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第36話 協会からの指名依頼――特別危険ダンジョンへ向かう決意

スマホに届いたメールを、俺はしばらく無言で見つめていた。


画面には、協会からの通知。


【浦安ダンジョン攻略レイドに参加要請に関して】


テレビでは、まだ緊急速報が流れ続けている。

封鎖線。

赤色灯。

慌ただしく動く協会職員。

そして、進入した十パーティ五十名と連絡が取れていないという、重すぎる事実。


俺は一度だけ息を吐いて、意を決してメールを開いた。



シンゴ 様


平素より、ダンジョン協会の活動にご理解とご協力を賜り、誠にありがとうございます。

ダンジョン協会・危機対応課でございます。


このたび、千葉県浦安市内に新規出現したダンジョンにつきまして、協会規定に基づく危険度審査の結果、当該ダンジョンは「特別危険ダンジョン」に指定されましたので、ご連絡申し上げます。


現在、当該ダンジョンには先行して進入した探索者計10パーティ・50名が入ダンしておりますが、現時点において協会との通信はすべて途絶しており、所在確認ができておりません。


当協会では事態を重大かつ緊急性の高いものと判断し、関東圏において一定以上の実績を有する探索者に対し、攻略レイドへの参加要請を行っております。


シンゴ様におかれましては、直近の探索実績、危険ダンジョンにおける対応能力、ならびに高難度個体への対処実績を踏まえ、今回の攻略レイド参加候補者として選定させていただきました。


つきましては、下記概要をご確認のうえ、参加の可否につきご回答くださいますようお願い申し上げます。


【レイド概要】

■ 件名:浦安新規出現ダンジョン 緊急攻略レイド

■ 指定区分:特別危険ダンジョン

■ 目的:

・先行進入探索者の救助、安否確認

・当該ダンジョンの階層調査および危険因子の排除

・必要に応じたダンジョンコアの制圧・封鎖措置


【集合情報】

■ 集合日時:明日 午前7時30分

■ 集合場所:浦安ダンジョン協会臨時対策本部(現地封鎖区域外・北側特設会場)

■ 持参推奨:戦闘装備一式、身分証明書


【報酬・補償】

■ 本件参加者には、協会規定に基づく特別危険任務手当を支給いたします。

■ 任務中に発生した損耗品・装備破損については、協会所定基準に基づき別途補償審査を行います。

■ 討伐成果物・回収物の取り扱いについては、現地ブリーフィング時に説明いたします。


【回答期限】

本通知受領後、本日24時までに参加可否をご返信ください。

なお、緊急案件につき、期限までにご返信が確認できない場合、辞退扱いとさせていただく場合がございます。



「長いわね」


案の定、最初にそう言ったのはノエルだった。


ソファに座ったまま、さっきまでの緊急速報よりも俺の顔色を見ている。

長文を読む気は最初からなかったらしい。


「シンゴさん。要するにどういうこと?」


俺はメール画面を閉じて、簡潔にまとめた。


「要するに、ダンジョン協会から『浦安ダンジョンが危険なので、行方不明者の救助とダンジョン探索・攻略を手伝ってくれ』って依頼だな」


「ふーん」


ノエルはテレビへ一度だけ目をやって、それから俺を見た。


「で、シンゴさんどうするの?」


その問いに、俺はすぐ答えられなかった。


危険なのは間違いない。

先に入った十パーティ、五十人と通信が途絶している。

普通に考えれば、飛び込むような案件じゃない。


でも。


「……五十人もの人が行方不明ってのが、やっぱり引っかかる」


口に出すと、自分の中でもはっきりした。


「俺にできることがあるのに行かなかったら、たぶんずっと後悔する」


リビングが、少し静かになった。


ノエルはふざけない。

フィーネも、じっと俺の方を見ている。


俺は二人を見た。


「ノエル。フィーネ。危険があるのは分かってる。それでも、一緒に来てくれないか?」


ノエルは一瞬だけきょとんとして、それから呆れたみたいに肩をすくめた。


「ふふん。なによ、改まって」


そして、いつもの調子で胸を張る。


「私たち、仲間でしょ? シンゴさんが行くなら、行くに決まってるじゃない」


そのまま、ぐっと親指を立てる。


「天才天使におまかせよ!」


……助かる。


フィーネも、少しだけ緊張した顔で前へ出た。


でも、その目はちゃんとまっすぐだった。


「……私も、シンゴさんが行くなら付いていきます……! 少しでも、お役に立ちたいです……!」


怖くないわけじゃない。

それでも言ってくれたんだろう。


ノエルも、フィーネも。


「ありがとう」


俺は素直にそう言った。


「二人がいてくれるなら、たぶん俺はちゃんと前を向ける。今回も、絶対に一人じゃ無理だ。だから、本当に助かる」


ノエルは「ふふん」と鼻を鳴らして笑う。

フィーネは顔を赤くしながら、でも嬉しそうにうなずいた。


その反応に、少しだけ肩の力が抜ける。


よし。


もう迷う理由はない。


俺はスマホを操作して、協会への返信画面を開いた。


参加――と入力する。


短い文面なのに、送信ボタンを押す指は妙に重かった。

でも、押した。


送信完了。


それで決まりだ。


明日、俺たちは浦安へ行く。



「明日、早くに出発する。みんな準備をしよう」


そう言うと、部屋の空気がはっきり変わった。


さっきまでの和やかな空気は、もうない。

《跳空のブーツ》の訓練だとか、爆発鉱石の矢だとか、そういう“強くなる準備”の時間は終わった。


ここから先は、本番だ。


テレビではまだ、浦安ダンジョンの特番が続いていた。

赤いテロップが画面の下を流れ続ける。


【特別危険ダンジョン】

【十パーティ五十名と連絡途絶】


その文字列が、嫌でも現実感を連れてくる。


明日は、今までの“攻略配信”とは違う。

ただ稼ぐためでも、バズるためでもない。


救助と、生還と、制圧。

それが目的の戦場だ。


俺は装備の確認を終えて、静かに立ち上がった。


和やかだった部屋は、もう完全に次の戦場の空気になっていた。


明日の朝、俺たちは浦安へ向かう。

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