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第54話 四階最深部――気配だけが先にいた

第54話 四階最深部――気配だけが先にいた



「次は四階にある、中級アンデッドが湧くポイントに行こうと思います」


俺がそう言うと、コメント欄がすぐ流れた。


『お、続行だ』

『四階あるんだ』

『中級アンデッド見たい』


「そうです。四階には中級アンデッドが出る可能性があるポイントがあります。倒せれば、魔石の期待もあります」


「ふふん。つまり、私の出番ってことね」


ノエルが得意げに胸を張った。


「さっき見たでしょ? 通常運用の《浄霊聖波・ターンアンデッド》でも、あれだけ消せるのよ。聖属性耐性が低い相手なら、まとめて片づけられるわ」


『早口で草』

『でも実際つよかった』

『今日は気分良さそうw』


「機嫌が良さそうだな」


「ふふん。そりゃそうよ。ちゃんと活躍できると気分がいいもの」


「…さっきも、すごかったです…」


フィーネが素直に言う。


ノエルはますます調子づいた。


「でしょ? もっと褒めてもいいのよ?」


思わず少し笑ってしまう。


俺たちはホールを抜けて、奥へ進む。


マップの通りなら、少し先に四階への階段があるはずだ。


崩れた柱の横を通り、短い通路へ入る。

その先に、石段が下へ伸びていた。


「四階への階段ですね」


「所沢ダンジョンは、いわゆる初級向けの作りです。分岐も少なく、いやらしくない。慣れるにはちょうどいいタイプですね」


『初心者向けか』

『たしかに分かりやすい』

『ゲーム屋っぽい解説助かる』


「つまり、“安全に私の活躍が見られる舞台”ってことね」


「全部そこに繋げるんだ」


「大事でしょ? 主役の見せ場は」


「…ご機嫌ですね」


「報告書のことさえ忘れれば、私はいつでもご機嫌よ」


忘れたらだめなんじゃないか、それ。


そんなことを思いながら、階段を下りる。



四階へ足を踏み入れた瞬間、空気が少し変わった。


寒いわけじゃない。

風が吹いているわけでもない。


ただ、音が遠い。


自分たちの足音が石に当たって響いているはずなのに、どこか吸われるみたいに薄くなる。


「四階の目標ポイントは、少し奥まった場所にあります」


ノエルがスマホを通路の先に向ける。


「ここから先は、基本一本道です。少し分岐もありますが、ハズレはすぐに行き止まりになります」


左右に短い通路がある。

でも、迷うほどじゃない。


マップ通りに進み、最後の角を曲がる。


その先に、少し大きめの扉があった。


石でできた両開きの扉。

三階までの扉より、一段厚く見える。


「いよいよここが、このダンジョンの最奥ですね」


俺が言うと、コメント欄がざわついた。


『おおー』

『ボス部屋きた?』

『中級アンデッド出てくれ』


「中級アンデッドが出ることがあるらしいので、湧いていればいいんですが……」


「いたら浄化してあげるわ。ふふん」


ノエルが腕を組んで言う。


俺は扉に手をかけた。


「行きます」



重い音を立てて、扉が開く。


中は、思っていたより広かった。


小ぶりのオフィスワンフロアくらいの広さ。

高さも十メートルくらいはある。


このダンジョン全体の規模を考えると、かなり大きい。


暗い。


それも、ただ暗いだけじゃない。

妙に、教会みたいな空気があった。


左右に並ぶ石柱。

壁際に等間隔で取りつけられた燭台。

だが、火は入っていない。


奥は影が濃く、天井の高さがそのまま圧になって落ちてくる。


一歩入っただけで、空気の質が変わった気がした。


「……教会、みたいですね……」


フィーネが小さく言う。


「しかも、だいぶ陰気なやつね」


ノエルも珍しく声を落とした。


俺は部屋の奥を見る。


石柱。

黒い床。

火の入っていない燭台。

ひやりとした静けさ。


その瞬間、浦安ダンジョンで見た、あのグールがいた部屋が頭をよぎった。


似てる。


規模は全然違う。

でも、雰囲気が近い気がする。


暗い教会。

奥へ意識を引っ張るような配置。

広いのに、妙に逃げ場がない感じ。


嫌な連想だった。


俺たちは慎重に中へ入る。


だが、モンスターは見当たらない。


がらんとしていた。


「残念。ハズレみたいですね」


そう言った、その時だった。


ぞわっ、と鳥肌が立った。


腕だけじゃない。

首筋。背中。頭皮。


髪が逆立つみたいな、嫌な粟立ちが一気に走る。


何だ、急に――!


思わず足が止まる。


心臓が一拍、強く鳴った。


「シンゴさん! なんかいる!」


ノエルが鋭く声を上げる。


「……いやな感じします……」


フィーネも同時に、低く言った。


俺だけじゃない。

二人も感じている。


部屋は静かだ。

何も見えない。


石柱の影も、奥の壁も、さっきと何も変わっていない。


なのに、いる。


視線の届かないどこかに、何かがいる。


俺は無意識に剣の柄へ手をかけた。


さっきまでの“復帰配信”の空気が、音もなく消えていく。


その時だった。


奥の闇の中で、

何かが、ゆっくりと立ち上がった。

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