第6話 魔石が高すぎて震える――初日で億の匂いがして同接が跳ねた
階段を降りながら、さっき拾った石をもう一度取り出した。
手のひらサイズどころじゃない。
ほぼリンゴ。
ずしり、と重い。
「……これが魔石かぁ」
ニュースやネット記事では何度も見た。
けど、実物は初めてだ。
思ったより綺麗だな、これ。
青く透き通っていて、中で光がゆらゆら揺れている。
なんというか。
高級なガラス玉みたいだ。
「こんなのがエネルギーになるって、未だに意味わかんないよな……」
しげしげと眺めながら歩く。
完全に観光客。
スマホの画面が、ぴこん、と鳴った。
画面上部に通知が出る。
【@にんとも:切り抜き投稿しました!】
【タイトル:『初心者配信、初日に“伝説のキングはぐれミスリルスライム”討伐』】
【URL:********】
「……にんともさんだ」
思わず口元がゆるんだ。
「切り抜き、ほんとに作ってくれたんだ……ありがたいな」
さっきまで同接0。
それが1になっただけで、救われた気分になった。
その1が、今――こうして誰かに繋がっていく。
なんか、すごい。
コメントが高速で流れている。
『それやばいぞ』
『サイズおかしい』
『ちょっと待ってその大きさ』
『初心者が持ってていいやつじゃない』
『リンゴサイズ初めて見た』
『純度えぐい』
「……早っ」
思わず声が漏れた。
投稿して、何分だよ。
ネットこわ。
「え?」
同時視聴者数を見る。
312 → 489 → 652
「え、増えすぎじゃない?」
数秒で三桁増えてるんだけど。
『切り抜き回ってきた』
『キングスライム討伐マジ?』
『伝説遭遇ってこの人?』
『シンゴって人?この配信者名』
『あ、左上シンゴだ。本人だこれ』
『さっきの歌いながらワンパンの人?』
「あ、これ……切り抜きから来てるのか」
通知をもう一回見て、乾いた笑いが出た。
「いや、ほんとネットって怖いな……」
『その魔石、協会買取で1000万以上いくぞ』
『いやもっと』
『純度次第で億』
『億は言い過ぎ』
『でも数千万は固い』
「……え?」
思わず足が止まる。
「い、いま何て?」
億。
いま、億って言った?
無職が聞いちゃいけない単語が、さらっと流れていったんだけど。
手の中の石を見る。
これが?
「……いやいやいや」
笑ってしまう。
「そんなわけないでしょ。さっきの骨が落としただけだし」
『それがノーライフキングなんだって』
『中層ボスだぞ』
『初心者エリアにいない』
『なんで戦ってんだこの人』
「え、ボスだったの?」
今さら知る。
「ただの骨だと思ってた……」
『怖すぎるこのおっさん』
『無自覚最強かよ』
『シンゴ天然すぎ』
『好き』
好きって何。
なんかよく分からんが好意的っぽい。
「まあ……高く売れるならラッキーだな」
率直な感想がそれだった。
無職だし。
生活費は多いほうが助かる。
「とりあえず生きて帰れたら、換金してみるか」
現実的すぎる発言に、
『メンタル強すぎwww』
『そこ!?www』
『普通パニックなるだろ』
『シンゴさん落ち着きすぎ』
笑われてる。
なんでだ。
俺、そんな変なこと言ってるか?
階段を降り切る。
空気が変わった。
ひんやりしていた空気が、さらに重くなる。
湿度が高い。
息が少し白い気がする。
「……あれ?」
ヘッドライトの光が、やけに遠くまで吸い込まれていく。
広い。
さっきまでの通路とは明らかに違う。
天井が高い。
足音が反響する。
コツ……コツ……。
「……ボス部屋前、みたいな構造だな」
ぽろっと呟く。
職業病。
RPGの設計やってた人間あるある。
・急に広くなる
・無駄に静か
・不自然な広場
=だいたいボス。
コメント欄が一気に騒がしくなる。
『やめとけ』
『そこ絶対ボス』
『引き返せwww』
『初心者が行く場所じゃない』
『浅草にそんなエリアないぞ』
『未発見ルートだろそれ』
『シンゴ、回れ右!』
「え、そんなやばい?」
今さら怖くなってきた。
でも。
ここまで来て、引き返すのもなぁ。
「……まあ、テストプレイだし」
軽く笑う。
「ダメそうなら逃げればいいか」
『フラグ立てるなwww』
『この人マジで肝座ってる』
『シンゴの“まあいけるか”が一番怖い』
『好き』
だから好きって何。
視聴者数を見る。
1,234
「……え?」
桁が増えてる。
「ちょ、ちょっと待って!? 1000人超えてる!?」
心臓が変な意味でドキドキしてきた。
さっきまで0人だったのに。
いきなりライブ会場みたいになってる。
「え、えー……あの、来てくれてありがとうございます……?」
なんで俺がお礼言ってるんだ。
なんか恥ずかしい。
コメント欄はもう読めない速度で流れている。
「あー……コメ欄死んだなこれ」
ぽつり。
自分で言ってちょっと笑った。
と。
その時。
前方。
巨大な石の扉が、ゆっくりと視界に入ってきた。
高さ、三メートル以上。
両開き。
中央に、ドラゴンのレリーフ。
「……」
嫌な予感しかしない。
「……これ」
無意識に呟く。
「100%ボス部屋だろ」
コメント欄。
『wwwww』
『正解』
『ラスボス感』
『ついに来た』
『配信神回の予感』
『シンゴ、扉の前で一旦落ち着けw』
俺は扉の前に立ち。
深呼吸した。
金属バットを握り直す。
胸当てを軽く叩く。
コン、と澄んだ音。
「……テストプレイ第2ステージ、ってことで」
自分に言い聞かせるみたいに呟いて。
俺は、ゆっくりと扉に手をかけた。
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