第66話 赤眼の機巧ゴーレム軍団――フィーネとクロエの合技が炸裂
温泉の部屋を抜けて、さらに先へ進む。
通路は相変わらず石造りだったが、ここまで来ると空気が少し変わっていた。
硫黄の匂いは濃い。
湿気もある。
でも、それだけじゃない。
天井の角――壁と天井の境目に、金属のパイプが走っている通路が増えてきたのだ。
一本だけじゃない。
細いもの、太いもの、途中で分岐しているもの。
まるで建物の配管を、そのままダンジョンに通したみたいだった。
「……人工物っぽさが、さらに強くなってきたな」
俺は立ち止まり、頭上のパイプへ手を伸ばした。
金属は少し熱を持っている。
さらに、触れた瞬間、指先にかすかな震えが伝わった。
ぶぅん、というほど大きくはない。
もっと微細な、絶えず奥から何かが送り込まれているような振動だ。
「動いてる……?」
クロエが首を傾げる。
「ああ。たぶん温泉水か、熱の流れだな。ここに湯を巡回させてる」
パイプの継ぎ目に耳を寄せると、ほんのかすかに水音まで聞こえた。
ざ、ざ……。
ごぼ……。
水路を隠して、上に通した。
そんな構造だ。
ノエルが嫌そうに眉をひそめる。
「ほんとに施設みたいね。ダンジョンっていうより、地下工場じゃない」
「……温泉のための設備、みたいです……」
フィーネも静かに見上げている。
俺はパイプをもう一度軽く叩いた。
コン。
中は空洞。
そして流れている。
「迷うより早いな。これ、パイプに沿って進めばいい」
「中心に向かってる感じ?」
クロエが楽しそうに言う。
「たぶんな。少なくとも、何もない場所にこんな配管は集まらない」
そこから先は、むしろ分かりやすかった。
分かれ道はいくつかあった。
だが、基本は左へ進む。
行き止まりなら戻る。
次は右。
その繰り返しで進んでいくと、パイプの本数がどんどん増えてきた。
一本が二本。
二本が四本。
途中で太い主管らしきものまで現れる。
頭上を見れば、もはや通路よりパイプの方が目立つくらいだ。
コメント欄もざわついていた。
『配管だらけになってきた』
『これは当たりルートっぽい』
『工場ダンジョンじゃん』
「だいぶ“中心”っぽくなってきたな」
俺がそう言うと、ノエルが肩をすくめた。
「中心だとしても、あんまり嬉しくない雰囲気なんだけど」
「クロエはこの雰囲気好きっ♪」
クロエはむしろ機嫌が良さそうだ。
しばらく進んだところで、通路の先が急に開けた。
そこにあったのは、明らかに今までとは格の違う扉だった。
両開き。
しかも非常に大きい。
高さも幅も、人一人が通るための扉じゃない。
何か大きなものを出し入れするために作られたみたいな、重厚な石と金属の扉。
その両脇の壁からは、何本ものパイプが伸びて扉の奥へ繋がっていた。
「……ここだな」
自然と声が低くなる。
「ここがボス部屋の可能性がある」
俺は一度みんなを振り返った。
「入って敵がいたら、ノエルはすぐ結界を張ってくれ」
「オッケー!」
さっきまでより、ノエルの声も真面目だ。
「俺は前に出る。フィーネとクロエは支援の準備を頼む」
「はーい♪」
「……はい」
「小型大群がいたら、クロエの《ファイヤーストーム》で焼き払ってほしい」
「まかせてっ♪」
クロエがロッドをくるくる回して笑う。
「フィーネ。強敵がいたら、爆発矢を使う可能性もある。いつでも使えるようにしておいてくれ」
「……わかりました」
フィーネは小さく頷き、背中の弓へ手を添えた。
俺は深呼吸する。
パイプ。
大扉。
明らかな中心部。
ここまで来て、何もないはずがない。
◆
「それでは、開けるぞ」
俺は扉に手をかけた。
重い。
だが、押し切れないほどじゃない。
石と金属が擦れる音を立てて、両扉がゆっくり開いていく。
その瞬間。
ぞわり、と背筋が粟立った。
中は、薄暗い体育館みたいなサイズの部屋だった。
天井が高い。
柱は少ない。
広い空間の奥まで、暗闇が沈んでいる。
だが、その暗闇の中で――
ぽつり。
赤い光が灯った。
ひとつ。
またひとつ。
さらにひとつ。
間を置かず、連続して赤い光源が点いていく。
まるで、暗闇の中に眠っていた目が、次々にこちらを見たみたいだった。
ぞわっ、と嫌な鳥肌が立つ。
『うわっ』
『なにこれこわ』
『目だろこれ……』
『何体いるんだよ』
やがて、全体の輪郭が浮かび上がった。
岩の体。
手足はタコのような軟体じみた金属肢。
頭部も金属。
中央に丸いガラス製の眼が怪しく光っている。
さっき一体でも苦労した、あの白い光を放つ相手。
《赤眼の機巧ゴーレム》だ。
それが一体じゃない。
十体。
いや、それ以上いる。
ずらり、と。
部屋の奥で待ち構えるみたいに、赤い眼が並んでいた。
「……っ、まじかよ」
思わず声が漏れる。
一体でも厄介だった相手だ。
それが十体以上。
普通に考えれば、正面からやる数じゃない。
ノエルが即座に反応した。
「《多層聖界・プリズムウォール》!」
白い紋様が床へ走る。
次の瞬間、幾重もの光の壁が俺たちの前に立ち上がった。
頼もしい。
だが、この数では結界も破られる可能性がある。
できるだけ敵を引きつけて、一体ずつ。
レーザーをかわして、フィーネと連携して、各個撃破するしかないか。
そう思った、その時だった。
◆
クロエがロッドをくるりと回した。
「フィーネ♪ いける?」
「……はい……合わせます……」
次の瞬間、クロエの影が床を走った。
「派手にいくよっ♪ 《闇縛域》!」
黒い闇が、水面みたいに広がって部屋を埋めていく。
敵の足元をなめるように這い、輪郭を呑み込み、動きを鈍らせた。
そこへ、フィーネが静かに手をかざす。
「……《スネア》……」
土の精霊力が、石床の継ぎ目へ染み込む。
一拍遅れて、闇の中から黒い蔦が芽吹いた。
いや、土だ。
土の拘束だ。
なのに、クロエの闇をまとったそれは、生き物みたいにうねる黒い蔦の群れに見えた。
一本。
二本。
三本。
地を裂くように伸びた黒い蔦が、敵の足首へ絡みつく。
膝を締める。
さらに腰まで巻き上がり、暴れるたびにぎりぎりと食い込んだ。
「いい感じっ♪」
クロエが楽しそうに笑いながら魔力を込める。
フィーネも頬を赤くしながらも、魔力を緩めない。
「……まだです……もっと、締めます……」
闇の蔦がさらに伸びた。
今度は下半身だけじゃない。
蔦のような闇と土が、ぐるりと上半身へ這い上がり、機巧ゴーレムたちの腕部分――金属肢へ巻きついていく。
一本、また一本。
しなる腕が途中で止まる。
持ち上がりかけた肢が、途中で引き戻される。
敵は金属肢を振りほどこうとするが、そのたびに黒い蔦が締まり、石床へ押しつけた。
柔らかく絡みつくだけの拘束じゃない。
影のしなやかさと、土の重さと硬さが重なって、敵をその場へ縫い止めていた。
「……《黒蔦拘束・ダークヴァインスネア》……!」
二人の魔力が噛み合った瞬間、黒い蔦が一斉に締まる。
機巧ゴーレムたちの下半身が沈む。
上半身が引かれる。
さらに鞭みたいな金属肢までまとめて押さえ込まれ、何体もの巨体がその場で軋んだ。
ガギギッ。
ゴギンッ。
金属が嫌な音を立てる。
前へ出ようとしても出られない。
腕を振り上げようとしても途中で止まる。
踏ん張っても、下半身と上半身の両方を拘束されているせいで、まともに体勢を作れない。
完全に止まった。
「す、すごい! こんな技が!」
ノエルが思わず声を上げる。
『うおおおお!?』
『全部止まった!!』
『拘束つっよ!?』
『クロエ×フィーネ連携やばい』
『黒蔦拘束かっこよすぎるだろ』
『これもう必殺技じゃん!』
「シンゴさん!」
フィーネが声を上げた。
「今だよ、お兄ちゃん♪」
俺はその声と同時に踏み込んだ。
勝ち筋は、もうできていた。
【フォローで更新通知が届きます】
★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!




