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第48話 最終扉の先で――四本腕の悪魔、ついに現る

巨大な両開きの扉が、重い音を立てて開いていく。


先頭のタンク役たちが、盾を構えたまま素早く中へ踏み込んだ。

そのすぐ後ろに、津詰隊長たち戦士職が続く。


俺も、一歩遅れて中へ入る。


広い。


大きめの体育館くらいはある。

いや、横幅だけならそれ以上かもしれない。

さらに天井が高い。三十メートルはありそうだ。


最終局面の部屋だと、嫌でも分かる。


まず目に入ったのは――中央上空に浮かぶ、巨大な魔人だった。


二十メートル級。


人型ではある。

だが、人間とは似ても似つかない。


全身を覆うのは、黒曜石みたいな光沢を持つ角質の鎧。

その表面には、溶岩が固まったあとのような赤黒い筋が走っている。

頭部には、王冠のように天へ伸びた角。

背には、焼け焦げた巨大な翼。

完全に広げれば、この部屋の幅を半分くらい覆いそうだ。


顔立ちは妙に整っていた。

それが逆に不気味だ。

目だけが違う。

炉の奥みたいに赤く燃え、見た瞬間に「こいつは人の側に立つ存在じゃない」と分かる。


そして、腕。


四本ある。


腕は太く、甲冑の上からでも分かるほど筋肉が膨れている。

その四本が、それぞれ別の獲物を狙っているかのように、ゆっくりとうごめいていた。


……あれが、四本腕の悪魔。


さらに、その周囲を取り囲むように、三十体ほどのワイトがいた。


干からびた人型の死体。

皮膚は青白く、ところどころ灰色に変色している。

錆びた鎧をまとい、眼窩には妖しい光を宿していた。


高位の亡者だ。


これはかなりの強敵だと、ひと目で分かる。


そして一番奥。


牢屋が見えた。


鉄格子の奥に、何人もの人間が押し込まれている。

座り込んでいる者、倒れている者、こちらを見ている者。

全員、生きてはいる。


やはりここに集められている。


……しかし、なぜだ?


考える暇はなかった。


ワイトたちが一斉に動き出していた。


「来るぞ!」


タンク役が前へ出る。


ワイトは剣を振るうわけじゃない。

手だ。

その触れた相手から生気を吸い、呪いを与え、能力を落とす。

目を合わせた相手に、恐怖や麻痺を与える個体までいる。


「ぐっ……!」

「足が……!」

「恐怖だ、下がれ!」


前衛の何人かが、明らかに足を止められる。


「麻痺を優先!」

「回復回す!」


ノエルと《特務救援隊》の僧侶が、すぐに後方で回復を飛ばし始める。


だが、ワイトの数が多い。

タンクが受けても、全部を受けきれない。

横から、隙間から、ぬるりと手が伸びてくる。


だったら――


俺はもう、最初から決めていた。


一目散に中央の四本腕へ向かう。


こいつを自由にさせる訳にはいかない。


ワイトの間を縫うように走る。

近くまで詰めたところで、《跳空のブーツ》を発動。


跳ぶ。


一気に間合いを詰める。


その瞬間、四本腕の右腕の一本が、鞭のような速さで飛んできた。


速い。


だが、見える。


俺はその腕を目がけて剣を振るった。


ザシッ!


手首から下が、綺麗に切り落とされる。


「ギィィィアアアアアッ!!」


四本腕が咆哮を上げた。


部屋そのものが、びりびりと震える。


いける!


そう思った、その瞬間だった。


四本腕の上腕二本が、ゆっくりとこちらへ向いた。


開いた掌の中心が赤く灼ける。


「まず――」


次の瞬間、そこから圧縮された炎が一直線に噴き出した。


火炎放射だ。


それも、ただの火じゃない。

巨大な炉の中身を、圧力ごと叩きつけてくるみたいな、暴力そのものの炎。


熱い。


いや、痛い。


ブレスでも魔法でもない。

もっと単純で、もっと質の悪い“炎そのもの”だ。


一瞬ひるむ。


だが、ちらりと後ろが見えた。


何人もいる。


前衛。

中衛。

ノエル。

フィーネ。

にんともさんたち。


ここで退いたら、後ろまで焼かれる。


引けない。


「うおおおおっ!」


俺は体で炎を受けながら、右腕を振りかぶった。


剣を投げる。


《キングはぐれミスリルドラゴンの剣》が、白い光を引きながら飛ぶ。


炎の帯を切り裂き、そのまま四本腕の顔面へ突っ込む。


ズドンッ!!


額を貫き、後頭部へ抜けた。


そこでようやく、炎が止まる。


俺は床へ着地し、膝をつく。


焼けた臭いがした。

たぶん俺自身のだ。


だが、その瞬間、鎧から淡い緑の光がにじみ、全身を包む。


自動回復が始まる。


「シンゴさんー! 大丈夫!?」


後ろからノエルの悲鳴みたいな声が飛ぶ。


「自動回復があるから回復は大丈夫だ!」


俺は短く返す。


その間にも、後方ではワイトを十体ほど倒していた。


いけるか?


そう思った瞬間だった。


四本腕が、再び咆哮を上げる。


今度はさっきと違った。


牢屋の中の人間たちが、一斉に苦しみ始めたのだ。


「ぐあっ……!」

「う、ぁあ……!」

「た、助け……」


中には、その場で倒れる者までいる。


何をした?


そう思った次の瞬間、切り落としたはずの右腕の断面が、ぐにゃりと蠢いた。


にょきん、と。


新しい腕が生えてきた。


「は……?」


さらに、その周囲の空間が歪む。


そこから、またワイトが湧き出してくる。


十体ほど。


空中から、ぬるりと。


これは――!?


斬っても戻る。

牢の人間たちにも何かが繋がっている。

しかもワイトまで追加される。


このまま力押しじゃ、終わらない。


目の前の大悪魔は、こっちが思っていたよりずっと厄介な“仕組み”を持っていた。


そして、四本腕は新しい腕をゆっくり広げ、まるでこちらの焦りを楽しむように笑った。


最終局面は、まだ始まったばかりだった。


-----------------------------------------------------------


【名称:魔皇爵ヴェルグ=ゼディア】

地獄の古い貴族階級に属する大悪魔。

黒曜石のような角質の鎧に包まれた長身の魔人で、腕が四本ある。

背には焼け焦げた翼、頭部には王冠めいた角を持つ。

顔は整っているのに、目だけが炉の奥のように赤く輝いている。

四本腕を使った攻撃と、強力な炎を操る。

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― 新着の感想 ―
こんにちは。 >謎再生 そこまでの流れから察するに、生け贄ゾーンにいる存在からエネルギーを無理矢理調達→回復に当ててる…って感じですかね? クソ厄介ですなぁ…!?
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