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第42話 爆発矢、空から炸裂――後衛崩壊、一気に押し返せ

三階の広間に戻ってきた。


一度地上に出て、短い休憩を挟んだからだろうか。

さっきまであれほど重く感じていた空気が、少しだけ軽くなった気がした。


もちろん、危険が消えたわけじゃない。

四本腕の悪魔の話だって、頭の片隅から離れない。


それでも――外の空気を吸って、水を飲んで、少し座っただけで、人間はだいぶ違う。

全員の足取りも、地上に戻る前よりはわずかに落ち着いて見えた。


広間の中央には、さっきの戦闘の痕跡がまだ残っている。

砕けた鎧片。床の傷。焼け焦げ。

そこを踏み越えながら、レイド隊はホール奥の暗い通路へ進んだ。


「四階へ降ります。隊列維持」


津詰隊長の声が響く。


全員が頷くように足並みを揃え、その先の階段を下りていく。



四階は、三階よりさらに嫌な階だった。


通路は広い。

だが、広いだけに奥が見えすぎる。

暗さが逃げ場なく続いていて、先に何かいたらすぐ分かるはずなのに、それでも見たくない場所が多い。


石壁には鎖を打ち込んだ跡があった。

床には何か重いものを引きずった擦れ跡。

扉付きの小部屋も多い。


「本当に牢屋みたいな階だな」


俺が小さく言うと、ノエルが肩をすくめる。


「嫌な趣味ね。作ったやつの顔が見てみたいわ」


フィーネは周囲を見ながら、小さく言った。


「……この階、精霊力の流れが淀んでいます……人が長く閉じ込められていた場所みたいです……」


聞きたくない感想だが、たぶん当たっている。


隊列は慎重に進んだ。

扉を確認し、小部屋を覗き、気配を探る。


だが、生存者は見つからない。


やがて、前方で敵影が見えた。


盾を構えた大型のアンデッドナイトが四体。

その後ろ、少し高い足場みたいな位置に、杖を持ったアンデッドメイジが五体。


露骨に嫌な布陣だ。


「前方接敵!」


レンジャーの警告が飛ぶ。


前衛が前に出る。

タンクが盾を構える。


だが、次の瞬間。


「後方魔法! 固まるな!」


アンデッドメイジが杖を掲げる。


赤い火球。

紫の矢。

腐食みたいな霧。


まとめて飛んできた。


ドゴン!

バシュッ!

ガンッ!


後列で爆発が起きる。

盾で弾いたのもあるが、完全には防ぎきれない。

悲鳴とまではいかなくても、苦しそうな声がいくつも上がった。


「回復!」

「負傷者後ろへ!」

「前が抜けない!」


まずい。


こちらの前衛は、手前のアンデッドナイトに止められている。

その後ろからメイジが撃ち放題だ。


このままだと削られる。


俺はすぐ後ろを振り返った。


「ノエル、フィーネ!」


二人ともこっちを見る。


「フィーネ、爆発矢で後ろのメイジをやれるか?」


フィーネの目が細くなる。


「……狙えます……」


「ノエル、フィーネを持ち上げて浮けるか?」


ノエルが、にやっと笑った。


「任せて。そういうの、嫌いじゃないわ」


「よし、頼む!」



ノエルがフィーネのすぐ後ろへ回り、両腕を腰に回してぐっと持ち上げた。


「いくわよ」


「……はい……!」


羽ばたきとともに、二人の位置がふわりと上がる。

フィーネの足が床を離れ、ちょうど前衛の頭越しに後方を狙える高さまで持ち上がった。


そこからなら、アンデッドナイトの列の向こうが見える。


フィーネが弓を引く。


いつもの矢じゃない。

先端の構造が少し太くなった、あの爆発矢だ。


「……いきます……!」


放たれた矢が、一直線にアンデッドメイジの後方へ飛ぶ。


次の瞬間。


どどどーーーん!!


低く、腹に響く爆発音。


矢が当たった地点を中心に、炎と爆風が一気に広がった。

その中心から、さらに小さな爆発がいくつも連鎖する。


破片が飛び散り、

火がはぜ、

後方のアンデッドメイジたちがまとめて吹き飛ぶ。


「うおっ……!」


思わず声が出た。


五体。


後ろにいたアンデッドメイジが、五体まとめて消し飛んだ。


すごい威力だ。


前衛の誰かが叫ぶ。


「後衛はいなくなった!」

「押し返せ!」


一気に流れが変わる。


ノエルはその場でフィーネを下ろし、そのまま負傷者の方へ向かった。


「重い人から見るわ!」

「……軽傷の人は、普通の処置を……!」


混乱の中でも、二人ともやることが早い。


後でフィーネから話を聞いたが、大きな爆発と共に小さな爆発鉱石が飛び散り、更に爆発するという仕組みらしい。

現代のミサイルの仕組みを取り入れたらしい。

ノエルがネットで教えてくれたそうだ。

恐ろしいが頼もしい。



やがて、中奥のホールに到着した。


ここもまた広い。

通路の先に、少し開けた戦闘空間がある。

そして、予想通り大量の敵影。


アンデッドナイト。

その後ろにアンデッドメイジ。


さっきと同じだが、数が増えている。


「フィーネ。爆発矢は温存してくれ」


フィーネが頷く。


「……はい……」


ここなら、自分でメイジまで届く。


俺は床を蹴った。


《跳空のブーツ》が反応し、一気に加速する。


手前のアンデッドナイトの頭上を跳び越え、そのまま後列のアンデッドメイジへ向かう。

向こうも気づいた。


五体が一斉に杖を向ける。


火球。

火球。

火球。

火球。

火球。


「っ!」


五つのファイアボールが、俺のいた空間で同時に炸裂した。


ドン! ドドン! バゴォッ!


爆煙が広がる。


後ろで、誰かが短く「ひっ」と息を呑んだのが聞こえた。


だが、次の瞬間。


その煙の中から俺は飛び出した。


「そこか!」


アンデッドメイジのど真ん中へ着地する。


近い。

こうなれば、もう終わりだ。


一体目。

杖ごと胸を斬る。


二体目。

振り向く前に首元を落とす。


三体目。

後ろへ下がろうとしたところを踏み込みで詰め、脇腹から断つ。


四体目。

火球を作りかけた手首ごと斬り飛ばす。


五体目。

最後に逃げかけた背中を一気に両断。


メイジ後衛、壊滅。


津詰隊長の声が飛ぶ。


「後衛は崩れた! 突撃!」


その号令で前衛が一気に前へ出た。


盾持ちのアンデッドナイトが押される。

近接役が継ぎ目を狙い、タンクが押し込み、槍が喉元を突く。


後衛を失った時点でもう勝負は決まっていた。


ホールの敵を殲滅し終わるまで、それほど時間はかからなかった。



ホールの奥には、扉が一つ。


そして、その脇に下への階段があった。


「やっぱり下へ続いてるな」


俺が言うと、津詰隊長は扉の前へ進み出た。


前と同じように軽くノックする。


「ダンジョン協会の者です。助けに来ました」


しばらくして、扉が開いた。


中には人影があった。


「助かった……!」

「来てくれたのか!」


一人、また一人と部屋から出てくる。


全部で十名。

二パーティだ。


「よかった……」


フィーネが小さく息をつく。


だが、その直後だった。


パカリ。


部屋の床全体が、まるで落とし穴みたいに開いた。


「えっ」

「うわっ!?」

「きゃあああ!」


悲鳴を上げながら、人が落ちていく。


一瞬だった。


その一瞬のあとには、もう床は閉じていた。


「なっ……!」


思わず駆け寄る。


外へ出られたのは六名。

四名が、今ので落ちたことになる。


助かったはずだった六名が、途端に取り乱す。


「い、今の何だ!?」

「下に落ちた!」

「待って、待ってくれ!」

「おい! 返事しろ!!」


場が一気に騒然とした。


津詰隊長が一歩前に出る。


「落ち着け!」


低い声が、鋭く響く。


「落ちたが、どうなったかはまだ分からない。死んだと決まったわけじゃない」

「状況を確認する。生きている者は声を出すな、呼吸を整えろ」


その一言で、少しだけ空気が戻る。


さすがだ。


だが、最悪の事態には変わりない。


助けたと思った瞬間に、四人が下へ落とされた。


しかも、ここに階段があるということは――

この階は、もう終わり際に見せる嫌がらせじゃない。


下に行かせるための仕掛けが、最初からここに組み込まれていたということだ。


五階は、すぐその下で待っている。


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― 新着の感想 ―
こんばんは。 直接+致命的な罠は最悪ですが、こういう『下まで対象を誘い込む、罠だとわかっていてもその誘いに乗らないといけない』系のトラップもえげつないですよね。このダンジョン作った存在、絶対陰湿な性…
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