第17話:ダンジョン協会本部で天使を登録――天災天使、面接でもドヤる
次の日。
朝の光が、でかい窓から差し込んでくる。
要塞みたいなマンションでも、朝だけはちゃんと日常だ。
俺はキッチンで食パンを焼いて、皿に乗せた。
ノエルは当然のように席に座り、焼きたてを頬張っている。
「……今日、街に出かけるぞ」
「なーに。買い物?」
ノエルがパンをほおばりながら言う。
口の端にパンくずがついてるのに、本人は気づいてない。
「そうだな。ノエルの服やら歯ブラシなんかの生活必需品を買わないといけないし、
その前に――異世界人の保護申請をダンジョン協会で申し込みをしなければいけない」
「保護申請ね」
ノエルは、得意げに顎を上げた。
「たしか。保護する異世界人が危険ではないか、とか。
異世界人がその人に保護されるのを望んでいるのか、とか。
あとは異世界人の登録だったりだったかしら?」
「……お前詳しいな」
素直に関心する。
「ふふん。当たり前よ。ちゃっちゃとすましちゃいましょ」
頼もしい……と言いたいけど。
「そうなんだが」
「どうかしたの?」
俺は食パンをちぎりながら言った。
「ただでさえ、俺が最近目立っているんだ。
それに……天使なんか連れていたらどうなると思う?」
ノエルは一瞬考えて、にやっとする。
「大注目されて、囲まれて、しっちゃかめっちゃかね」
「そうだ。移動もままならない。どうしたもんだか」
「ふふん」
ノエルが得意げに笑った。
「この天才天使に任せておきなさい。《認識阻害結界》をかけてあげるわ」
「認識……阻害?」
「透明になるわけじゃないわ。音も消えない。気配もゼロにはならない。
でもね――“気にしなくなる”の」
ノエルはパンを指でちょん、と押して、説明を続ける。
「視界には入ってる。耳にも届いてる。
けれど脳が『重要じゃない』って判断するのよ。
結果、見落とす。流す。記憶にも残りにくい」
「……すげぇ」
「ただし、派手なことをしたらバレるわ。
大声とか、走るとか、騒ぐとか。『目立つ行動』はさすがに反応される」
「なるほど。地味に動けってことか」
「そう。上手に使えば、最高」
「おお!いいなそれ!まさに今一番必要と言ってもいいくらいだ」
「ふふん。もっと褒めてくれてもいいのよ」
「先にダンジョン協会に行くから、その魔法はその後にかけてくれ」
「おっけー」
◆
向かうのは赤坂。ダンジョン協会の本部ビル。
移動は例によってタクシーだ。外を歩く距離を、極限まで減らす。
ビルは遠目でも分かる。
ガラス張りで、角が立っていて、無駄がない。
入口の上に大きく「ダンジョン協会」のロゴ。
警備員が二人、立ち姿だけで“強い”。
中に入ると、空調がきちんと冷えていて、受付が広い。
壁には各地ダンジョンのモニターが並び、ニュースのように更新されている。
“現代の冒険”を管理するための場所――そんな感じだ。
そして。
ノエルが一歩入った瞬間。
視線が、集まった。
ざわ。
「……天使?」みたいな小声がどこかで漏れる。
足が止まる人が出る。スマホを取り出しかける人もいる。
ノエルは、それを見て満足そうに胸を張った。
「ふふん」
やめろ、煽るな。
俺は無言で受付の番号機へ向かい、手続きを取った。
紙が出る。
【27番】
「番号、二十七ね」
「読めてる」
待合スペースで座って待つ。
十分ほど。長いようで短い。
周囲の視線は相変わらず刺さる。
ノエルは刺さってるほど機嫌がいい。
「現世、私の価値が分かる人が多いのね」
「分かってるんじゃなくて、珍しいだけだ」
「同じよ」
違う。
◆
「27番の方」
番号が呼ばれ、俺たちは個室へ案内された。
応接室より事務的な部屋。
机と椅子、端末、書類。
担当者はスーツ姿の女性で、丁寧だけど目が鋭い。
「本日は、異世界人の保護申請でお間違いないでしょうか」
「はい。昨日、鎌倉ダンジョンの9Fで封印を解除して……この方を保護しました」
「状況を確認させてください」
まず俺の身元確認。
身分証、住所、連絡先。
次に保護した状況の説明。
どこで、どういう経緯で、本人はどう言っているか。
担当がノエルを見た。
「ノエルさん。こちらの方に保護されることは、ご本人の意思でお間違いありませんか」
ノエルはにっこりして、当たり前のように答えた。
「ええ。もちろん。私は天才天使ですもの」
「……意思確認だけお願いします」
「もちろんよ」
担当は一度だけ咳払いして、話を進めた。
「では、ノエルさんには別室で簡単な確認をさせていただきます」
ノエルが立ち上がり、俺に向かって小さく手を振る。
「待ってて、シンゴさん」
……面接だ。絶対に面接。
俺は一人、部屋で待つ。
たぶん保護人に問題ないか。
本人の本当の意向の確認。脅させてないかとか。
危険性。身元。登録。
そのへんを見ているんだろう。
数十分。
扉が開いて、ノエルが戻ってきた。
なぜか得意げだ。
「ふふん」
「……何を言った」
「いかに私が有能かを、少しだけ」
少しだけ、の顔じゃない。
担当者が端末を叩きながら言った。
「では問題ないようですので、ノエルさんの異世界人登録と保護登録を行います。
完了まで少々お待ちください。名前が呼ばれるまで、広間でお待ちください」
「はい」
広間に戻ると、やっぱり注目される。
そしてノエルは、やっぱり楽しそうだ。
やれやれ。
◆
「シンゴ様」
思わず肩が跳ねた。
……そうだ。ここは本名じゃなく、協会に登録してある“配信者名”で呼ばれるんだった。
この瞬間だけ、ちょっと安心する。
「はい」
担当のところへ行く。
「ノエルさんの異世界人登録、および保護登録は完了しました。
ダンジョン協会アプリにも通知が届いていると思います」
スマホがぴこん、と鳴る。
【異世界人登録:ノエル・セラフィア】
【保護登録:完了】
「……よし」
一旦、安心だ。
ノエルが胸を張る。
「ふふん。現世がこのノエルを必要としていることが認められたみたいね」
「……登録が終わっただけだ」
「同じよ」
違う。
でもまあ、本人が満足してるならいいか。
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