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第41話 束の間の休憩――思わぬ縁が待っていた

救助した十人を中央に置くように、レイドパーティは隊列を組み直した。


前方に《特務救援隊》。

左右に盾役。

後方にも警戒を残す。


疲弊した救助者たちは、歩ける者もいれば、肩を貸されている者もいる。

それでも全員、自分の足で地上へ戻ろうとしていた。


「隊列維持! 中央を守れ!」


津詰隊長の声が飛ぶ。


来た道を戻る。

一階、二階、三階――その区切りはもう頭に入っているはずなのに、救助者が間にいるだけで通路の見え方まで変わる。


少しでも何かあれば、今度は守りながら戦わなければならない。


だから全員、さっきまで以上に神経を尖らせていた。


だが、幸いにも帰路で大きな接敵はなかった。


長い通路を抜け、最後の曲がり角を曲がる。


その先に、一階の出口が見えた。


外の光が、妙に白く見える。


「出口だ」


誰かが低く言った。


その一言だけで、救助者たちの足が少しだけ速くなった。



ダンジョンゲートを抜け、地上へ出る。


空気が変わった。


湿って重い地下の空気じゃない。

冷たくても、ちゃんと生きてる外の空気だ。


救助された人たちは、その場で膝をついたり、地面に両手をついたりしながら、涙混じりに声を漏らした。


「助かった……」

「帰ってこられた……」

「う、うぅ……」


それを見て、こちらまで少しだけ肩の力が抜ける。


ダンジョンゲート前では、待機していた救護班がすぐに動き出した。


津詰隊長が簡潔に指示を出す。


「救助者十名。重傷なし、全員自力歩行可能。裂傷と打撲中心。処置を頼む」


「了解しました!」


白い腕章をつけた救護班が、手際よく救助者たちを誘導していく。


さすがに慣れている。


その様子を確認してから、津詰隊長が全体へ向き直った。


「今から休憩を取る。1時間後にゲート前に集合!」


短く、しかしよく通る声だった。


張り詰めていた空気が、そこで少しだけ緩む。


俺は大きく息を吐いた。


「ひとまず、何か飲んで一息つくか」


そう言って、ノエルとフィーネを見る。


「オッケー。休憩ね」


「はい。分かりました」


三人そろって、仮設施設の一角に設けられた食堂へ向かった。



食堂の中は、簡易施設らしい作りだった。


長い机が何本も並び、折り畳み椅子がずらっと置かれている。

壁際には、無料で飲み物を受け取れる自販機が一台。

その隣には、各種弁当が陳列された棚まであった。


こういう非常時の施設にしては、かなり整っている。


俺は自販機の前に立ち、麦茶のボタンを押した。


ガタン、ガタン。


馴染みのある音のあと、取り出し口にペットボトルが落ちてくる。


その瞬間。


「ひぃっ……!? な、何もない場所に麦茶が出てきました……!?」


フィーネがびくっと肩を跳ねさせた。


そういえば、自販機は初めて見るのか。


ノエルが前を向いたまま、どや顔で胸を張る。


「フィーネ。これが現代の、無人で飲み物を販売する『自販機』よ!」


言いながら、自分もコーヒーのボタンを押す。


ガタン、ガタン。


同じ音とともに、缶コーヒーが落ちてきた。


ノエルはそれを取り出して、なぜか誇らしげに見せる。


「さあ! フィーネも自分が飲みたい飲み物のボタンを押すのよ!」


……なんか大げさだな。


「フィーネも、好きなのを選ぶといい。飲みたいやつの下のボタンを押すだけで大丈夫だ」


「……では、私も麦茶を……」


フィーネはおそるおそる、麦茶のボタンを押した。


ガタン、ガタン。


予想していたはずなのに、音がした瞬間また少しだけ肩が跳ねる。


取り出し口から麦茶を拾い上げると、フィーネはほっとした顔になった。


「……出てきました……」


「よかったな」


「…はい」


なんだかんだで、現代に少しずつ慣れてきているのが分かる。



三人で食堂の隅の方に座り、お茶を飲んでいると、他のレイドパーティのメンバーたちも次々入ってきた。


お茶を飲む者。

弁当を食べる者。

低い声で情報交換をする者。

椅子に深く座って目を閉じる者。


思い思いに休憩を取っている。


そんな中で、ふと目に留まった。


あの、最後尾を守っていたパーティだ。


特にタンク役の二人は、嫌でも目を引く。


長身。

全身真っ黒なフルプレートメイル。

身長よりも高い鉄製のシールド。


正直、遠目でも「強そうだな」と思う。

近くで見ると、さらに迫力がある。


俺は立ち上がった。


次の入ダンもある。

ここで一言くらい、ちゃんと礼を言っておきたかった。


そっと近づき、声をかける。


「最後尾二番にいましたシンゴといいます。タンク役、ありがとうございました。とても助かりました」


そう言うと、そのうちの一人がヘルムを取った。


女性だった。


黒髪。

前髪はまっすぐ綺麗に揃えられている。

年齢は二十代前半くらいに見える。

目元はきりっとしているが、口元には柔らかい笑みがあった。

太めの眉が意志の強さを感じさせるし、輪郭もすっきりしていて、いかにも「前で受ける役が似合う」顔立ちだ。


女性が答える。


「いえいえ。こちらこそ、流石すごい攻撃でしたねシンゴさん。あ! わたくし“にんとも”といいます」


「それはそれは。にんともさん……え?」


一瞬、脳が止まる。


「にんともさんですか!?」


「はい」


少し笑いながら返事をした。


俺の声が少し裏返った。


「あの、自分が初めて配信した時に色々教えてくれた、にんともさんですか?」


「はい」


また、くすっと笑う。


本物だ。


まさか、こんなところで。


「そして、こちらがわたくしの妹の“かんとも”です」


そう言うと、もう一人のタンク役もヘルムを取った。


「え!?」


同じ顔が現れた。


驚いている俺を見て、楽しそうに笑いながら言う。


「妹の“かんとも”です。双子なんですよ」


「ええええええ!」


情報量が多すぎて、思わず大声が出た。


二人は揃って楽しそうだ。

絶対この反応に慣れてる。


そんな俺の声を聞いて、ノエルとフィーネがこっちへやってきた。


「シンゴさん。どうしたの? そんな大きな声をあげて」


「……大丈夫ですか……?」


俺はたぶん、かなり興奮した顔で言ったと思う。


「このにんともさん! 俺が初配信の時にめちゃくちゃお世話になった人なんだよ!」

「まさかこんなところで会うなんて!!」


ノエルが少し驚いた顔をして、それからしみじみ言う。


「へー。人の縁って不思議よね。会わなければいけない人には、どこかで必ず会う気がするわ」


フィーネはこくこく頷いている。


「紹介します。天使のノエルと、エルフのフィーネです」


ノエルが、いつものように少し胸を張る。


「ノエル・セラフィアよ。よろしくね」


フィーネも、ぺこりと頭を下げた。


「……フィーネ・エルセリアです……よろしくお願いします……」


にんともさんとかんともさんも、丁寧に頭を下げる。


「これはこれはご丁寧にありがとうございます。にんともです」


「かんともです。よろしくお願いします」


少しだけ、そのまま歓談になった。


「しかし、本当に配信のまんまですね」


にんともさんが笑う。


「シンゴさん、画面越しだともっと落ち着いて見えました」


「いやいや、落ち着いてる方だと思うんですけど」


「さっきの“ええええええ!”は、だいぶ素でしたよ」


かんともさんにそう言われて、俺はちょっとだけ恥ずかしくなった。


ノエルは面白そうに横から口を挟む。


「シンゴさん、こういう時わりと素直に驚くのよ」


「余計なこと言うな」


フィーネは小さく笑っている。


にんともさんがノエルとフィーネを見て、感心したように言う。


「それにしても、噂以上ですね。近くで見ると、本当にすごいです」


「ふふん。もっと褒めてもいいのよ」


ノエルが調子に乗る。


「……ありがとうございます……」


フィーネは少し照れながら耳を下げた。


そんなふうに話していると、休憩時間は本当にあっという間だった。


「そろそろ時間だ」


部屋のどこかで、誰かが言った。


俺は立ち上がる。


「おっと。じゃあ行きましょうか。後半戦もよろしくお願いします」


そう言って、にんともさんのパーティメンバーに軽く頭を下げる。


「こちらこそ」


「今度はもっと派手なの、期待してます」


かんともさんが笑う。


「そっちはそっちで、後ろお願いします」


「任せてください」


短い言葉だったが、それで十分だった。


休憩は終わり。

地上の空気も、温かいお茶も、ここまでだ。


次にゲートをくぐったら、もう後戻りはできない。


四本腕の悪魔。

まだ残っている救助者たち。

そして、どこで何が起きてもおかしくない下層。


一時間前より、状況は分かっている。

だからこそ、怖さも増していた。


それでも、行く。


後半戦が始まる。

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