出された。
ドォン!
間一髪かわす。
余波が俺の頬をかすめた。
熱い。
だが、浅い。
俺はそのまま、撃った個体の懐へ飛び込んだ。
首を狙う。
だが、金属肢がまだ一本だけ生きていた。
鞭みたいにしなって、刃を逸らしに来る。
ガキン!
「ちっ……!」
「お兄ちゃん、上!」
クロエの声。
俺は反射的に身を沈めた。
頭の上を、別の白光砲が横切る。
後ろの壁が吹き飛び、石片が降った。
コメント欄がさらに荒れる。
『あぶねええええ』
『レーザーきた!』
『まだ撃ってくるのかよ!』
『フィーネとクロエ耐えろー!』
「……っ、まだ、締まります……!」
フィーネの声は細い。
だが、折れていない。
黒い蔦が、もう一度ぎりぎりと締まる。
金属肢が途中で止まり、わずかに開いた隙が生まれた。
そこへ、俺は剣を差し込んだ。
ザシュッ!
首が半分まで切れる。
もう一撃。
ガタン!
頭部が床に落ちる。
「あと六!」
「数えてたの!?」
「数えないと不安だろ!」
そのまま五体目、六体目。
途中で一度、《キングはぐれミスリルドラゴンの剣》を投げた。
拘束を破りかけた個体の首元へ、一直線に。
首が大きく裂け、剣は後方へ抜ける。
戻ってきた剣を掴み直し、そのまま別個体へ踏み込む。
落とす。
また落とす。
床に転がる頭部が増えていく。
赤い眼の光が、ひとつ、またひとつと消えていく。
だが、八体目で山が来た。
三体が同時に押し返してきたのだ。
下半身を拘束されながら、上半身を無理やり前へ折る。
金属肢が軋み、黒い蔦が張り詰める。
「クロエ!」
「分かってる!」
クロエが歯を見せて笑った。
楽しそうなのに、目だけ真剣だ。
「フィーネ、上から巻くよ!」
「……はい……!」
闇が走る。
土がせり上がる。
今度は足元からじゃない。
背中側へ回り込むように、黒い腕がゴーレムの胴へ巻きついていく。
肩を押さえる。
首を引く。
さらに金属肢の根元を束ねる。
「締める!」
「……落ちて……!」
二人の声が重なった瞬間、三体の巨体が前のめりのまま石床へ叩きつけられた。
ズドン!
ズドン!
ズドン!
「今だよ、お兄ちゃん♪」
「任せろ!」
俺は一気に加速する。
一体目。
首を断つ。
二体目。
首を飛ばす。
三体目――こいつだけ、首を落としかけてもなお赤い眼が消えなかった。
半ば切れた頭をぶら下げたまま、白光砲を溜めようとする。
「……まだ動くのか!」
俺は踏み込みを変えた。
刃を返し、胸板の中央へ突き立てる。
硬い。
だが、貫ける。
バキィン!
内部の赤い核が砕けた。
その瞬間、赤い眼がようやく消える。
静かになった。
俺はその場で息を吐いた。
コメント欄が一気に流れる。
『勝ったああああ!』
『殲滅した!』
『クロエとフィーネやばすぎる』
『シンゴ無双じゃん』
『新パーティつっよ』
「……はぁ……」
「終わった?」
ノエルが結界を解きながら、ようやく肩の力を抜く。
「終わったみたいだな」
クロエはロッドを肩に担いで、にひひと笑う。
「どうどう? 今のめっちゃよくなかった?」
フィーネはまだ息を整えながら、小さく頷いた。
「……うまく、いきました……」
「ああ。かなり良かった。助かったよ」
俺はついフィーネの頭をポンポンとしていた。
顔を赤くするフィーネ。
「お兄ちゃん!クロエも!」
「あ・・・ああ」
クロエの頭をポンポンすると、にひーと笑ってご満悦だ。
「わたしは?」
とノエルが聞いてきた。
「お、お前もか!?」
「もちろんよ!報酬はきちんと山分けよ!」
報酬なのか。。。と思いながら、ノエルの頭をポンポンする。
「ふふん!たまには良いわね!」
ノエルが謎の自信をみせた。
周囲を見渡すと、拳大の魔石がドロップしていた。
全部で五個。
「けっこう落としたな」
「強かったしねー♪」
俺は魔石をリュックへしまい、それから改めて部屋の奥を見た。
広い。
やっぱり体育館みたいなサイズだ。
壁は岩造り。
だが、自然にできた空間というより、削って作った人工の空洞に近い。
そして、天井だ。
何本ものパイプが、まるで根みたいに奥へ伸びている。
細いもの。
太いもの。
途中で束ねられた主管。
その全部が、一点へ集まっていた。
部屋の奥。
そこには巨大な装置があった。
最初は、暗くて輪郭しか見えなかった。
だが、近づくほど嫌な感じが強くなる。
円筒と球体を組み合わせたみたいな金属の塊。
何本ものパイプが突き刺さり、そこへ温泉水と蒸気と熱を送り込んでいる。
ごぼ……。
ごぼぼ……。
内側で液体が動く音がした。
低く、脈打つような駆動音も混じる。
ノエルが眉を寄せた。
「嫌な感じしかしないんだけど」
俺も同感だった。
これは、ただの給湯設備じゃない。
温泉水を集めて、熱を循環させて、それで何かを動かしている。
そして、こいつは――
まだ、止まっていない。
このダンジョン、攻略する場所じゃない
“止める場所”だ
【応援いただけると嬉しいです】
面白いと思っていただけたら、
★を押していただけると励みになります!
ひとつでも、本当に嬉しいです!




