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第4話 初ドロップが神話級――初心者の装備じゃない鎧が出た

しばらく、その場に座り込んでいた。


「……はぁ……」


ダンジョンの冷たい空気が、やけに気持ちいい。


さっきの熱はもう引いている。


むしろ。


体が軽い。


異様なくらい軽い。


「……なんだこれ」


試しに立ち上がる。


さっきまでバット振って息切れしてたのに、ほとんど疲れていない。


腕も、脚も、妙にスムーズに動く。


RPGで言うなら。


レベルアップ音が脳内で鳴ったあとみたいな感覚。


「……気のせい、か?」


そう自分に言い聞かせる。


いや、ダンジョン来て三十分でレベルアップとかあるわけないだろ。


ゲームじゃあるまいし。


「……ん?」


ヘッドライトの光が、床の端で反射した。


キラッ、と。


「……あれ?」


さっきスライムが消えた場所。


そこに、小さな光が落ちている。


配信画面のコメントが流れた。


@にんとも

『あ、ドロップしてますよ、シンゴさん』


――シンゴ。

画面の左上に表示されている、俺の配信者名だ。


『シンゴ』


さっき勢いで付けた。

下の名前だけ、カタカナにしただけのやつ。


本名を丸ごと出すのはちょっと気が引けたし、何より考えるのが面倒だった。


「ドロップ?」


近づいてしゃがみ込む。


そこには――


胸当てのようなものが転がっていた。


銀色。


ミスリルみたいに淡く輝いている。


「……防具?」


手に取る。


軽い。


見た目は金属なのに、アルミのように軽い。


「え、なにこれ」


コスプレ用の小道具みたいな軽さだ。


ひっくり返したり、叩いたりしてみる。


コンコン、と澄んだ音。


どう見ても本物。


「装備、ってことだよな……?」


周囲を見回す。


もちろん説明書なんてない。


「まあ、パーカーよりはマシか」


俺は苦笑して、パーカーの上から胸当てを装着した。


カチャ、と自然に体にフィットする。


サイズ調整もしてないのに、やけにしっくりくる。


「……軽っ」


思わず声が出た。


着けてないみたいだ。


なのに。


なんというか。


守られてる感じがすごい。


根拠はゼロだけど。


「RPGでいう“序盤に拾うちょっといい装備”って感じだな」


そう言って笑う。


完全にゲーム脳だ。


コメントが流れる。


@にんとも

『その装備、見たことないですね……』


「え、そうなんですか?」


@にんとも

『キングはぐれミスリルスライムのドロップとか、聞いたことないですし……レア装備かもしれません』


「へぇ……ラッキーだな俺」


本日二回目の「ラッキー」。


なんか今日、やたら運いいな。


――と。


コメント欄に、もう一つ流れた。


@にんとも

『もしよかったらなんですが、さっきのスライム戦を切り抜き動画にしても良いでしょうか?』

『もちろん、シンゴさんのページリンクも貼ります』


「……切り抜き?」


言葉は知ってるけど、まさか自分がやってもらう側になるとは思ってなかった。


ただのおじさんが必死にバット振ってただけだぞ?


「えっと……あ、はい。全然どうぞ。むしろお願いします」


@にんとも

『ありがとうございます!投稿したらリンク送りますね』


「助かります。今日、初配信で……さっきまで同接0だったんで」


口に出して、ちょっと苦笑する。


「……一人でも見てくれてるの、めちゃくちゃありがたいです」


本音だった。


ゼロと一は、全然違う。


@にんとも

『応援してます。シンゴさん、頑張ってください』


その短い一文が、やけに胸に響いた。


「……はい。頑張ります」


思わず、ちゃんと頭を下げた。


誰も見てないかもしれないのに。


いや、一人は見てるんだよな。


少しだけ、背筋が伸びた気がした。


そんな空気のまま、コメントが続く。


@にんとも

『もしよかったら、あとで鑑定とかしても面白いと思いますよ』


「鑑定?」


@にんとも

『ダンジョン協会のアプリで簡易鑑定できます。配信者だいたいやってます』


「へぇー!」


思わず感心した。


一人視聴者なのに、めちゃくちゃ有益な情報くれる。


「ありがとうございます。助かります。俺ほんと初心者で……」


言いながら、なんだかちょっと嬉しくなった。


会社では、教える側だった。


後輩に仕様説明して、バグの直し方教えて。


でも今は。


知らない誰かに、教えてもらっている。


それが、なんか新鮮で。


悪くない。


「よし」


バットを握り直す。


胸当てを軽く叩く。


コン、と乾いた音。


「なんか、RPGの最初の装備揃った感あるな」


ちょっと笑う。


さっきまで無職になって落ち込んでたのに。


今は。


普通にワクワクしている。


「……もう少し, 奥まで行ってみますか」


ヘッドライトの光を前へ向ける。


未知の通路は、まだ続いている。


もしかしたら。


まだ何かあるかもしれない。


宝箱とか。


レア敵とか。


「テストプレイ、続行っと」


俺は鼻歌まじりに、ゆっくりと奥へ歩き出した。


その数分後。


この軽い気持ちのまま、


“初心者が絶対に遭遇してはいけない存在”と鉢合わせることになるとは。


この時の俺は、まだ知る由もなかった。

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