第13話 鎌倉ダンジョン初攻略配信――MAP120万で最短7F、閉ざされた岩扉を一閃した
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翌日。
昼前の静けさの中で、インターホンが鳴った。
「……来たか」
玄関を開けると、段ボールがいくつか積まれている。
昨日の夜、アマザン通販サイトで注文したものだ。
カッターでテープを切る。
出てきたのは――
・サイズを可変させて大きくできる丈夫なリュック
・耐熱、耐水のダンジョン探索用のシューズ
・50cm~2mまで伸縮自在の金属製のピッケル
・水筒
「……いいね」
リュックは、縫い目が分厚い。ベルトも硬い。
雑に扱っても裂けない“仕事道具”の顔をしてる。
シューズは、触っただけで分かる。
ゴムが厚い。ソールが硬い。防水の縫製も丁寧だ。
「耐熱と耐水の靴って、便利っていうか……命だな」
床が濡れて滑ったら終わる。
熱で靴底が逝くだけで終わる。
派手な装備より、こういうのが一番効く。
ピッケルはカチ、カチと伸びる。
50cmから――1m――2m。
「滑落停止、罠探査、段差の登り……これ一本で助かる場面、普通にある」
俺は軽く振ってみる。
しなる気配がない。いい。
準備を整える。
パーカーを着る。
その上から、銀色の鎧を――カチリ、と固定する。
慣れた手つきで肩と脇の留め具を締めると、体に吸い付くように馴染んだ。
剣は、鞘ごとベルトに固定。
歩いても揺れない位置に通して、最後にバックルを締める。
「……よし」
――今日は、“最先端”に行く。
まだ攻略されてない場所。
まだ最深部に誰も到達してない場所。
配信を続けるなら、そこだ。
◆
昼過ぎ。
俺はタクシーに乗り込んだ。
顔バレを避けるためでもあるし、単純に楽だからでもある。
行き先は――鎌倉。
「鎌倉神社に出現したダンジョン」。
出現は一か月前。現在地下6Fまで攻略済。
でも、最深部到達者はまだいない。
初攻略。
それを、配信で流す。
タクシーが走り出す。
車内でスマホを開いて、協会アプリを立ち上げた。
鎌倉ダンジョンの情報をもう一回見る。
各階の広さは、東京ドーム級。
中規模レベルって書いてあるけど、普通にデカい。
そして――
「1~6FのMAP、売買されてるのか」
一覧を見て、俺は変な声が出た。
「……120万! 高っ!」
評価トップのやつ。
タイトルは《鎌倉ダンジョン1~6Fコンプ》。
でも――冷静に考える。
すでに他の配信者の動画で出回っている場所を、わざわざ同じように配信してもな。
それに、最前線ダンジョンで“迷って時間を溶かす”のが一番もったいない。
……金はある。時間はもったいない。
「……買うか」
タップ。
決済完了。
胸の奥が、ちくっと痛む。
「120万で地図を買う人生……」
でも、買って正解だった。
見た瞬間に分かる。
このダンジョン、性格が悪い。
1F、入ってすぐ二又。
片方はダミーなのに、ぐるっと周囲を回らせる。
その途中にも複数箇所で分かれ道がある。
正解ルートも、楽じゃない。
分岐を何度も通して、最後は小部屋の“暖炉”に下りの梯子。
「……ねちっこい」
次の階は、“順番に入らないと正解の扉が開かない”タイプ。
さらに次は、“ある場所のスイッチで、はるか遠くの扉が開く”タイプ。
「これは、いやらしい……」
何も情報が無かったら、正直一度の配信で1階も無理だっただろう。
先人の知恵に感謝しよう。
◆
タクシーが目的地に着いた。
料金は27,000円。
「領収書ください」
受け取って、財布に入れる。
億を持ってても、こういうところは変わらない。
無駄を雑にすると、頭が雑になる。
◆
鎌倉ダンジョンの入口は、浅草と全然違った。
入口の周囲には建物が建てられていて、警備が厳重だ。
いたずら半分で入られないように。
……いや、ここは本当に危ないんだろう。
中に入ると、パーティが数組いる。
明らかに配信者っぽい装備と雰囲気。
俺に気づいたのか、ひそひそ声が混じる。
……まあ、気にしない。
受付へ向かう。
「入ダン料は、お一人十万円です」
「高いですね」
俺が言うと、受付は淡々と説明した。
・気軽に入れないようにするため。
・ダンジョン内で入手したものは基本、その人のものになるため。
・入る時に協会アプリで入ダン登録が必須。
そして、もうひとつ。
「同じ場所で一定時間以上、動きが確認できない場合は救助隊が入ります。救助要請を受けた場合、救助費用は一律五十万円です」
「……救助は別料金なんですね」
「はい。ですが、命に関わる可能性がありますので」
「……なるほど」
十万円は“入口の料金”。
五十万円は“命の保険”。
そういう現実だ。
支払い。登録。確認。
スマホ画面にチェックインの表示が出る。
【鎌倉ダンジョン 入ダン登録:完了】
「……よし」
深呼吸。
そして、配信用スマホを構える。
【配信開始】
「こんにちは、シンゴです。今日は鎌倉ダンジョンに来ています」
コメントが流れる。
『鎌倉きた!』
『本命ダンジョンじゃん』
『最深部まだのやつ!?』
『初到達いくの?』
『シンゴ今日も行くのかw』
「狙います。行けるところまで」
俺は軽く笑う。
「……まあいけるか、で」
『それが一番怖い』
『合言葉きたw』
入口をくぐる。
◆
1F。
MAPを開きながら進む。
「1F入ってすぐ二又。こういうの、片方ダミーで回り道させるやつね」
『解説が生々しいw』
『設計者の悪口やめろw』
『分かりすぎて怖い』
俺は解説を交えつつ、分岐を迷わず切り捨てていく。
ダミーの周回も、意味のない小部屋も、全部スルー。
暖炉の部屋に到達。
「ほら、ここ。下り梯子」
2F。
順番ギミックの階。
「これ、扉の条件フラグ順番だな。逆から行くと開かない」
3F。
「遠隔スイッチで扉開ける階。押した場所と扉が遠い。いやらしい」
4F、5F、6F。
とにかく最短。
途中でスケルトンが出る。
「……邪魔」
一歩踏み込む。
スパッ。
骨が崩れて、霧散した。
『処理早っ』
『今の何した?』
『シンゴ、雑魚に容赦ないw』
二回目、三回目も同じ。
止まらない。
「今は、戦闘より導線」
そして――
7F到達。
「……着いた」
時間にして、三十分。
コメントが一気に跳ねた。
『マジで7F来た!!』
『早すぎwww』
『ここから未踏破だぞ』
『シンゴ、ここからが本番』
「……そうだな」
俺は階段の先へ足を進めた。
◆
正面に、いきなり岩でできた扉があった。
固く閉ざされている。
左右に通路が続いている。
「……あー、はいはい」
俺は扉を見上げる。
「このダンジョン、性格悪いな」
『扉デカすぎ』
『左右通路あるの嫌だ』
『ギミック確定w』
『うわ、往復させるやつだこれ』
俺は左右の通路に視線を走らせる。
「このいきなりの閉ざされた扉……たぶんだけど」
指で空中に線を引く。
「Aの場所に行って1のボタンを押すと、Bの扉が開く。
その先の2のボタンを押すと、Cの扉が開く。
……それを繰り返した最後に、ようやくこの入口の扉が開く仕組み。たぶん」
――ゲームで何度も作った。
プレイ時間を延ばすための仕組み。
長い距離を歩かせ、戦闘させて、レベルアップさせるための道のり。
現実でやらされると、ただ面倒なだけだ。
『当たりそうで草』
『現実でやるなwww』
『シンゴの開発者読み怖い』
『でもそれっぽい』
俺は、扉の前に立って小さく息を吐いた。
「昔から思ってたんだよね」
扉の岩肌に指先を当てる。冷たい。
「ゲームでは行けそうなのに行けなくて、わざわざ回り道して、ようやく行ける場所ってあるじゃん」
俺は腰の剣に手をかけた。
「実際にあったら――そこ、ショートカットできないものかな、って」
『え?』
『まさかw』
『いやいやw』
『シンゴそれは無理だろw』
剣を抜く。
銀色の刃が淡く光る。
――この剣の性能で、気になっていた項目があった。
『結界特効』。
でも――その“結界”の解釈を、もう少し広げたらどうだ。
今回みたいに、
『魔力によって防がれていて、魔力によって開閉する』
こういう場所も、一種の結界じゃないのか?
なにごとも未知だ。
試してみる価値はある。
俺は扉の中心を見据え、息を吸った。
『おいおい……』
『マジでやるの?』
『いや無理だろw』
次の瞬間。
一閃。
ズァン――ッ。
斬撃の線に沿って、岩扉全体が一瞬だけ光った。
そして、光がバラバラと散っていく。
ゴゴ……ズシン!!
岩扉の上、三分の一が重い音を立てて落ちた。
粉塵が舞い、岩片が転がる。
開いた。
コメントが爆発した。
『え?????』
『マジで!?!?』
『開いた!!!!』
『ショートカット通したwww』
『鎌倉ダンジョン壊れたwww』
『シンゴ、やっていいことと悪いことがあるw』
俺は、粉塵の向こうを覗く。
奥から、冷たい空気が吹き出してくる。
暗い。深い。“下”の匂い。
「……回り道、いらないじゃん」
小さく笑って、いつもの言葉を落とす。
「……まあいけるか」
俺は一歩、暗闇へ足を踏み入れた。




