第47話 デスナイト突破――ついに最終扉へ
十八名になった救助隊は、そのまま先へ進むことになった。
残るメンバーは、棺部屋に留まる。
傷を負った者、動けない者は、ここで待機する。
別れ際、あちこちから声が飛んだ。
「お気を付けて!」
「よろしくお願いします!」
「頼みます!」
声援というには、少し切実すぎる声だった。
それでも、送り出す側にできることは、もうそれしかない。
津詰隊長が一度振り返り、残るメンバー全員を見渡した。
「必ず戻る」
低く、短い一言。
だが、その場にいた全員の胸へ真っ直ぐ届く声だった。
残る者たちも、無言で頷く。
にんともさんが盾を持ち直し、ノエルが小さく息を吐き、フィーネも弓を握り直した。
先行組は隊列を整え、そのまま部屋を出た。
扉が閉まる。
その直後――ガチャン、と重い金属音が響いた。
内側からロックされた音だ。
戻ってくる時は、全員そろってこの扉を叩こう。
シンゴはそう強く思った。
◆
先頭は《特務救援隊》のレンジャーとタンクが並ぶ。
レンジャーが罠と気配を探り、
タンクが何かあれば最初に受ける。
その後ろに、津詰隊長たち前衛。
さらにシンゴたち。
最後尾寄りを、にんともさんたちが固める。
もう、ここから先は少数精鋭だ。
一つの判断ミスが、そのまま全滅に繋がってもおかしくない。
隊列は、いつも以上に慎重だった。
通路は静かだ。
静かすぎる。
さっきまでの爆発と悲鳴が嘘のように、足音と鎧の擦れる音だけが響いている。
それが逆に、不気味だった。
やがて前方に扉が見えた。
中規模の鉄扉だ。
これまでの小部屋より重く、だが最終区画ほどの圧はない。
先頭のレンジャーが近づき、床、壁、蝶番、隙間を確認する。
「……罠、ないです」
津詰隊長が短く頷く。
「開けろ」
タンクが前へ出て、扉に手をかけた。
重い音とともに、扉が開く。
◆
中は、体育館の半分ほどはありそうな中規模の部屋だった。
だが広さよりも先に、目を引くものがあった。
奥に、三体。
騎士のような風貌の異形が、微動だにせず立っている。
身長は三メートル近い。
大きい。
右手には、赤黒いオーラをまとわせたフランベルジュ。
波打つ刃が炎そのものみたいに揺らめいている。
長さは二メートル近い。
左手には、全身を覆えそうなタワーシールド。
黒い全身鎧には、胸元に真紅の紋様。
背には漆黒のマント。
その奥の顔はやせこけていて、目だけが赤く光っていた。
立っているだけで威圧感がある。
「デスナイトだ! 強敵だ! 注意してかかれ!」
津詰隊長が叫んだ。
その声に呼応するように、三体のデスナイトが一斉に動く。
走ってきた。
速い。
巨体のくせに、足音が異様に軽い。
重戦車みたいに鈍重なものを想像していたのに、まるで大型の肉食獣みたいな加速だった。
「前、受ける!」
タンク六名が盾を掲げ、一斉に前へ出る。
次の瞬間。
ガキィン!!
デスナイトのフランベルジュが、真正面から叩きつけられた。
重い。
一撃が重すぎる。
受けたタンクが盾ごと後ろへ押し込まれ、石床を滑る。
それでも、崩れない。
踏みとどまる。
別のデスナイトも横から振るう。
また別のタンクが受ける。
火花。
衝撃。
鈍い音。
ただ受けただけで腕が痺れそうな重撃だ。
「前、出るぞ!」
津詰隊長の声。
タンクの横から、戦士職が一気に前へ出た。
津詰隊長。
副長。
《特務救援隊》の戦士。
にんともパーティの前衛。
盾で受け止められた一瞬の隙へ、刃が叩き込まれる。
だが、デスナイトは硬い。
鎧が厚い。
しかも剣も盾も使い慣れている。
一対一で正面から削るには時間がかかる。
だったら――
シンゴは床を蹴った。
《跳空のブーツ》が反応する。
上へ。
一気に飛び上がる。
デスナイトの頭上を越え、そのまま背後へ回り込む。
「後ろ取った!」
一体目のデスナイトが、正面の津詰隊長へ意識を向けている。
そこへ背後からシンゴが斬りかかる。
ギィン!
背中の装甲に刃が食い込む。
完全には断てない。
だが、反応させるには十分だ。
デスナイトが振り向こうとする。
その瞬間、前から津詰隊長の双斧が閃く。
タワーシールドがそちらを受ける。
そこへ、後ろからシンゴが膝裏を斬る。
ガツッ。
体勢が沈む。
「今だ!」
副長が横から斬り上げる。
肩口に深く入る。
デスナイトがふらついた。
挟撃だ。
前から押す。
後ろから崩す。
単純だが、この相手にはそれが効いた。
二体目も同じだ。
前衛が正面で刃を受け止め、シンゴが《跳空のブーツ》で位置をずらして背後へ入る。
首の後ろ、脇腹、膝裏。
急所というより、動きの軸を削る。
重装の騎士系モンスターは、いくら強くても体勢を崩せば脆い。
「後ろ!」
「分かってる!」
にんともさんの声と同時に、戦士が前から踏み込む。
シンゴが後ろから剣を叩き込む。
挟まれたデスナイトは、どちらか一方しか防げない。
三体目は少し粘った。
盾で前を受けながら、無理やり回り込んできたシンゴへマント越しに剣を振るう。
「っ!」
シンゴは横へ飛ぶ。
刃が鼻先をかすめる。
だが、それで姿勢が開いた。
「そこだ!」
津詰隊長の双斧が、正面から鎧の継ぎ目へ叩き込まれる。
ぐらり、とデスナイトが揺れる。
シンゴは着地と同時に踏み込み直した。
「もらった!」
背後から、首の付け根へ一閃。
そのまま前から副長が胸部へ深く斬り込む。
赤い光が一瞬だけ鎧の内側で明滅し――
最後のデスナイトが崩れ落ちた。
三体、撃破。
部屋に静けさが戻る。
誰かが荒く息を吐いた。
津詰隊長が周囲を見回し、短く言う。
「全体クリア! うまくいった! この調子で行くぞ!」
その声で、張り詰めていた空気が少しだけ前向きに変わる。
◆
奥の扉を開けて、さらに先へ進む。
そこからの通路は長かった。
長い。
ただ長いだけじゃない。
歩くほどに、空気が変わっていくのが分かる。
誰も口にしない。
でも、皆が感じていた。
最終局面が近づいている。
ここまで来て、もう“たまたま助かった”では済まない場所だ。
この先は、ダンジョンの核に近い。
そんな感覚が、肌で分かる。
やがて、通路の先に巨大な両開きの扉が現れた。
今まで見てきたどの扉よりも大きい。
重い。
そして、静かだ。
先頭のレンジャーが近づき、丁寧に調べる。
床。
壁。
扉の継ぎ目。
しばらくして、振り返った。
「罠はありません」
津詰隊長が扉の前へ立つ。
全員が、自然とその背へ意識を向けた。
隊長は低く、しかしはっきりした声で言う。
「おそらくここが最後の場所だ」
誰も動かない。
「例の四本腕の悪魔がいると思われる」
空気が、さらに張り詰める。
津詰隊長は続けた。
「先ほどと同じく、タンクが前。その後ろに戦士。さらに後ろにレンジャー、僧侶が続く」
「ただし、四本腕の悪魔は得体が知れん。範囲攻撃を警戒しろ」
「固まるな。間合いを取りつつ進め」
「分かりました」
あちこちで短い返事が返る。
にんともさんが盾を持ち直す。
ノエルが深く息を吸う。
フィーネが弓を握り直す。
ついに、ここまで来た。
この扉の向こうに、ずっと追ってきたものがいる。
行方不明者たちも、おそらくその先だ。
シンゴは腰の剣に手をやった。
手のひらが少し汗ばんでいる。
怖くないわけがない。
でも、もう引き返す場所じゃない。
扉の向こうからは、何も聞こえない。
それが逆に、不気味だった。
静かすぎる。
まるで、こちらが来るのを分かったうえで待っているみたいに。
津詰隊長が、扉へ手をかけた。
その瞬間、全員が無意識に息を止める。
最終局面の入口は、もう目の前にある。
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