第44話 地上帰還の一時間――現代武器で再突入
インプの群れを片付けたあと、五階ホールにはようやく静けさが戻った。
だが、安心できる静けさじゃない。
落ちた四人はどこだ。
この扉の中か。
「行くぞ」
津詰隊長が短く言った。
前衛が扉の左右を固める。
後衛はホール中央で警戒。
俺とノエル、フィーネも扉の近くへ寄った。
津詰隊長が前と同じように軽くノックする。
コン、コン。
「ダンジョン協会の者です。助けに来ました」
少し間があってから、中から震えた声が返ってきた。
「……本当に、助けですか?」
「そうだ」
すると、今度は中からかすれた声がした。
「扉を……開けてください……」
津詰隊長が扉を開ける。
中には二人いた。
二人とも壁際にいて、手に持ったピッケルを壁に引っかけるようにして、震えながら立っていた。
部屋の中央の床には、大きな四角い継ぎ目が走っている。
一度開いて、また元に戻ったのだとすぐ分かった。
津詰隊長が静かな声で言う。
「助けに来ました。もう大丈夫です」
一人が荒い息のまま答えた。
「人が……上から落ちてきたんだ」
「そのあと、いきなり床が抜けた」
もう一人も床を見ながら続ける。
「俺たちは、たまたま端にいて、ピッケルを手に持っていたから助かった……でも、仲間は……」
そこで言葉が途切れた。
フィーネが床を見て、小さく言った。
「……すぐには開かないと思います……」
津詰隊長が二人に声をかける。
「立てるか」
二人はなんとか頷いた。
だが、足はかなり弱っていた。
俺と救援隊員が肩を貸して、ゆっくり外へ連れ出す。
外へ出た瞬間、一人がその場にへたり込んだ。
「助かった……」
「本当に……助かった……」
津詰隊長はすぐに判断した。
「もう一度、救助者を連れて全員で外へ出る」
当然の判断だった。
今助けた二人は消耗が激しい。
先ほど救出した六人もいる。
こちらもインプ戦で少なからず削られている。
レイド隊はすぐに隊列を組み直した。
中央に救助者八名。
その前後左右を、前衛とタンクと支援が守る形だ。
「移動開始!」
津詰隊長の号令で、再び五階を戻り始める。
大きな接敵はなく、俺たちはそのまま地上へ戻ることができた。
◆
ダンジョンゲートを抜けると、救護班がすぐに動いた。
「救助者八名。消耗大。処置を頼む」
津詰隊長の報告に、救護班が素早く対応する。
これで、救助できたのは十八名。
残りは三十二名。
「治療が必要な者は治療室へ。残りの者は休息とする。次の集合は一時間後」
津詰隊長が全体へ指示を飛ばす。
短い休憩だ。
だが、今はその一時間が大きい。
俺はノエルとフィーネのところへ戻った。
「さすがに疲れたな」
「そうね」
「……でも、助けられてよかったです……」
フィーネが小さく言う。
その言葉に頷きながら、俺はさっきの戦闘を思い返していた。
インプであれだけ厄介だった。
この先、もっと小さい群体が出てもおかしくない。
剣や槍じゃ対処しきれない場面がある。
だったら、今のうちに手を打つべきだ。
「ちょっと隊長のところに行ってくる」
俺はそう言って、津詰隊長のもとへ向かった。
◆
「隊長、少し提案があります」
津詰隊長がこちらを見る。
「何だ」
「五階のインプで思ったんですが、この先、もっと小型のモンスターが出る可能性があります」
「剣や槍だと、ああいう相手は効率が悪い」
「面で制圧できる武器を用意した方がいいと思います」
津詰隊長は少し考え、副官へ目を向けた。
「近距離制圧用の装備は残っているか」
副官がすぐに答える。
「短銃身ショットガンが三丁あります。群体戦対策用です」
「持ってこい」
しばらくして、黒いケースが運ばれてきた。
中には、短銃身ショットガンが三丁。
津詰隊長が一丁を取る。
もう一丁を副官へ渡す。
そして最後の一丁を、俺へ差し出した。
「シンゴ君」
俺はそれを受け取る。
ずしりと重い。
「君なら、最適なタイミングで使ってくれると思う」
短いが、重い言葉だった。
「……ありがとうございます。使いどころは見極めます」
◆
戻ると、ノエルが目を丸くした。
「わあ。急に現代戦っぽくなったわね」
「隊長が持たせてくれた」
フィーネがショットガンをじっと見る。
「……これなら、小さい敵にも広く当てられそうです……」
「たぶんな」
俺は軽く構えてみる。
今までみたいに剣だけで全部を処理する必要はない。
必要なら、こういう武器も使う。
ノエルがにやっと笑った。
「シンゴさん、ちょっと似合ってるわよ」
「そうか?」
「ええ。だいぶ危ない人に見えるけど」
「褒めてないだろ、それ」
フィーネが少しだけ口元を緩めた。
「……でも、頼もしいです……」
◆
一時間の休憩は、あっという間だった。
再び、隊員たちがゲート前に集まってくる。
装備を確認する者。
水を飲み干す者。
静かに目を閉じる者。
津詰隊長が前へ出た。
「次は、五階の先を抜く」
低く、よく通る声だった。
「了解!」
各所から返事が飛ぶ。
俺は腰の剣に手をやり、それから新しく受け取ったショットガンへ視線を落とした。
剣だけじゃない。
今度は、現代の武器を持って下へ行く。
ダンジョンの悪意に対して、こちらも少しずつ手札を増やしている。
「行くぞ」
誰かが言った。
次の一歩は、今までより深い場所へ続いている。
そして、その先に待っているものに対して――
俺たちは、もうさっきまでと同じじゃない。
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