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第59話 未公開ダンジョン発見――新メンバーで草津へ向かう

次の日。


みんなを連れて、ダンジョン協会へ来ていた。


目的は、クロエの保護申請だ。


「えー、またここー?」


赤坂の協会本部ビルを見上げながら、クロエがあからさまに口を尖らせる。


「昨日も言ったけど、必要な手続きだからな」


「むー。分かってるよー? 分かってるけど、ここって真面目な空気が強すぎるのよねーっ」


「クロエさんは、真面目な空気が苦手なんですね……」


「うん、超苦手ーっ」


そんなことを言いながらも、クロエはちゃんとついてくる。

本気で嫌がってるというより、文句を言うまでがセットなんだろう。


自動扉を抜けて中へ入ると、やっぱり空気がざわついた。


「……天使と……エルフ……」

「え、ダークエルフまで増えてない?」

「また新しい子いる……」


天使とエルフを連れたパーティ、というだけでも十分目立っていた。

そこへダークエルフまで加わったんだから、そりゃざわつく。


クロエはそんな視線を受けても、嫌がるどころか少し楽しそうだった。


「へー。やっぱりクロエ、目立っちゃうかー♪」


「当たり前じゃない」


ノエルが、待ってましたと言わんばかりに胸を張る。


「この天才天使に、エルフに、ダークエルフよ? 華がありすぎるのよ。ふふん」


「そこ、自分を先頭に数えるのね」


「当然でしょ?」


クロエも、にこにこしながら頷く。


「でもたしかに、ノエルの目立ち方は派手だよねー♪」


「でしょう?」


調子に乗るのが早い。


俺は深いため息を飲み込みながら、受付へ向かって番号札を取った。


【25番】


「二十五番ねっ」


クロエが番号札を覗き込んで、楽しそうに読み上げる。


「二十五番かー。いい数字じゃん♪」


「そういう感覚あるのか?」


「なんとなく♪」


待合の椅子に座ると、クロエはきょろきょろと辺りを見回し、フィーネは少し背筋を伸ばし、ノエルは完全に“慣れた場所”みたいな顔をしていた。


その並びを見て、俺は小さく息を吐く。


天使、エルフ、ダークエルフ。


改めて並ぶと、俺の人生、だいぶ変わったなと思う。



「25番の方」


呼ばれて、俺たちは個室へ案内された。


担当の女性と目が合う。


……ノエルの時。

フィーネの時。

そして今回も、同じ人だった。


向こうも一瞬だけ「あっ」という顔をしたが、すぐに営業用の落ち着いた顔に戻る。


「また、異世界人の保護申請でお間違いないでしょうか」


「はい……すいません。お願いします」


少し恐縮してしまう。


ノエルがすぐ横で、ぼそっと言った。


「もう常連みたいになってるじゃない」


「やめてくれ。自覚はある」


担当者は手元の端末を確認しながら、淡々と話を進めた。


状況確認。

保護対象の身元。

現在の状態。


「クロエさん。協会保護施設から脱走していましたね。どうしてですか?」


クロエは悪びれもせず、にこっと笑う。


「だって退屈なんだもん♪」


担当者の指が、ぴたりと止まった。


「退屈、ですか」


「そー。毎日毎日、体調はどうだの、気分はどうだの、確認ばっかりでメンドくさくってーっ」


「ですが、この世界は異世界人の方にとって危険もあります。異世界人というだけで注目を集めますし、トラブルに巻き込まれる可能性も――」


「それで、このシンゴお兄ちゃんに保護してもらうことにしたのっ♪」


「お、お兄ちゃん!?」


担当者さんの目が一瞬だけ丸くなった。


俺は思わず視線を逸らした。


ノエルは肩を震わせている。笑うな。


担当者はすぐに咳払いして立て直す。


「……コホン。クロエさん。こちらの方に保護されることは、ご本人の意思でお間違いありませんか」


「はーい♪ 間違いないですー♪」


元気だけはいい。


そのあともいくつか質問が続いた。


脱走後の行動。

現在の所持品と生活状況。


クロエは最初こそ楽しそうに答えていたが、質問が続くにつれて少し落ち着きがなくなり、椅子の端で足先をぶらぶらさせ始めた。

それでも、聞かれたことにはきちんと答えている。


変なところで、案外きちんとしている。


ひと通り終わったあと、クロエは別室へ通された。


立ち上がる時も、クロエは特に緊張した様子もなく、くるりとこちらを振り向いた。


「じゃ、ちょっと行ってくるねー♪」


「真面目にな」


「努力はするーっ」


努力はする、か。

しないとは言わないあたりが絶妙だ。


十分ほど経っただろうか。


扉が開いて、クロエが戻ってきた。


少し小走りで、顔はにーっと、にんまりしている。


「早かったな」


「余裕だったー♪」


「余裕って言うな」


担当者が端末を叩きながら言った。


「では、問題ないようですので、クロエさんの保護登録を行います」


「やったー!」


クロエが素直に声を上げた。


「これで正式にお兄ちゃんのとこにいられるんだよね?」


「はい。必要な登録はこれで完了です」


「よかったー♪」


本当にほっとしたみたいな顔で笑う。


俺は小さく言った。


「……よろしくな」


するとクロエは、いきなり俺にぎゅっと抱きついてきた。


「こちらこそっ! よろしくねっ♪」


「あっ、ちょっ……!」


当たっている。

当たっている。

柔らかい。

いやいや。


フィーネがむっとした。


次の瞬間、俺の右手をぎゅっと握ってくる。


「……!」


視線を向けると、フィーネは真っ赤な顔のまま前を向いていた。

でも手は離さない。


ノエルはといえば、完全に保護者みたいな顔でニヤニヤしている。


やれやれ。



クロエの申請も終わって、ダンジョン協会を出ようとした時だった。


「シンゴくん」


声をかけられて振り向く。


津詰隊長がいた。


「津詰隊長! いらしたのですね」


「隊長は勘弁してくれ」


「……あっ、すいません。津詰さん」


そう言い直すと、津詰さんは少し嬉しそうに笑った。


「うん。それでいい」


呼び方を直しただけなのに、表情が少しやわらいだ。

たぶん、こういう距離の詰まり方が嫌いじゃない人なんだろう。


津詰さんは俺たちを見渡して、目を丸くした。


「また、異世界人のメンバーが増えているとは驚きだな!」


「全くです。自分でも驚いています」


クロエが一歩前へ出て、にこっと笑った。


「クロエ・ノワールでーす♪ ダークエルフの魔法使いよ。よろしくねっ♪」


「……こちらこそ、よろしく」


津詰さんは少し笑ってから、俺の方を見る。


「シンゴくんはそういう性質なのかもしれないな。異世界と何かと縁がある」


「はあ……」


否定できないのが困る。


「そうだ。シンゴくんなら、ちょうどいい」


津詰さんの声色が少し変わった。


「いや、浦安の件もある。ぜひ行ってもらいたいものだ」


「といいますと……ダンジョン、ですか?」


「ああ。新しいダンジョンが、ついさっき発見された」


その一言で、空気が少し締まる。


ノエルも、フィーネも、クロエも、自然と黙った。


「まだ世間には公開前だ。夕方にはバリケードと対策室が設置されて、公表される」


「そんな事前情報を俺に? いいんですか?」


「君だからいいんだよ」


津詰さんは真っ直ぐ言った。


「浦安の件もある。発表して、また行方不明者が出たら後手後手になる」


その時、昨夜のクロエの言葉が、ふと頭をよぎった。


――“巣が本体”


「良ければ、ダンジョン協会から正式な依頼としてダンジョン探索を行ってもらいたい」


「この前みたいな高額な報酬は無理だが、送迎や必要な物資は手配させてもらおう」


俺は少し考える。


しかし、答えはもうほとんど決まっていた。


「津詰さんには、火炎放射器のお礼もありますし。お受けします」


ノエルがすぐ反応した。


「新ダンジョン? ふふん。面白そうじゃない」


フィーネも、少し緊張した顔で頷く。


「……分かりました……」


クロエは逆に、ぱっと顔を明るくした。


「え、なにそれ! 楽しそう!」


本当に温度差がすごいな。


「それで、場所はどこなんです?」


俺が聞くと、津詰さんは短く答えた。


「群馬県の草津町だ」


草津。


温泉地として有名な地名が、急に別の響きを持った気がした。


新しいダンジョン。

未公開。

協会からの正式依頼。


帰ったら少し休めるかと思っていたのに、どうやらそうもいかないらしい。


でも、不思議と嫌な感じはしなかった。


俺は津詰さんの言葉を反芻しながら、小さく息を吐いた。


次の舞台は、草津だった。


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