第33話 宝箱に触れたら全起動――でも巨像の足はもうなかった
ノエルとフィーネには、扉の外で待機してもらう。
俺は一人、部屋の中央へ向かった。
目の前には宝箱。
背後には、つっかえ役の宝箱を挟んだ半開きの扉。
その向こうには、ノエルとフィーネ。
準備はした。
巨像のすねも壊した。
退路も確保した。
あとは――答え合わせだ。
「じゃあ、いくぞー」
「オッケー!」
「……はい……!」
二人の返事を背に、俺は周囲を警戒しながら宝箱へ近づく。
石像は動かない。
まだ、ただの石だ。
俺は右手に《破甲のメイス》を持ったまま、左手で宝箱に軽く触れた。
その瞬間だった。
バタンッ!
まず、背後の扉が勢いよく閉まろうとした。
だが――閉まりきらない。
つっかえに置いた宝箱が、左右の門をきっちり受け止めていた。
「シンゴさんー! 扉オッケーよ! 閉まりきらないわ!」
背後からノエルの声が飛ぶ。
俺は前を見たまま、軽く右手のメイスを持ち上げた。
返事の代わりだ。
目は、前の石像から一瞬も外さない。
次の瞬間。
五体の石像の目が、一斉に赤く光った。
ぞわり、とした。
あの空洞めいた目に赤い光が灯っただけで、石の塊が生き物に見えてくる。
しかも――笑った。
五体そろって、口角が不気味に吊り上がる。
激しく、邪悪に、にやりと。
「うわ、趣味悪っ」
思わず本音が漏れた、その直後。
ズゴゴゴゴゴ……!
巨像たちの体勢が崩れた。
足元を失ったまま前のめりになる。
ドゴン!
ズドン!
一体、また一体と、凄まじい音を立てて床へ倒れ込む。
五体すべてが、すねから下を失った状態で転倒した。
コメント欄が一気に爆発した。
『うおおおおおお!!』
『足破壊めっちゃ効いてる!!』
『正解きたあああ!』
『事前準備が刺さりすぎだろ!』
『ゲーム脳つええええ』
『これ気持ちよすぎる!!』
「いまだ!」
俺は一番近くで頭を床につけた巨像へ走った。
その背後で、ノエルの声が響く。
「《多層聖界・プリズムウォール》!」
床、壁、天井に光の紋様が走る。
退路が確保できたのを確認したノエルとフィーネが部屋へ入り、支援の位置についた。
これで三人の陣形が完成する。
「うぉぉぉ!」
俺は叫びながら、巨像の頭へメイスを振り下ろした。
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
自分の身長ほどもある頭部に、三発叩き込む。
石が欠ける。
ひびが走る。
だが、そこで巨像が動いた。
両手を床につき、上体を起こそうとする。
来る。
その瞬間。
「……スネア!」
フィーネの呪文が飛ぶ。
地面から伸びた土の力が、起き上がろうとした巨像の右腕へ絡みついた。
支えを失った巨像の体勢が崩れる。
ドゴンッ!!
頭が再び床へ叩きつけられた。
「ナイス! フィーネ!」
俺はその隙を逃さない。
ゴイン!
ゴイン!
ピシィッ!
頭部に大きな亀裂が走る。
「もらった!」
ゴイン!
バゴォンッ!!
石の頭が砕け散った。
その瞬間、巨像全体が光の粒になって弾け、消滅する。
『一体目撃破あああ!!』
『うますぎる!』
『フィーネのスネア神』
『頭割った!!』
『連携えぐい!!』
まだ四体いる。
次だ。
二体目は少し離れた位置で、四つん這いのまま腕を払ってきた。
横薙ぎに巨大な石腕が来る。
「っ!」
俺は大きくステップを踏んでかわす。
石腕が通り過ぎた瞬間、もう一本の支え腕が前へ出る。
「……スネア!」
そこをフィーネが絡め取る。
巨像の体勢が傾く。
「よし!」
俺は前へ出て、床についていた手首へメイスを叩き込んだ。
ゴイン!
さらにもう一発。
ゴイン!
支えの手が砕ける。
頭が沈む。
そこへ頭部へ回り込んで――
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
数発で頭を割る。
光の粒になって消滅。
三体目、四体目も同じだ。
石像の攻撃は単純だった。
四つん這いで体を支えながら、腕を払うように振るってくる。
一発の威力は高いが、モーションが大きい。
かわす。
支え腕を《スネア》で止める。
支点を失わせる。
手を砕く。
頭を床につける。
頭部を破壊する。
攻略手順が見えれば、あとは実行するだけだ。
「右、来る!」
「……はい……!」
「そこ!」
ゴイン!
ゴイン!
「今だ、フィーネ!」
「……スネア!」
ドゴンッ!
「よし!」
巨像が一体ずつ、確実に光になって消えていく。
だが、さすがに連続で動き続けると息が上がる。
腕も重い。
足も鈍る。
そのとき、背中にやわらかな光が落ちた。
「疲労回復・キュアエグゾーション!」
ノエルの疲労回復魔法だ。
身体が、ふっと軽くなる。
「サンキュー! ノエル!」
「天才天使におまかせよ!」
助かる。
そのまま五体目へ突っ込む。
最後の一体は、一番執念深かった。
片腕を壊しても、残った腕だけで強引に這ってこようとする。
赤い目がぎらついて、床を削りながら迫ってくる。
「しぶといな!」
払ってきた腕をかわし、横へ回る。
「……スネア!」
残った支え腕が土に絡め取られる。
巨像がついに前のめりに崩れた。
今だ。
俺は頭部の正面へ立ち、《破甲のメイス》を振りかぶる。
ゴイン!
ゴイン!
ゴイン!
ひび。
もう一発。
ゴイン!!
バゴォンッ!!
頭が砕け、最後の巨像も光の粒になって消えた。
◆
全部の石像がなくなったあと、部屋に静寂が広がった。
さっきまで響いていた打撃音も、石の崩れる轟音も、もうない。
残っているのは、俺の荒い呼吸だけだ。
「……はぁ、はぁ……っ」
コメント欄は逆に、静かどころか大騒ぎだった。
『うおおおおおおおお!!!』
『全破壊きたあああ!!』
『勝ったあああああ!!』
『連携完璧すぎる』
『シンゴノエルフィーネ強すぎ』
『攻略美しすぎるだろ』
『これ神回だわ』
『準備で勝つの気持ちよすぎる』
「お疲れー!」
ノエルが明るい声を上げながら近づいてくる。
「……お疲れ様です……!」
フィーネもその後ろから、小走りで寄ってきた。
「ノエルもフィーネもお疲れ! いい連携だった!」
そう言うと、ノエルがにっと笑う。
「でしょ? 私の結界も回復も完璧だったわ!」
フィーネも、少し照れながら、でも嬉しそうに頷いた。
「……はい……すごく、うまくいきました……」
ノエルは得意げ。
フィーネはほっとした顔。
俺も、自然と笑っていた。
三人で同じ部屋に立って、同じ戦いを越えて、同じ達成感を味わっている。
それだけで、なんかいい。
部屋の中央には、まだ宝箱が残っていた。
静かな巨像部屋の真ん中で、それだけが何事もなかったみたいに鎮座している。
答え合わせは、まだ終わっていない。
【フォローで更新通知が届きます】
★評価・ハート・ブックマークで応援いただけると、めちゃくちゃ励みになります!




