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第47話 デスナイト突破――ついに最終扉へ

十八名になった救助隊は、そのまま先へ進むことになった。


残るメンバーは、棺部屋に留まる。

傷を負った者、動けない者は、ここで待機する。


別れ際、あちこちから声が飛んだ。


「お気を付けて!」

「よろしくお願いします!」

「頼みます!」


声援というには、少し切実すぎる声だった。


それでも、送り出す側にできることは、もうそれしかない。


津詰隊長が一度振り返り、残るメンバー全員を見渡した。


「必ず戻る」


低く、短い一言。

だが、その場にいた全員の胸へ真っ直ぐ届く声だった。


残る者たちも、無言で頷く。

にんともさんが盾を持ち直し、ノエルが小さく息を吐き、フィーネも弓を握り直した。


先行組は隊列を整え、そのまま部屋を出た。


扉が閉まる。

その直後――ガチャン、と重い金属音が響いた。

内側からロックされた音だ。


戻ってくる時は、全員そろってこの扉を叩こう。

シンゴはそう強く思った。



先頭は《特務救援隊》のレンジャーとタンクが並ぶ。


レンジャーが罠と気配を探り、

タンクが何かあれば最初に受ける。


その後ろに、津詰隊長たち前衛。

さらにシンゴたち。

最後尾寄りを、にんともさんたちが固める。


もう、ここから先は少数精鋭だ。

一つの判断ミスが、そのまま全滅に繋がってもおかしくない。


隊列は、いつも以上に慎重だった。


通路は静かだ。


静かすぎる。


さっきまでの爆発と悲鳴が嘘のように、足音と鎧の擦れる音だけが響いている。

それが逆に、不気味だった。


やがて前方に扉が見えた。


中規模の鉄扉だ。

これまでの小部屋より重く、だが最終区画ほどの圧はない。


先頭のレンジャーが近づき、床、壁、蝶番、隙間を確認する。


「……罠、ないです」


津詰隊長が短く頷く。


「開けろ」


タンクが前へ出て、扉に手をかけた。


重い音とともに、扉が開く。



中は、体育館の半分ほどはありそうな中規模の部屋だった。


だが広さよりも先に、目を引くものがあった。


奥に、三体。


騎士のような風貌の異形が、微動だにせず立っている。


身長は三メートル近い。


大きい。


右手には、赤黒いオーラをまとわせたフランベルジュ。

波打つ刃が炎そのものみたいに揺らめいている。

長さは二メートル近い。


左手には、全身を覆えそうなタワーシールド。


黒い全身鎧には、胸元に真紅の紋様。

背には漆黒のマント。

その奥の顔はやせこけていて、目だけが赤く光っていた。


立っているだけで威圧感がある。


「デスナイトだ! 強敵だ! 注意してかかれ!」


津詰隊長が叫んだ。


その声に呼応するように、三体のデスナイトが一斉に動く。


走ってきた。


速い。


巨体のくせに、足音が異様に軽い。

重戦車みたいに鈍重なものを想像していたのに、まるで大型の肉食獣みたいな加速だった。


「前、受ける!」


タンク六名が盾を掲げ、一斉に前へ出る。


次の瞬間。


ガキィン!!


デスナイトのフランベルジュが、真正面から叩きつけられた。


重い。


一撃が重すぎる。


受けたタンクが盾ごと後ろへ押し込まれ、石床を滑る。

それでも、崩れない。

踏みとどまる。


別のデスナイトも横から振るう。

また別のタンクが受ける。


火花。

衝撃。

鈍い音。


ただ受けただけで腕が痺れそうな重撃だ。


「前、出るぞ!」


津詰隊長の声。


タンクの横から、戦士職が一気に前へ出た。


津詰隊長。

副長。

《特務救援隊》の戦士。

にんともパーティの前衛。


盾で受け止められた一瞬の隙へ、刃が叩き込まれる。


だが、デスナイトは硬い。


鎧が厚い。

しかも剣も盾も使い慣れている。

一対一で正面から削るには時間がかかる。


だったら――


シンゴは床を蹴った。


《跳空のブーツ》が反応する。


上へ。


一気に飛び上がる。


デスナイトの頭上を越え、そのまま背後へ回り込む。


「後ろ取った!」


一体目のデスナイトが、正面の津詰隊長へ意識を向けている。

そこへ背後からシンゴが斬りかかる。


ギィン!


背中の装甲に刃が食い込む。


完全には断てない。

だが、反応させるには十分だ。


デスナイトが振り向こうとする。

その瞬間、前から津詰隊長の双斧が閃く。


タワーシールドがそちらを受ける。


そこへ、後ろからシンゴが膝裏を斬る。


ガツッ。


体勢が沈む。


「今だ!」


副長が横から斬り上げる。

肩口に深く入る。


デスナイトがふらついた。


挟撃だ。


前から押す。

後ろから崩す。


単純だが、この相手にはそれが効いた。


二体目も同じだ。


前衛が正面で刃を受け止め、シンゴが《跳空のブーツ》で位置をずらして背後へ入る。

首の後ろ、脇腹、膝裏。

急所というより、動きの軸を削る。


重装の騎士系モンスターは、いくら強くても体勢を崩せば脆い。


「後ろ!」


「分かってる!」


にんともさんの声と同時に、戦士が前から踏み込む。

シンゴが後ろから剣を叩き込む。


挟まれたデスナイトは、どちらか一方しか防げない。


三体目は少し粘った。


盾で前を受けながら、無理やり回り込んできたシンゴへマント越しに剣を振るう。


「っ!」


シンゴは横へ飛ぶ。

刃が鼻先をかすめる。


だが、それで姿勢が開いた。


「そこだ!」


津詰隊長の双斧が、正面から鎧の継ぎ目へ叩き込まれる。


ぐらり、とデスナイトが揺れる。


シンゴは着地と同時に踏み込み直した。


「もらった!」


背後から、首の付け根へ一閃。


そのまま前から副長が胸部へ深く斬り込む。


赤い光が一瞬だけ鎧の内側で明滅し――


最後のデスナイトが崩れ落ちた。


三体、撃破。


部屋に静けさが戻る。


誰かが荒く息を吐いた。


津詰隊長が周囲を見回し、短く言う。


「全体クリア! うまくいった! この調子で行くぞ!」


その声で、張り詰めていた空気が少しだけ前向きに変わる。



奥の扉を開けて、さらに先へ進む。


そこからの通路は長かった。


長い。


ただ長いだけじゃない。

歩くほどに、空気が変わっていくのが分かる。


誰も口にしない。

でも、皆が感じていた。


最終局面が近づいている。


ここまで来て、もう“たまたま助かった”では済まない場所だ。

この先は、ダンジョンの核に近い。

そんな感覚が、肌で分かる。


やがて、通路の先に巨大な両開きの扉が現れた。


今まで見てきたどの扉よりも大きい。

重い。

そして、静かだ。


先頭のレンジャーが近づき、丁寧に調べる。


床。

壁。

扉の継ぎ目。


しばらくして、振り返った。


「罠はありません」


津詰隊長が扉の前へ立つ。


全員が、自然とその背へ意識を向けた。


隊長は低く、しかしはっきりした声で言う。


「おそらくここが最後の場所だ」


誰も動かない。


「例の四本腕の悪魔がいると思われる」


空気が、さらに張り詰める。


津詰隊長は続けた。


「先ほどと同じく、タンクが前。その後ろに戦士。さらに後ろにレンジャー、僧侶が続く」

「ただし、四本腕の悪魔は得体が知れん。範囲攻撃を警戒しろ」

「固まるな。間合いを取りつつ進め」


「分かりました」


あちこちで短い返事が返る。


にんともさんが盾を持ち直す。

ノエルが深く息を吸う。

フィーネが弓を握り直す。


ついに、ここまで来た。


この扉の向こうに、ずっと追ってきたものがいる。

行方不明者たちも、おそらくその先だ。


シンゴは腰の剣に手をやった。


手のひらが少し汗ばんでいる。

怖くないわけがない。


でも、もう引き返す場所じゃない。


扉の向こうからは、何も聞こえない。


それが逆に、不気味だった。


静かすぎる。

まるで、こちらが来るのを分かったうえで待っているみたいに。


津詰隊長が、扉へ手をかけた。


その瞬間、全員が無意識に息を止める。


最終局面の入口は、もう目の前にある。

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